佐藤B作さんに演劇直前インタビュー

楽屋訪問5

劇団東京ヴォードヴィルショー「その場しのぎの男たち」鳴門例会(2003年11月19日)に出演される佐藤B作さんを公演前に訪ね鳴門市民劇場がインタビューしました。

鳴門
東京本多劇場でのご公演を終わられたばかり (10/11〜11/3) ですね。チケット即完売という大盛況だったようでおめでとうございます。反響はどんな風でしたか?またこの作品ですと、若い観客が多かったですか?
 
佐藤(敬称略)
ありがとうございます。おかげさまで楽しく終えてきました。客層は、意外に若くないんですよ。昔からのファンが、我々と一緒にトシをとっているからですかね。
 
鳴門
今回この「その場しのぎの男たち」は再々演とお伺いしていますが、最初の頃と比べて、内容・演出等は変わってきているのでしょうか?
 
佐藤
いえ、大筋は同じです。もちろん、その都度三谷君 (作者:三谷幸喜氏) がチェックしていますけどね。あと、再演 (二度目の公演:1994年) の時は、後藤象二郎が登場していなかったのですが、今回復活しました。そういう違いはありますね。そのたびに三谷君がアレンジしていますが、たとえば後藤象二郎がいなければいないなりに、彼 (三谷) はちゃんとうまく話を作るんですよね〜。
 
鳴門
この作品の内容は、今の日本の政治を風刺するような…本当にタイムリーなものだと感じますが….。
 
佐藤
よくそう言われるんですが、でも思い起こすと、初演 (1992年) の時も再演の時も、そう言われたんですよ。いかに、日本の政治が変わっていないかってことでしょうかね。松方首相を演じる佐渡 (佐渡稔さん) は、二枚目だけどどこか優柔不断そうな感じで、ぴったりでしょう?
 
鳴門
三谷幸喜さん作品についてお伺いしたいのですが…。この作品もそうですけれど、四国で再来年の公演が決定している「竜馬の妻とその夫と愛人」もやはり三谷氏とヴォードヴィルショーのコラボレーションですね。三谷さんの作品をこのようにたくさん取り上げられている理由は?
 
佐藤
やはり、彼はすばらしい喜劇を書く作家として、今、ナンバーワンの存在だからでしょうか。でも三谷君、すっかり忙しくなってしまって、最初に出会った時に比べると偉くなっちゃったから、なかなか書いてくれないんだよね〜。
 
鳴門
喜劇専門のヴォードヴィルショーですが、観客をあんなにうまく笑わせられるコツってありますか?
 
佐藤
難しいな〜。コツはクチではうまく言えないかも。(笑わせようとすることを)やりすぎてもダメだしね。
 
鳴門
「國語元年」で演じられた時にも感じたのですが、もちろん台詞自体も面白いのですけど、それを喋る「間(ま)」が大事なのではないかと…。B作さんはそれが素晴らしいと思います。
 
佐藤
そうですね。そういうことをやはり「現場」で覚えていった気がします。最初はまったく(観客は)笑ってくれなかったですよ。がっかり…でね〜。あと、その場の流れで変わってくることも多々ありますね。タイミングとか、その時の雰囲気をつかむことも大事でしょうか。
 
鳴門
アドリブもあるのですか?
 
佐藤
それはあまりないですね。アクシデントがあったときだけ、対処するようにしています。
 
鳴門
「國語元年」の、あの方言を交えた膨大な台詞を覚えるのはかなりたいへんだったのではないでしょうか?
 
佐藤
それはもう…(たいへんでした)。実はあのあと、身体の調子を崩してしばらく入院したほどで….。いえ、ほかの理由もあったのですけど、消耗しました。もちろん、それを書く作家の方だって、まさに身体をはって書いているのでしょうけれど、役者もね(たいへんです)。
 
鳴門
今年劇団創立30周年とお伺いしています。劇団を創られたきっかけについて教えていただけませんか?
 
佐藤
そりゃもう単純な理由でしたよ。テレビに出たい、有名になりたい一心で、当時の新劇の研究生だった連中が集まって創りました。どうやったらテレビに出られるのか、どうやったら笑ってもらえるのかって必死でしたね。吉本(吉本興業)なんかを見て歩いて研究もしたりしてね。
 
鳴門
同じジャンルの軽演劇としてエノケン劇団 (昭和初頭に活躍、榎本健一さんによる)とかが思い浮かぶので、ああいうものをめざして創られたのかなと想像しますが….。
 
佐藤
自分でそういう風に書いたこともありましたけど、でもやっぱり本当の理由は「売れたい」という一心でしたね。当時の苦しいバイト生活もやめたかったしね。5人で始めましたが、今残っているのは、佐渡と僕だけです。
 
鳴門
三谷さんとのお付き合いはいつ頃からですか?
 
佐藤
11年前に知り合ってからですね。
 
鳴門
喜劇専門の劇団というのは他にあまり例がなくて、とてもユニークだと思いますが。
 
佐藤
観て「楽しんでもらいたい」と思うんです。ただ笑うだけという意味ではなく、コトバ(劇中台詞)が支えとなって、「明日もがんばろう」と思ってもらえるような芝居がしたいと思っています。
 
鳴門
たとえば10年前でしたら、こういう劇団の作品は、演劇鑑賞会の例会にはかからなかった。でも今こうやってお迎えできてたいへん嬉しいのですが、そのあたりは劇団側としてはどんな風に感じられますか?
 
