平淑恵さんに演劇直前インタビュー

楽屋訪問16

文学座公演「戯曲 赤い月」鳴門例会(2005年9月22日)に“森田波子”役で出演される平淑恵さんを公演前に訪ね鳴門市民劇場がインタビューしました。

平淑恵さんとインタビューア
鳴門市民劇場(以下鳴門と略)
この作品は東京で初演されて、すぐ四国に来られていますが、反応はどうでしたでしょうか。
 
平(敬称略)
400席位の紀伊國屋ホールで演じた後、高知がいきなり1300席でした、
自分の中で違和感はないのですが、いい拍手をもらったり、会員さんの反応が大きくて驚いています。広い劇場の方が逆にいいのかなと、思っています。
なんといっても、出演者17人に対して延べ100役近くあるので、7役8役は当然という状態でがんばっていますが、会員さんが違和感なく拍手してくれているので安心しています。
とにかくなかにし先生が大変喜んでくださっている。うれしい誤算だったとおっしゃった(笑)。立ち稽古に入ってからはお忙しくなってしまってご覧いただけなかったんですが、しばらくして来られた時に、「こんなに良くなると思ってなかった」とおっしゃってくれました。そして最後の詰め、舞台稽古では2日間とも仕事をすべてキャンセルして、朝から最後まで見守っていただいた。しかも本番に入ったら、連日観にいらっしゃって、お客様が帰ってから「僕もいろいろ芝居を書いてきたけれども、こんなにお客さんから、『感激した、ありがとう面白かった』と言われたのは初めてだよ」と喜んでいらっしゃいました。
 
鳴門
実は、私は、徳島で観てきているんですが、最初からハラハラドキドキして、ずーっと引き込まれる感じがしました。
原作を読ませて頂いたとき、これをどう舞台で、表現するだろうと、私なんかあまり思い浮かばなかったんですけれども、時代をさかのぼるような回想的な手法も入っているんですね。
 
そうですね。時間の飛躍で進行がどんどん進んでいくの。お客さんがついて来られるかしらと思っていたのですが、なんの抵抗もないとおっしゃていただいて安心しています。
当初、これは映像だったら分かるけれども、いろんな飛躍があるからどうなんだろうと思うくらい、衝撃的な戯曲だったんですよ。
やっていても大変ですね。いろんな早変わりわりがあって、楽屋まで着替えに行く間がなくてソデで着替えるというのも多いんです。皆がそれぞれ大変なんです。演出も休む間がない。
でも内容的にも面白くて、「生まれてきて悔いはない」というような感動もありました。
 
鳴門
すごい人生ですよね、一人の女性の。
 
私が引き継いだ『女の一生』の布引けいと共通します。生きるということ、けなげに生きるということですね。
生まれ持った性格とか、そういうものがあるんでしょうけれども「どんな逆境に陥っても逃げない鉄の女」じゃなくって、やっぱり迷いながら、苦しみながら、一生懸命自分の道を直感でもって選択しながら生きている。
 
鳴門
主人公も平さんも生まれ育ったのは北海道なんですよね。それで北海道の女性は意外とたくましいのかなって思ったんですが。
 
そうなんですよ、意外と逞しくって(笑)。今でこそ少ないですが、私の子供の頃は、母親とかおばあちゃんをみていると、男並みに雪掻きをしなければならない時代であったし、労働という意味では男並みに働くのは当たり前ですね。北海道は実は離婚率が高い。独立して自立する女性が多かったですよ。北の大地の女は逞しい。
 
鳴門
おおらか?
 
おおらかでありながら、それを苦にもしない。当たり前のように生きている。強いですね。私が新人の時の話ですが、取材記事にいつも「道産子の意地」とかというタイトルが付くんです。私はすごくおとなしくて、かわいかったんですが、そうみられているんですね。(笑)
 
鳴門
ところで、こんなこと聞いたら失礼かも知れないんですが、この作品の見せ場というのはどういうところなんでしょう。
 
全編が見せ場です。特に1幕は、あの短い場面展開の中でああいう風にたくさん人が死んでいくというのは、演じていても辛くって・・・。紀伊國屋でやったときは全編泣き通し。「波子、泣きすぎだよ。波子は泣かないの」と先生によく言われました。実話であると同時に、体験してきた人たちが観ますからね。本当にどれくらいのクライマックスがあるかと思うほどの展開ですし、波子のどこが見せ場とかというよりも、そういう時代背景そのものが見せ場ですね。
 
鳴門
時代に翻弄されている、時代がどんどん動いていくというような感じですね。
 
2幕になって、どーーんと、生き様とかが重くなる。いくつのテーマがあるんでしょうか。この芝居はどこがどうと言うよりすべてが実話、ご覧いただいた通りです。
 
鳴門
波乱万丈、恋愛もあり、内容が盛りだくさんで、演出するのが大変じゃなかったんですかね、という会員さんがいました。
 
そうですね、テーマがありすぎて、なにがテーマですとは一言では言えない作品ですから。
 
鳴門
ところで、女優としての平さん、役者を目指したきっかけは何ですか。
 
あまり遠い昔のことなので(笑)。
芸能界に入るとは夢にも思っていませんでした。高校生の時に地元の劇団で公演をしたことがあって、評判も意外と良くて異例の再演があったりしたんです。そんな時、修学旅行で東京に行ったらにスカウトされたりして、それは両親の反対もあって結局ダメになったんですけど、その後短大に行きながらプロダクションに入った。最初はコマーシャルでしたね。1本フランスに行ってロケでとりましたよ。でも息の長い女優になるにはとにかくきちんと演技を教えてくれるところで勉強したいと思って、卒業後、1年間だけのつもりで文学座の養成所に入った。それがきっかけですね。
 
鳴門
今回はおかげさまで、9名増えて例会を迎えました。ここ3回連続しています。
我々鑑賞団体へのメッセージをいただけますか。
 
今回は旅公演に出られたわけですが、東京公演だけというものも多いんですよね。文学座は東京ではほんの10日ほどしか公演できないんです。お芝居というのは、やはり長い年月をかけて、寝かせたりしながら続けていくことによって良くなるんですね。今回のように初演で長期間の公演を続けられるのも市民劇場という組織があるからこそ、私たちも勉強させてもらっています。会員が前回に比べて増えたと言っていただけると、いっそう励みになります。これからも共に励ましあって前進してゆきましょう。
 
鳴門
ありがとうございました。

E-mailでのお問い合わせは              鳴門市民劇場ホームページ
nrt-geki@mc.pikara.ne.jp
まで。