加藤健一さんに演劇直前インタビュー

楽屋訪問13

加藤健一事務所「煙が目にしみる」鳴門例会(2005年3月20日)に“野々村桂”役で出演される加藤健一さんを公演前に訪ね鳴門市民劇場がインタビューしました。

加藤健一さん
鳴門市民劇場(以下鳴門と略)
劇団創立25周年おめでとうございます。それから、加藤忍さんが紀伊國屋演劇賞個人賞を受賞され、本当におめでとうございました。
 
加藤(敬称略)
どうもありがとうございます。加藤忍へのお祝いの言葉は、本人が喜ぶと思います。
 
 
鳴門
さて早速ですが、その25周年の記念作品として今回の「煙が目にしみる」を選ばれた理由をきかせていただけませんか?
 
加藤
うちは翻訳ものも多いのですが、25周年の第一弾ということではやはり日本のものをやりたかったですね。それにこの作品は再演の要望が強かったんです。
 
鳴門
加藤さんの出演された映画で「砂の器」を最近偶然見ました。あれはいつごろでしょうか。
 
加藤
20代ですね。加藤健一事務所は30歳でつくりましたからその前のことです。
 
鳴門
今回の作品「煙が目にしみる」で、伝えたいメッセージなどはありますか?
 
加藤
斎場という特殊な場所が舞台とはいえ、コメディですからね。楽しんでほしいです。大いに笑って、つらいことも忘れてほしい。難しいことはほとんどないです。ゴーストものですから、見て楽しんで、そしてホワッとした家族愛みたいなものを味わってほしいです。斎場というのは、抑えた感情と爆発する感情の両方が出やすい場ですね。
 
鳴門
加藤健一事務所はコメディが多いですね。「ラン・フォー・ユア・ワイフ」でも大いに笑わせてもらいました。
 
加藤
この10〜20年はコメディの率が高いですね。笑いがないとちょっとつらいような、笑いが含まれるのが常識という風潮があるようです。
 
鳴門
今回は「おばあちゃん」という特殊な役ですが、どんな工夫をされているのでしょうか。
 
加藤
女役で、本当の自分と距離がある役なので、つくる分にはおもしろいですよ。こっちは男だから、お客さんも大目にみてくださるでしょうし、やっていて楽しいです。
 
鳴門
おばあちゃんにだけ幽霊が見えたり、いろいろ趣向が凝らしてある作品ですね。
 
加藤
ぼけているのか、見えているのかという…。でも、あんな、死んだ人とコンタクトできる人がいたらいいですよね。
 
 
鳴門
加藤健一事務所のホームページには、「劇団員は加藤健一さんひとり」と書いてあるのですが…。
 
加藤
そうですよ。劇団というよりも、制作会社と思っていただいた方がいいかもしれません。地人会やこまつ座さんもこんな感じでしょう。
 
鳴門
息子さんも劇団員ではないのですか?
 
加藤
彼も別の事務所です。
 
鳴門
主な役は同じ役者さんをつかっていらっしゃるように思いますが。
 
加藤
一応、何人かの信頼できる役者には頼む回数も多くなりますね。どこもそうでしょうけども。
 
鳴門
プロデュースの会社なのですね。
 
加藤
そうですね。ですから制作の人間はたくさんいますよ。
 
鳴門
俳優さんを育てるスクールのようなものもやってらっしゃいますよね。
 
加藤
俳優教室を開いていて、加藤忍もそこを出ました。研修生は何人も舞台に出していますし、卒業後も、優秀な子は使うようにしています。
 
 
鳴門
息子さんの義宗さんはこれが初めての作品ですか?
 
加藤
そうですね。16歳のとき、まだ役者をやる気もないときに一度、「バイト」としてやらせたことがありますが。22歳のときに役者になりたいと言い出し、そこから勉強を始めました。ですから、本当の役者になってからはこれが初舞台ですね。親としては、ちょっとテレくさい感じです。慣れるまでに2〜3回かかるかもしれませんね。
 
鳴門
息子さんに注文とかはありますか?
 
加藤
いろいろ言いたいことはあるんですが、ちゃんと別に演出家がいますし…。子育ても同じですけど、どこまで口を出したらいいのか難しいです。
 
鳴門
前例会で、前進座の中村梅雀さんにインタビューしたのですが、そのときに、お父さんの梅之助さんとは長年同じ仕事をしていたけども、今回の作品で初めて気持ちが通じた気がするとおっしゃっていて印象的でした。
 
加藤
そうですか。我々も早くそうなりたいですね。
 
 
鳴門
仕事で大切にされていることはどんなことですか?
 
加藤
毎日新鮮な気持ちで舞台の上で「遊ぶ」ことでしょうか。遊び心を失わないように心がけています。疲れてくると「仕事感覚」になるので、毎日楽しくやれるように、1日を過ごしたいと思っています。
 
鳴門
同じ作品でも、役者さんの調子というか受ける感覚は、舞台ごとに毎回違うものでしょうか?
 
