千葉茂則さんに演劇直前インタビュー

楽屋訪問9

劇団民藝「巨匠」鳴門例会(2004年7月17日)に“俳優”役で出演される千葉茂則さんを公演前に訪ね鳴門市民劇場がインタビューしました。

千葉茂則さん
鳴門市民劇場(以下鳴門と略)
東京公演から、各地をまわってこられて、反響はいかがでしたか?
 
千葉(敬称略)
演じていると観客の息遣いがわかるのですが、お客さまはみんなよく観てくださっていると思います。わたしたちも緊張しますが、お客さまも緊張されているのがよく伝わってきます。
 
鳴門
難しい芝居だと思いますが。
 
千葉
この作品では、「巨匠」と呼ばれる老俳優が出てきますが、日本では、俳優という職業が社会的にあまり高い評価を受けているとはいえません。ところが欧州では、俳優は"知識人"なのです。今回ピアニストを演じている者がポーランドを旅行中、職業は俳優だと名乗ると、最敬礼されたそうです。このように、俳優に対する評価に、日欧で差があることが、この作品の内容を分かりにくくしている要素のひとつだと思います。ストーリーそのものはシンプルなんですよ。
 
鳴門
なぜ?という問いかけに対する答えが、作品の中に用意されていないということも、分かりにくくしている要素でしょうか。
 
千葉
「その解答は、観客自身が自分で考えてください」という提示のしかたになっています。
 
鳴門
千葉さんの役は、登場したとき、マクベスをどう演じるかについての議論の最中、そしてそこから徐々にシチュエーションを明らかにしていく設定なのですが、難しくはありませんでしたか。
 
千葉
この芝居は今回3演目です。初演は'91年で滝沢修主演でした。再演より大滝主演になったのですが、今回は、初演、再演と演出が違っており、全く新しい芝居になっていると思います。今回は、たとえば、私が演じる俳優の台詞に「―」が書かれていたら、それを"間"として大切に生かそうというような演出です。観客もその"間"のあいだに、役者と同じ立場で考えてもらえるように、ということです。そのため、今回の上演時間はこれまでより長くなっています。最初のうちは、"A"と"俳優"とのやりとりが何のことかわからないかもしれません。なぜ、"俳優"があのような態度をとっているのか、理解できないかもしれませんね。
 
鳴門
"A"という役は珍しいですね。
 
千葉
"A"は、あるときは作者の木下順二、あるときはマクベスの演出家、またあるときは、演じている西川自身、という風にいろいろな人間をかわるがわる演じています。特別な役柄といえばそうですね。「今は誰?」ということも分かりにくいかもしれませんね。
 
鳴門
ある意味で心理劇のようなものですか?
 
千葉
そういえるかもしれません。老人(巨匠)、医師、前町長、教師といった登場人物各々が、あのような場面で相対したとき、どういう立場になるか…です。また、観ている人がどういう立場で観るかということもあると思います。
 
鳴門
いろいろな立場の人民が、それぞれ独裁者に対峙しているという形ですね。
ところで、千葉さんは本名でしょうか?
 
千葉
本名です。
 
鳴門
民藝一筋ですよね。
 
千葉
そうですね。
 
鳴門
テレビなどにはあまり出演されないのですか?
 
千葉
少しは出たこともあります。20年くらい前、朝の連続テレビドラマ小説で「男路線」がブームになった頃にやったことがあります。でも、基本的には芝居ばかりですね。
 
鳴門
芝居が生きがいですか?
 
千葉
ここまできたら、そう思うしかないでしょうね。
 
鳴門
実は、2006年の四国例会作品候補のひとつとして、千葉さん主役の「明石原人」があがっています。どんなお芝居なのか、紹介していただけますか?この作品を観るにあたって、考古学のバックグラウンドは必要でしょうか。
 
千葉
人間の生き方を描いた作品ですので、それはなくてもいいと思います。でも題材は考古学ですね。作品のモデルになったのは、明石海岸で人骨を発見した直良信夫という人ですが、あまり有名でないのではないでしょうか?
 
