頭痛肩こり樋口一葉

2003年6月7日(土)鳴門市民劇場例会

ものがたり みどころ 井上ひさしによる前口上 作品についてのリンク
配役 スタッフ 有森也美インタビュー 新橋耐子インタビュー 上演予定
頭痛肩こり樋口一葉のちらし

頭痛肩こり樋口一葉

こまつ座第70回公演

ものがたり

舞台1 明治のなかば。

樋口の家は貧しかった。

母の多喜は嘆いていた。百姓出の亭主を侍に仕立て上げようと江戸へ駆落ちしたものの、御瓦解を境に坂道を転がり落ちるよう、女だけが残されて、売り喰い、内職、借家住い。

こんなことならいっそ亭主と一緒にはかなくなればよかった。

妹の邦子は耐えていた。針仕事に精を出し、せっせと浴衣を仕立てて一家の暮しを支えていた。

戸主の夏子の肩には、母の嘆きと妹の苦労が重たくのしかかっていた。

昔馴染みの人びとが次々に落ちぶれてゆくのもつらい。世の中がまるで、あれもだめこれもするな、と云っている。……ただ墨を擦り筆を動かすためだけに身体をこの世に置いてある、そう心を決めて、この世に執着するのをやめたとき、冥界から迷える魂があらわれた。

もつれよじれた因縁の糸を必死に手繰る幽霊と、たがいに心を通じ合い、手繰った糸のその先に、明治の天才女流作家一葉樋口夏子のみたものは? 舞台2

ものがたりのとき

明治23年(1890)樋口夏子19才のとき盂蘭盆(うらぼん)から、明治31年(1898)の彼女の母の多喜の新盆まで。場面は一つの例外を除いて、いずれもそれぞれの年の盆の16日。時刻は例外なく夕方から夜にかけて。

みどころ

こまつ座の旗揚げを飾った記念すべき作品として、500ステージを誇る最大の人気作。

井上作品らしい、奇想天外な着想、登場人物それぞれが主役のように生き生きと描かれる上、言葉遊びの巧みさ、笑いの奥深さ、さらにどう落ち着くか解らないどんでん返し。

美しい女優6人の競演を、どうぞお楽しみに!!

井上ひさしによる前口上

「The座」1996年4月より抜粋

−略−

この作品は一葉女史が、「その死の数年前から、自分で自分に戒名を付けていた」という事実をうんとふくらまして、それを劇の原動力にしていますが。この「戒名事件」もおそらく一葉女史の「病」から発しているのでしょう。

−略−

こんなわけで、死を前にしたときに自分はほんとうに愛するものがあるのかどうか、あれば救われ、なければ地獄、と言うことを一葉女史の生涯はわたしたちに語ってくれているように思われます。

−略−


作品についてのリンク

頭痛肩こり樋口一葉
金沢市民劇場 1996年6月公演の感想
 
こまつ座第53回公演「頭痛肩こり樋口一葉」
演劇◎定点カメラ 1999年7月公演の感想
 
頭痛肩こり樋口一葉
本好き鉄ちゃんの自己紹介コーナー 1999年7月公演の感想
 
樋口一葉ひぐち‐いちよう
頭痛大学ホームページ 樋口一葉の頭痛肩こりの考察ページ
 
頭痛肩こり樋口一葉
八戸市民劇場 1999年6月公演のあらすじ
 

配役

大塚道子 樋口多喜(一葉の母) 大塚道子 (おおつか・みちこ)
有森也美 樋口夏子(一葉) 有森なりみ (ありもり・なりみ)
インタビュー
佐古真弓 樋口邦子(一葉の妹) 佐古真弓 (さこ・まゆみ)
久世星佳 稲葉鑛(もと旗本の娘) 久世星佳 (くぜ・せいか)
椿真由美 中野八重(夏子、邦子の幼なじみ) 椿真由美 (つばき・まゆみ)
写真がないよ、舞台写真の幽霊の人だよ 花螢(幽霊) 新橋耐子 (しんばし・たいこ)
インタビュー

スタッフ

井上ひさし
演出 木村光一
音楽 宇野誠一郎
美術 高田一郎
照明 服部基
音響 深川定次
衣装 岸井克己
振付 小森安雄
歌唱指導 宮本貞子
宣伝美術 安野光雄
舞台監督 増田裕幸
演出助手 山下悟

インタビュー

公演プログラムより

有森也美

舞台3 頭痛、肩こり、胃痛、胸焼け、耳鳴り……。ハハハ、ホントです。これは私。ですから、樋口一葉さんとの共通点は、頭痛肩こり。私の胃痛胸焼け耳鳴りは、おまけかな(笑)。他に共通点はありません。というより、違いの方を強く感じますね。私は一葉さんみたいに屈折していない、どっちかというと単純明快な人間です(笑)。共通点が多いと、演じる時に照れちゃうんですが、逆に違う分だけ思い切ってやれるかもしれませんね。

樋口一葉の名作「たけくらべ」や「六つごもり」を読みました。でも、もう百年も前の文章で擬古文でしょ。うわー、何だこれは(笑)という感じなんですね。「音読すると意味がよくわかる」といわれて声にだして読みました。流れるような美しい文章で、会話もきれいです。でもやっぱりきちんと読めませんでしたね。

