旺なつきさんに演劇直前インタビュー

楽屋訪問10

こまつ座「花よりタンゴ」鳴門例会(2004年9月2日)に“長女 月岡蘭子”役で出演される旺なつきさんを公演前に訪ね鳴門市民劇場がインタビューしました。

旺なつきさん
鳴門市民劇場(以下鳴門と略)
いろいろな舞台でご活躍されていますが、鳴門に来られるのは初めてですか?
 
旺(敬称略)
そうです。おかげさまで、いろいろなジャンルのものに出させていただいております。
 
鳴門
今回の作品「花よりタンゴ」は、戦後が舞台ですね。戦中戦後を体験してはいらっしゃらない旺さんとしては、同じく体験していない世代の人々に、この作品を通じてどんなことを伝えたいですか?またどんな思いで演じていらっしゃるのでしょうか?
 
私だけではなく、出演者のみんながあの時代を知らない世代です。でも、この作品で作家の井上(ひさし)先生は、「家族愛」などといった、戦後に限らない、普遍的なことをテーマとされているのだと思います。あの時代を知る人も知らない人も、ピュアな気持ちで受け取ってほしいと思っています。
 
鳴門
個人的なことですが、昭和22年は、私が生まれた年なんです。
 
そうですか。それは特別な思いがおありでしょうね。
 
鳴門
私の場合は、終戦を小学校1年生で迎えましたので、戦後の厳しい時代を体験しています。あの時代の厳しさを(知らない人にも)知ってもらいたいので、今回の作品はすごく楽しみなのです。
 
私は戦中も戦後も知らない世代、ましてや、もちろん庶民ですから(劇中で扮する)華族の世界のことなどは全く知りませんでしたが、この作品を演るにあたって、いろいろ勉強しました。知らないからといって、単に想像の世界だけで演じるには、井上先生の本はあまりにも奥が深いのです。想像する匂いとか空気とかいうものが、自分が実際そこにいたんだ、と感じることができるところまでイメージしていきます。あの頃の銀座はこうだったんだ、ってまるで知っているような錯覚に今、陥っているような、なんだか変な感覚があるんですよ。実際には全く知らないし、DDTもかけられたことないですけどね。井上先生の本は、そのくらい心して取り組まないといけないと思っています。非常にわかりやすく書いてくださっているのですが、どれひとつ落としてはいけないという書き方をなさっていると思うので、そこのところを忠実にお伝えできたらと思っています。
 
鳴門
井上ひさしさんの作品は、「観る側」からは、おもしろく、起承転結もはっきりしていてわかりやすいのですが…。
 
「演る側」からは難しいですよ(笑)。たとえば、「だけど」という台詞と「だけども」という台詞を、井上先生は異なる思いで書かれているに違いないと思うのです。ですから私は、「てにをは」ひとつも絶対間違いないようにたたきこみました。井上先生は「難しいことをやさしく、やさしいことを深く、深いことを面白く」をモットーにされていますが、まさにそのとおりです。誰にでもわかるように書かれているのですが、たくさんの伏線があって、それを演る側が落としてしまうと、伝えるものが違ってくるのじゃないかと思います。演出家の栗山(民也)さんの言葉をお借りすれば、井上先生の本は、「楽譜のようなもの、どれをはずしてもいけない」ということですね。最終的にはあたかもアドリブみたいにみんなが動いてやらないといけないのですが、そこまでには決め事が本当にたくさんあって…。すごい世界です。初めての体験でしたが、うれしかったですよ。とてもやりがいがあります。
 
鳴門
劇中では、タンゴなどたくさんの曲が出てきますが、フルコーラスをやってもらえず残念だった、という感想も聞こえています。
 
時間がもっと長く、たとえば4時間とか5時間とかかけてやれるなら別ですが、限られた時間の中で、伝えたいメッセージを主軸にして、必要なところに曲を入れていく形ですから、歌がメインになってしまうのは、また違うのではないかという気もします。
 
鳴門
作品中、旺さんご自身の見せ場はどんなところでしょうか?やはりダンスですか?
 
それはおそれおおいです、また、見せ場だなんていうのはおこがましいです(笑)が、メンバー全員が必死で取り組んでおり、そういう意味では「すべて」が見せ場ですね。この作品上演のために、井上先生も何度も足を運んでくださったし、栗山さんも熱心に見てくださいました。栗山さんのおっしゃる「人が一生懸命人として生きる」というそのままでしょうか、共同作業が見せ場だと申し上げたいですね。逆に、観劇していただいたあとで、どこが「見せ場」に思えたのか、みなさんにおききしたいです(笑)。
 
鳴門
宝塚ご出身ですが、宝塚で経験されたことの中で、今役にたっていることは何ですか?
 
宝塚時代はそう長くはなかったのですが、それでも学校の2年間を含めると10年くらい在団しておりました。そこで学んだ最大のことは、「あきらめない」ということですね。宝塚では、どんなことがあっても、「できません」は禁句です。それを口にするときは、辞めるときです。自分から「できません」というのはタブーで、できない人もできるまでやらなければなりません。それが集団生活の掟でした。その結果、そのまま続けるか変更するかは、演出家の判断です。ですから、「やります」、「やれます」という気持ちが、今の自分を支えていると思います。絶対に、前向きにやっていこうと思い続けています。
 
鳴門
それは、周りにそういう人(できなくて苦労している人)がいれば、できるようになるよう、助けてあげようということも含んでいますか?
 
