あおい輝彦さんに演劇直前インタビュー

楽屋訪問15

イッツフォーリーズ公演「ミュージカル[ミラクル]」鳴門例会(2005年7月9日)に“シド”役で出演されるあおい輝彦さんを公演前に訪ね鳴門市民劇場がインタビューしました。

あおい輝彦さん
鳴門市民劇場(以下鳴門と略)
早速ですが、作品のことと、あおいさんご自身のことをお尋ねしたいと思います。
ミラクルに最初出られることになったとき「シド」にどんな印象を持たれたのでしょうか。
 
あおい(敬称略)
「シド」から何かを変えるということはなく、子供に対しても、周りの大人にも、相手役の女性の「ミナ」に対しても、全部受けるだけなんですね。なにか影響を僕に与えるのは、周りなんです。そして最後に、気がついて「シド」が目覚めるんですが、最後まで駄目な男なんですね。息子に教わってしまう。最後に、「ミナ」にね、今夜だけ息子の母親になってくれないか、子供にうそをついて欲しいと頼むんですね。こんな親がいるから青少年の犯罪が増えたり、とんでもないやつだ、親としての自覚が何にもないんだと腹が立って、始めはこんな役はやりたくないと思ったんですね。
 
鳴門
ずっと観させていただいて、いいたいことも言えなくて、がまんしているつらい役だと思いましたが。
 
あおい
ただ、稽古をやっていくうちにね、そういう男としての弱さだとか、大人になりきれていないそういう男にも人間味があるのだ、という気持になりました。僕はもちろん「シド」が大好きですよ
 
鳴門
観させていただいていて僕らの年代であるとよくわかるのですが、やられている人はつらいなと思ってしまいます。
 
あおい
つらくはないんですよ。「シド」が好きですから。
 
鳴門
酒に逃げた父親役の「シド」を演じられているわけですが、どういう風に心がけて役作りをされていったのですか。
 
あおい
とっても大切なセリフ、重要な人生のテーマになるようなセリフをアルやミナ、又町の人たちから言われるんですね。でもそれをいちいち受けて、リアクション・表現していると全てがつながらなくなる。だから初めはそれらを全く返さないですべて中に入れてゆくというような役作りをしていたんです。しかし今回は、それをチラッ、チラッと、ちゃんと受けるようにしたのがちょっと違うと思うのです。
それと、舞台ということで一番後ろの席の方にも気持ちが伝わらないといけないので、普通は、どうしても「こうなんですよ」というのを見せなければいけない。
映画だと後ろを向いていても監督がこれでは解らないと思えば、後ろからカメラを向けてでも表情を取ってくれる。しかし、舞台の場合は大事な表情であれば、いちいち顔を観客の方に見せてあげないといけない。でもこの舞台の場合は僕はそれが好きでなくて、伝わらないなら伝わらなくてもいい、無理やり伝えようとするのは止めようと思っているんですよ。
 
イッツフォーリーズ制作担当(以下イッツと略)
わざと聞こえるようにすることで動作がぎこちなくなるよりも、聞こえなければ、聞こえなければいい、雰囲気で分かってもらいたい、誇張した表現でなく、自然体でいたいというところがあるんですね。
 
鳴門
苦悩するというか、悩める父親というのはよく分かりました。ところで歌うのは2曲ですかね。意外と歌う曲が少ないんですね。
 
あおい
最後まで、歌わないんじゃないかと思う方が多いらしいんですよ。
 
鳴門
作品の初演はいつでしょうか。
 
イッツ
2000年ですが、あおいさんは、2001年から出演しています。
 
鳴門
再演されるというのは、それだけ評価を受けた演劇だと思うのですが、どういうところに魅力とやりがいを感じられましたか。
 
あおい
さっきも言ったように、人間の弱さ、いくら父親になったとしても、弱いところがある、ダメなところもある。だけど「シド」が持ち続けているのは、少年の時のような純粋な魂なんですね。だから現実では上手く生きられない。理想とか、芸術性だとか少年のような真っ白な気持ちは、大切なことじゃないですか。でも、そのまま現実では生きてゆけない。でも「シド」はそれらを汚してまでうまく生きようといくことは全部捨てているんですね。
 
鳴門
せつせつと伝わってきますね。亡くなった奥さんを思う気持ちが。
亡くなった奥さんのことをずっと思って生きているんですね
 
あおい
そうそう。世間では、よく大変仲のいいおしどり夫婦で愛妻家といわれていた人でも、奥さんが亡くなってから半年とか1年後で再婚する人がいますよね。
それは、愛していても、愛していなくなっても、代わりがいるじゃないかというのが、現実じゃないですか。ただ、「シド」はそうじゃない。少年の時の初恋のような、全てについて純粋なんですね。
 
鳴門
ミラクルというタイトルは、子供にとっても大人にとってもミラクルなんですね。最後に救われるのですか。
 
あおい
一番のミラクルは、亡くなった思い続けているシドの奥さんとのことですね。雪にまつわる奥さんなんですね、全てが。雪の日に会ったとか、雪の日にプロポーズするとか、雪の日に息子が宿ったとか、雪の日に亡くなってしまったとか。それで「シド」が嘘をつこうとして、ママは本当は生きていて、雪が降ったら帰ってくるよ、と言ってしまった。
そして今日こそは本当のことを言わなければならないと決意したときに、暖かい、雪が降らない町なんでが、そこに奥さんが雪を降らせてしまった。ミラクルをおこしてしまった。そのおかげで言えなくなった。それで、嘘をついて、息子に帰ってくるよ、約束どおり、雪が降ったのでママは帰ってくると。
今度は、息子がミラクルを雪によって起こすわけです。大人になる。「さっきママにあったよ。」と嘘をつくんです。いろんな人にとってのミラクルがある。
口で言って難しいんですね。観ていただくと腑に落ちるというか、分かりますよ。
 