鳴門
そんなことはありません。教科書にも載っていると思います。
 
千葉
他の分野、たとえば、鳥類の研究や貝塚の調査などでも、たくさんの文献を残した人なんです。記録のために必要だったので、絵も熱心に勉強し、細密画など、ずいぶん上手です。功績高い人ですね。そういう人の「人間としての生きざま」を描いた作品です。
 
鳴門
千葉さんにとって初めての主役になりますか?
 
千葉
主役は、これまでに「アルベルト・シュペーア」(2002年)などでやったことがあるのですが、これは非常に長い芝居で、地方に持ってこられるものではありませんでしたから、知られていないでしょうね。主役以外では、「帯に短し..」で地方をまわったことがあります。
 
鳴門
民藝に入られたきっかけはどんなことだったのですか?
 
千葉
高校2年生のとき、近くの区民会館で観劇教室があり、そこで生まれて初めて観た芝居が民藝の芝居だったのです。工業高校の生徒だったのですが、「こういう世界もあるんだ」と感激してしまいました。それがきっかけですね。
 
鳴門
民藝は、女優陣が元気な劇団だと感じるのですが…。
 
千葉
そうですね。女性の方が元気かもしれません。
 
鳴門
昨年「アンネの日記」できていただきましたが、劇団の雰囲気がよく、仲がいいですよね。
 
千葉
大滝さんを筆頭に、今日のメンバーはまさに、劇中の台詞のとおり、「偉大な人だけで芝居は作れない。すぐれた人も必要だ」がマッチすると思います。私は「アンネの日記」の際、スタッフとしてきました。そういう風に、民藝は、「全員で芝居を作っている」劇団です。自分が出演しないときは裏方もします。そういう普段の交流を密にしているところが、民藝が自慢できるところです。
 
鳴門
東京で公演をされるのと地方を回られるのとではどちらがお好きですか?
 
千葉
地方を回るのは好きですね。
 
鳴門
私は東京に住んでいましたが、こちらではあまりチャンスがないので、こうして劇団に来てほしいと願っています。
 
千葉
私たちとしても、こういう地方の仕事がないとやっていけません。
 
鳴門
地方でもずっと観続けたいという思いで、がんばって会員勧誘をしているのですが、いろいろな事情があり、なかなか入ってもらえないのが実情です。
 
千葉
互いに協力し合っていければいいですね。今、観れない事情がある人も、そういう状況は長くは続かないでしょうから、そのうち入会してくれるのではないでしょうか。
 
鳴門
このような演劇鑑賞会の活動をどのように感じていらっしゃいますか。
 
千葉
劇団でも、「仲間の会」というものがあって、最高時5000人の会員がいたのですが今は2500人くらいに減少しました。維持し、増やそうとしているので、客を集めることがどんなにたいへんなことか、よくわかります。劇団の経済事情を考えても、地方での仕事はなくてはならないものなので、月並みですが、各地演劇鑑賞会は、ありがたいもの、大切にしないといけないもの、と感じています。
 
鳴門
わたしたちの方も、東京や大阪にはなかなか行けないので、住んでいるところで一流の芝居が観れることはありがたいことです。
 
千葉
地方に行く楽しみはあります。
 
鳴門
子供にもみせたい、小さい頃にこういうものに触れさせると情緒豊かになるのでよいと思うのです。
どういう俳優を目指されていますか?
 
千葉
一番難しい質問ですね。(長く考えたあとに)「息の長い俳優」です。
 
鳴門
鳴門の会員へのメッセージをおねがいできませんか?
 
千葉
末永く会員であり続けてください。私たちもいい芝居をつくっていきますから、舞台と客席がひとつになり、長く関係を続けていきたいと思います。
 
千葉茂則さんとインタビューア

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