加藤
違いますね。日によってもすごく違うし、お客さんの年齢層や、また小屋によってすごく違いますから、ノリに影響します。
 
鳴門
鳴門市文化会館は広くて声の通りが悪いことがいつも心配なのです。
 
加藤
今日もそのための打ち合わせはしますよ。前回「銀幕の向うに」のときにも、マイクの使用を薦められたのですがそれを断った経緯があり、今回も声がどのくらい届くかきちんと事前に試すつもりです。
 
 
鳴門
加藤健一さんのひとり芝居「審判」は非常に印象深い作品なのですが、あの作品をやりたくて事務所を創立されたともうかがいました。
 
加藤
そうですね。最初は事務所というのではなかったのですが、「審判」をやるのに、何かチラシのようなものに「問い合わせ先」を記載しなくてはならなくて、それで自分のアパートの電話番号にしたのですが、便宜上名前をつけざるをえなかったので「加藤健一事務所」と(笑)…。それがそのままです。
 
鳴門
ひとり芝居というのはたいへんなことだと思いますが。
 
加藤
たいへんですね。年齢が年齢なので、長時間のひとり舞台は、膝や背中やのどがたいへんです。2時間半が毎日続くと、それはたいへんですね。でも今年25周年でまた少しこの作品で全国を回ろうと思っています。
 
鳴門
以前はテレビや映画のお仕事もされていましたが最近は?
 
加藤
一切やっていません。舞台が楽しい。映像の方はスケジュールに振り回されますが、舞台の仕事は優雅ですよ。「板の上」で演じたいのです。ツアーなどは何の苦にもなりません。
 
 
鳴門
今回のツアーは昨日の阿南が最初とうかがいましたが、チームの雰囲気はどんなものですか?
 
加藤
前回と比べてキャストは5人代わりましたが、全員知り合いなのでいい雰囲気です。
 
鳴門
では心配ごともなく…。
 
加藤
心配は花粉症くらいですかね(笑)。あと、インフルエンザにかかった者が2名いまして…。
 
 
鳴門
役者、事務所代表、演出家、そしてお父さん、どの役が好きですか?
 
加藤
お父さんは仕方ない役として(笑)…。やはり役者ですね。演出はおもしろいけども少し精神的に疲れる仕事です。役者の、発散できる楽しさとは少し違いますね。考える仕事なので内に内に向いてしまう。僕は、役者の仕事はストレスにはならないです。
 
 
鳴門
最近コメディを多く取り上げられているのは、企画する側としてそうしようという感じですか?
 
加藤
自分としてはだいたい半々でやりたいとは思っているのですが。「審判」や「カッコーの巣の上を」などのシリアスものとコメディと、半々がいいと。でも最近は英米でもシリアスな芝居が減ってきました。あちらではシリアスものといえば、ゲイやエイズの話になってしまっていて、そういうものはあまり日本にはなじみませんから。
 
鳴門
加藤健一事務所といえば、会員の大多数はコメディを期待しています。
 
加藤
そうでしょうね。でも何がコメディかという問題もありますよね。今日の作品も、お客さん、たくさん泣いてくれますよ。
 
 
鳴門
演出家と役者と2役のとき、作品ごとに訴えたいことなどはありますか?
 
加藤
基本的には作家が書いていることを伝えるのが演出家の役と思っています。今回の作品も何がテーマかと尋ねられても難しいですね。久世さんはあまり語らない人だし。言葉では、特別には、テーマというものはないですね。お客さんが感じてくれることなのかもしれません。役者としてはどれだけ笑わせ泣かせられるか、それが成功したらOKと思っています。
 
 
鳴門
最近のいい作家として、どんな方に注目されていますか?
 
加藤
若手では何人か出てきていますよね。いっとき、つかこうへいさんや唐十郎さんのような手法がはやった頃もあって、普通の俳優が普通にやれないというようなことがありましたが。最近は土田英生さんとか出てきましたしね。僕は井上ひさしさんのファンなんですよ。井上作品に出たいし、うちでもやりたいのですが、なかなか許可が出ない(笑)。永井愛さんも好きなんですが、こっちもなかなかやらせてもらえない(笑)。それに、僕が外部出演したら、その間、うちの社員は何をしていたらいいのかって問題もありましてね。義宗が早くうちの主役でやってくれるようになれば、僕は好きなことをやれますが。
 
 
鳴門
25年続けてこられてご苦労とかもあったと思いますが。
 
加藤
苦しいことはなかったです。今も過ぎてきた年月とか自分の年齢とか、よくわからないくらい、25年たったという気があまりしないんです。創立した頃に、この世界にいい風が吹きましてね。小劇場ブームというのがあって、最初の頃、バブルがはじけるまでは、ファンもどんどん増えてラッキーでした。これはいいなあ、と思っていましたが、その後、減ってきたときにはやはりつらかったですかね。でもファンには2タイプあって、減少はある程度で止まりましたよ。そして、次は戻ってきてくれる人もいたりして。子育てが終わったからとか、子連れで来てくれるようになったり、客層がいい雰囲気になっています。
 
 
鳴門
以前ならこんな地方には来てもらえなかったのでうれしいです。
 
加藤
テレビの仕事があったときはとても地方を回るスケジュールが組めなかったですね。舞台1本に絞ってからこんなことができるようになりました。
 
 
鳴門
最後に鳴門のファンにメッセージをお願いします。
 
加藤
時代は難しくなっているけども、僕らも、人を誘ってもらって恥ずかしくないような舞台を作り続けるので、ぜひ盛り上げていってほしいです。
加藤健一さんとインタビューア

E-mailでのお問い合わせは              鳴門市民劇場ホームページ
nrt-geki@mc.pikara.ne.jp
まで。