そうですね。考え方の問題かもしれませんが、個人でありつつも、舞台って「総合芸術」ですから、今回もキャスト、スタッフみんな含めて「家族」です。半年もずっと一緒に暮らしていくわけなので、仲良く助け合っていかないわけにはいきませんね。支えあって、みんなで最後までやります。
 
鳴門
四国の前は東京公演でしたね。今回の旅公演はどのくらいなのですか?
 
半年です。私にとっては今までで一番長い旅公演なんです。四国のあとは、東北、そのあとは九州に行きます。
 
鳴門
以前「山彦ものがたり」という作品で、全台詞英語のミュージカルに挑戦されたと伺いました。
 
はい、これは有吉佐和子さんの唯一のミュージカルで、私は中国公演から参加したのですが、そのときは日本語で演り、中国語の字幕が出るという手法がとられました。すると、こちらが台詞を言うタイミングと、観客が字を読んで反応するタイミングがずれるんですよね。それがすごく気になったんです。悔しかった。そういうことから、また、プロデューサーの希望もあって、次のニューヨーク公演では、ダイレクトに通じるように、全編英語で通しました。ネイティブにちゃんと伝わるように、正式に英語を練習しましたが、やっぱりダイレクトに通じるということはすごいことで、反響も大きく、私にとって非常に大きな体験になったと思います。
 
鳴門
アメリカ人の観客の反応というのはどんなものでしたか?
 
まず内容については、この作品の素材になっている日本のおとぎ話を、日系人の方々が、たいへん喜び、感動してくださいました。一般的な反応ということについては、私はそのときニューヨークは初めてだったのですけど、彼らは本当にフェアな気持ちをもっているのだな、と感じました。役者を見る際、知名度や見た目に惑わされることなく、「いいもの」をきちんと見分ける目が育っている人々だと思いましたね。
 
鳴門
さて、今回四国にこられて、まず阿南の反応はいかがでしたか?
 
四国で最初の舞台でしたので、やはりお客様の反応はすごく気になりました。最初、クスクスという笑いはあるのですが、ドンという笑いがこなかったので、大丈夫かな、大丈夫かな、と楽屋でみんなで心配していました。でも最後は手拍子も出るほど温かい気持ちをいただきました。お客様の反応というのは本当にその土地ごとにちがいますね。
 
鳴門
観客側にも不安はあるんです。拍手したくても、本当にこのタイミングで拍手してもいいの?といったような…。
 
いえいえ、演劇鑑賞会の会員の方々は、観ることに慣れていらっしゃると思いますよ。非常にいいタイミングで笑ってくださるし、最初緊張していても、幕があいてラクな気持ちになることもあります。これはまさに、テレビや映画では味わえない、舞台と観客との一体感ですよね。舞台の、すごく大きな魅力だと思います。
 
鳴門
これまでに地方で公演されたことは多いのですか?
 
よく行きますよ。出身が倉敷で、地方で育ちましたので、地方は大好き、地方公演も大好きです。地方の方々の反応や、お会いしてお話することがとても嬉しいのです。こういう鑑賞会をずっと続けられるのはたいへんだと思うのですが、是非がんばって続けていってください。
 
鳴門
今回の公演「花よりタンゴ」チームの雰囲気はどんなものですか?
 
おもしろいですよ。こんな個性的なチームは珍しいんじゃないかしら。とても仲よし、でもひとりひとりがすごく個性的なんです。
 
鳴門
旺さんご自身は、今後、どんな役、どんな作品をやりたいですか?
 
今は、ありがたいことに本当にいろいろな役をいただいています。そんな中、まだ、どういうものが自分の路線なのか、自分でもよくわからないんです。あれもこれも、やりたいことばかりです。また、ひとつ役の話をいただくと、「このプロデューサー、演出家の方々は、私にこういうことをやれと言ってくれているのか」と考えることができるので、それも楽しみです。これからもいろんな役に出会いたいですね。
 
鳴門
いろいろな役がくるということは、それだけいろいろな面をもっていらっしゃるということで、素晴らしいですね。
 
いえ、そんなことはありません。何もできないので、「じゃあこの役ならどうかな?」とみんなが思うのかもしれませんよ(笑)。基本的にはコメディがとっても好きですね。一番難しいと思うのですけど。泣かせる劇は、いいタイミングでそれなりの曲がかかってそれなりのシチュエーションでそれなりの台詞を言えば、わりとラクにはいっていけるのかもしれないんですが、笑いをとるということは…狙ったら絶対とれないし、難しいです。でも必死でやったら観てる人がおかしがってくださるのだと、みんなで励ましあっています(笑)。
 
鳴門
最後に、鳴門の旺さんファンたちにひとことお願いします。
 
今回鳴門に初めてくることができて、とても光栄です。今夜観ていただいた方々が、また私が次回来るときに、おひとりも欠けることなく、そして更にひとりずつ会員が増えることを願っています。次に来させていただくときは、2日また3日、と公演できることを、またこまつ座さんでこちらに来れることを楽しみにしています。皆さん、やめないで続けてくださいね。
旺なつきさんとインタビューア

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nrt-geki@mc.pikara.ne.jp
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