鳴門
ミラクルチームの雰囲気はいかがでしょう。
 
あおい
いつもいいですが、今回も、出発する時には皆に『何か、特別の思いがある、僕にミラクルを起こした作品だ』と僕が言っているんですよ。
『これを仕事の一部としてやるという気持ちよりも、僕が少年のときに持っていた真っ白な純粋な真心をささげる。それと同じようにフォーリーズのメンバーもそれぞれの真心を一つの籠に入れてお客さんに手渡していこうという気持ちでやろうよと』。それがそのとおりになっていると思います。
 
鳴門
小野文子さんに3月に来ていただいたときに、本当のお父さんみたいだ、と話されていました。本当に、お父さんのような存在ですね、チームの中で。
 
あおい
 だめな父親です。(笑)
僕もいろんな若い人たちをこの世界で知っていますが、本当にフォーリーズのメンバーはちょっと違いますね。すごく、純情、けがれていない。それが気持ちがいい。
 
鳴門
昨日、搬入をお手伝いしたのですが、とても明るいですね。
 
あおい
明るい。本当に良いですね。ボス(制作担当)がそういう人なので、それがみんなに伝わっている。
 
鳴門
暑いときに来ていただき、皆さん体に気をつけてほしいものです。
話は変わるのですが、あおいさんはジャニーズのイメージが強いのですが、役者としてのお話をお聞きかせください。「あしたのジョー」とか、「水戸黄門」とかにも出られていますが。
 
あおい
長いですから。14歳からで、もう43年ですよ。
 
鳴門
1961年には「若い季節」とか。
 
あおい
NHKですね。それよりも前から出ています。
でも娯楽時代劇は少ないんですよ。ただ、「水戸黄門」を12年間もやっていたので、その印象が強いと思うのですが。
 
鳴門
「あしたのジョー」とかで声優をやっておられますが。
 
イッツ
現在はレギュラーで新しいドラマのアテレコもされていますね。
 
あおい
FBIのね(FBI失踪者を追え)。テレビのシリーズとしては初めてですね。いままで、アル・パチーノ、リチャード・ギアの声とか、映画での声をやったことはありますけど。テレビのシリーズでは始めてで、NHKのBSでやっているんですが。向こうでERというすごく人気の病院ものがあるんですね。それと同じ時間帯にFBIをぶつけんたんですが、それよりも視聴率がよくなったんですよ、うまくできた人間ドラマなんですよ。ただ、犯人を捜すのではなくて、人間ドラマなんでしてね。その主役の声をやっているのですけれどね。
 
鳴門
外国の映画に声を合わせるのは難しいですね。
 
あおい
そうですね
 
鳴門
ぜんぜんジャンルの違うものですね。
 
あおい
ええ、でも「あしたのジョー」も同じです。アニメと人間が演じているのはちょっと違いますけれど。
 
鳴門
あおいさんの中では違和感はなく、演じられているんですか?
 
あおい
違和感はありませんね。
 
鳴門
今は歌の方はどうなんでしょうか
 
あおい
デイナーショーとかコンサートとかはけっこうやっていますよ。僕はもともとジャニーズですから。ときどき時代劇俳優と勘違いされるんですよ。長い間「水戸黄門」に出演していたせいですね。
 
鳴門
ジャニーズのホームページを見させていただきました。初代ジャニーズとしてその時代のトップアイドルとして載っていました。ジャニーズはタレントでもなく、歌手でもないんですね。
 
あおい
ミュージカルグループですが、歌が主ではなく、踊りが主だと思います。
 
鳴門
歌って、踊ってという芸能人の最初の人たちですね
 
あおい
男が踊るというので地方では驚いたと聞いています。女性のダンサーが足を上げたりするのをみたことはあるけど、男が一緒に足を上げたり飛んだりするのをみたことないという時代なんだから。とにかく男性歌手は直立不動だったんですね。東海林太郎さんとか。まあ、これは少し古いですけど、橋幸夫さんとか、舟木一夫さんとか。
 
鳴門
今回のミラクルはミュージカルといってもダンスはあまりありませんでしたね。
 
イッツ
いや、4曲ダンスナンバーがあります。
 
鳴門
ジャズバーのシーンがありますね。あそこで歌う曲が良いですね。主題歌なんですか。
 
イッツ
スキャットですね。「シド」が作曲した「ミラクル」という曲を後で「ミナ」が歌います。
 
鳴門
最後に、こういう会員制で例会にしています。今回はあおいさんの知名度と会員の努力が相俟って、前回よりも10人も増えました。会員に何かメッセージをいただけますか。
 
あおい
演劇というものは、食料とか飲み物とかのように生活必需品じゃなく、それが無いと死んでしまうようなものではないけれど、ただ生きているんじゃなくて、僕たちのミラクルを見ていただいて、精神的にそこで何か気づく。お父さんを大切にしなければ、息子を大切にしなければとか、恋人を大切にしなきゃとか、何か日ごろ忘れかけている大切なものに気が付く。ミラクルのテーマでもあるけれど、生きていく上でいろんな垢がついてくる、子供の頃の純粋な気持ちがなくなってきて、ただ、うまく生きていくことだけに一生懸命になって、日々を送るうちに、大切に持っていたものがどこかに追いやられて、自分にそんなものがあることまで忘れてしまう。いい演劇を観て、自分にそういうものもあったんだということを思い出して、また、人に優しくなれる。そういうことも大切なことではないかなと思います。
 
鳴門
こういう会員制でないと、あおいさんとかにきていただく機会はありません。皆さん楽しみにしていますので、よろしくお願いいたします。
あおい輝彦さんとインタビューア

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nrt-geki@mc.pikara.ne.jp
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