佐藤
この世界の大先輩たちが作った、こういう鑑賞会に今出られるようになったことは、こちらとしても嬉しいです。劇団としても、松原敏春さんや三谷幸喜さんと出会ってから少し変わったかもしれません。喜劇性があり、かつためにもなるような作品に….。一時期は、とにかく笑いがないと成立しない芝居ばかりということもありましたが、今は、笑いがなくてもやっていける芝居もやらせてもらっていますね。
 
鳴門
そとからみていますと、楽しそうな劇団だなあ、と感じるのですが実際はどんな感じなのですか?
 
佐藤
そんなことないよ。若い連中はみんなバイトもしているしね。この道に入った人は、生活のこともあるのに、役がつくかどうか不安定なところもあるし、コツコツ勉強していかなければならないし(たいへんだよ)。でも、こうやって全員で旅して動いている時なんかは、できるだけ楽しんで…と思っています。難しいよね。
 
鳴門
主催者として、劇団をまとめるということについてはどうですか?
 
佐藤
そういう意識はあまりないですね。自分がやっていこうとすることに、彼らがついてきてくれるかどうか、ってことだし。たとえば、自分のアイディアよりももっといい企画が出てくれば、それをやればいいと思っているよ。できればそれが喜劇であってほしいけどね。
 
鳴門
福島県のご出身と伺っていますが、言葉の訛りなんかは出ないんですね。
 
佐藤
そうですか?いやあ、実際はかなり訛っていますよ。この芝居でもずいぶん直されましたよ。でも、陸奥(宗光)も和歌山出身だから、標準語でなく多少訛ってもいいかな、と。
 
鳴門
劇中人物の言葉も、それぞれの出身地によって違うのでしょうが、どのように演じられるのですか?
 
佐藤
いろいろですね。松方(正義)総理は薩摩弁になっているけど、青木外相、後藤象二郎なんかは、土佐弁にはしていないね。
 
鳴門
今年2月に「見よ、飛行機の高く飛べるを」が例会になったのですが、劇中の三河弁がわかりにくかったという感想もあったんです。
 
佐藤
「その場しのぎの男たち」は、薩摩弁が少し出てくる程度ですよ。
 
鳴門
演劇鑑賞会に対するご印象はどんなものでしょうか?
 
佐藤
僕たち劇団にとっては、とても助かる存在ですよね。1つでも多くの組織ができてほしいし、少しでも長く活動してほしいと望んでいます。自分たちの役割は、みなさんに喜んでもらえるような芝居を創って観ていただくことですが、こういう組織を全国に作っていただいた方々の努力に頭が下がる思いです。
 
鳴門
劇団の内情についてお伺いしてもいいでしょうか。いろいろと苦労もされていると思いますが、それでも、たとえば、アメリカなどではもっと貧しい劇団がたくさんあると聞いたことがあります。
 
佐藤
アメリカのことはよく知りませんが、やっぱり向うの方が競争は激しいのでしょうね。そういう意味で、「食っていけない」人たちの数は多いのかもしれないね。
 
鳴門
でもヴォードヴィルショーも、そして何よりB作さんご自身も、今では売れっ子になられて、とてもお忙しいのではないですか?テレビでもいろいろなジャンルでご活躍ですが….。
 
佐藤
(忙しくても) 仕事のバランスはとれていると感じています。これがめざした道なので、元気なうちは….と思っています。
 
鳴門
再来年には、「竜馬の妻とその夫と愛人」で来ていただくことになると思いますが、それまでに、他の作品の上演ご予定はありますか?
 
佐藤
来年、中島敦彦さんという、やはり喜劇作家に脚本を書いてもらって、女性中心の小作をやろうと思っています。あめくみちこ、山本ふじこ…なんかでね。「竜馬」の翌年は、また三谷君が書いてくれると思っています。でも、彼、遅いんだよね〜。新作だと、台詞を覚える時間が4〜5日しかないこともありますよ。これはたいへん!再演ならいいんだけど、でもいろいろな感想は「初演」の時になされるからね〜。初演でがんばらないといけないってこともあるし。いい作家が脚本を書きたくなるような、そんな集団でありたいね。
 
鳴門
それはどういった作家の方々ですか?
 
佐藤
やっぱり、三谷君、それから中島さん。あと、永井愛さんもおもしろいと思っていますよ。彼女も喜劇ですよね。自分が東北出身なんでね、どうも翻訳ものはピンとこないんだけど….(笑)。やっぱり日本の作家のものがいいかな。
 
鳴門
井上ひさしさんなんかはどうでしょう。同じ東北のご出身だし…。
 
佐藤
ああ、いいですね〜。すごい方です。ネバリがすごい(笑)。同じ東北でも、かなり上ですよ、ネバリという点で。
 
鳴門
鳴門市民劇場の会員は、明るく楽しい芝居が大好きで、本当にこの「その場しのぎの男たち」を心待ちにしていました。そんな会員に、最後にひとことお願いできますか?
 
佐藤
「その場しのぎの男たち」は、僕らの劇団30年の集大成です。存分に楽しんでいただけると思います。


E-mailでのお問い合わせは              鳴門市民劇場ホームページ
nrt-geki@mc.pikara.ne.jp
まで。