前回のこの舞台は見ています。まだ今回の出演が決まっていませんから、すなおに笑ったり泣いたり、ただ楽しんで見ていたんです。でも、見ると演るのとは大違い。この樋口一葉という役は、とってもむずかしいですね。台本を読めば読むほどわからなくなって、理解できないような矛盾も感じます。明治というあの時代に小説を書く、一葉さんの心の中に燃えていたものは何だったのか。考えても考えても見えてこないんです。

私の祖母が亡くなったときにこまつ座の『きらめく星座』を見ました。私はおばあちゃんっ子だったので、気持ちが高ぶっていたのかもしれませんが席をたてないような感動を味わいました。この『頭痛肩こり樋口一葉』にしても、『きらめく星座』にしても、井上作品の舞台には、登場人物それぞれの生命とともに地球の自然が見えてくる。この舞台は、お月さまやホタル。『きらめく星座』は、お星さま。そういう自然の尊さが、人問の生命の尊さに重なってくるんですね。

まして、舞台には人間と人間がぶつかり合う激しさがある。映像には、間にカメラがありフィルム編集があり、そこで役者には計りしれない演出が施されている。舞台には、カメラも編集もない。芝居そのものを客席のお客様が生(なま)でごらんになっている。だから、舞台に立つ前に必死で稽古しな といけないんですね。

一葉さんは、とても自由を求めた人だった気がします。でも、生きたのは不自由が当たり前の明治という時代。とても多くのストレスを抱えていたと思いますね。それも頭痛肩こりの原因だったのかな。私たちが生きているのは自由なはずの現代。でも、違う形でストレスはいっばいある。稽古場で一葉さんをとらえたいんだけど、生と死が一つの舞台の中にあって、その真ん中に一葉さんがいらっしゃる(笑)。とらえるのは至難の技。

私には、これまでで一番むずかしい役ですね。やっぱり、頭痛肩こり。(笑)

 

新橋耐子

舞台4 化けて出る気持ち?

そりゃあ、とっても孤独(笑)。疎外感にさいなまれているんですよ。だって、皆さんは生者、こちらは死者。生者(あちら)の世界に入るには、とてもエネルギーを使うものなんですよ。しかも、これでいいのかしら、もしかしたら違っているのじゃないかしらと悩みだしたらきりがなくて……。それは、何回演(や)っても同じで、絶海の孤島から生者の世界にでかけていくようなものなんですねえ。その疎外感といったら、ほんとうに化けて出たくなっちゃうくらい深いものですよ。(笑)

冒頭に、少女たちが盆の練り歩き唄を歌って登場する場面があるでしょう。座敷わらしみたいなあの場は、死者になるいいトレーニングになっているんですね。私は、東京の神田に生まれて下町かいわいに育ちました。『頭痛肩こり樋口一葉』の舞台になっている本郷菊坂、池之端も湯島も子供のときの遊び場でした。歩いてあっちいったり、こっちいったりしてましたから、科白をいっていると、劇中の地名が生きた感覚で風景になってよみがえってくるんですね。

私ね、稽古場は「小嵐(こあらし)」、劇場は「大嵐(おおあらし)」だと思っているんですよ。一場一場稽古での「小嵐」をくりかえして、初日の「大嵐」を迎える。これってやっぱり役者の醍醐味ですね。その大嵐は、音を発するんじゃなくて、ざわ、ざわ、ざわッときて、大竜巻がくるような感じで渦中にいると鳥肌がたってくるときがある。それは、井上作品にはとくに顕著ですね。そういう意味で、この花螢をやらせていただいてとても仕合わせです。

この『頭痛肩こり樋口一葉』は、女優としてのバイブル(聖典)ですね。いいせりふもたくさんあって、文字通り人生のバイブルになっている。「涙は各自(てんで)に手分けして泣くのがいいのですよ」という一節があるでしょう。私のせりふではないのですが、ふと浮かんでくる言葉がこの戯曲の中にいっぱいあるんですよ。ですから、この芝居をやっていることが、女優としてくじけそうなときのテコになっているような気がします。

それに演出の木村先生の力がなんといっても大きいですね。登場人物の私たちに息を吹き込んで、舞台上の生命を与えてくれる神の手ですから。

そして、共演者の皆さんのほかに、多くのスタッフがいる。助け合い、欲も得もない。いい芝居をつくろう。たったこれだけですから。宗教ではないけれども、みんな神の子みたいなものですよ。でも舞台って予想がついたら面白くない。だから、いい意味で裏切りたい。

えっ、お化けが怖いもの?

幽霊役に何が怖いって、それはお客様ですよ。演(や)れば演るほど、怖くなってくる。そう、誰が何といってもお客様がいちばん 怖い!


上演予定

 鳴門市文化会館

 6月 7日(土) 夜6:30〜

 上演時間 2時間50分 (休憩時間を含む)

 ※約400台の無料駐車場あり    

 徳島市文化センター

 6月 4日(水) 夜6:30〜

 6月 5日(木) 夜6:30〜

 6月 6日(金) 昼1:30〜

 阿南市市民会館

 6月 2日(月) 夜6:30〜


E-mailでのお問い合わせは        鳴門市民劇場ホームページ
nrt-geki@mc.pikara.ne.jp
まで。