幹の会+リリックプロデュース公演「オセロー」鳴門例会(2006年11月25日)に“デズデモーナ(オセローの妻)”役で出演される三田和代さんを公演前に訪ね鳴門市民劇場がインタビューしました。
- 鳴門市民劇場(以下鳴門と略)
- お忙しいところどうもありがとうございます。三田さんには1997年、鳴門市民劇場鳴門例会3周年記念の年に「はつ恋」で来ていただき、そのとき「3周年記念パーティ」にもご参加いただいて、たいへん感激した思い出があります。その後、2001年の9月には、「日本の面影」(地人会)でも来ていただきました。
- 三田(敬称略)
- そうですね、懐かしいです。
- 鳴門
- 昨年5月、幹の会の「冬物語」が例会になったのですが、その際平幹二朗さんから、シェイクスピア37作品すべてをやることを目指していらっしゃるというお話を伺いました。
- 三田
- そうですね。でも同じ作品を何度かやることもあって、今回の「オセロー」は3回目です。ただし平さんがご自身で演出されるのはこれが初めてです。
- 鳴門
- 「冬物語」も平さんの演出でしたが、少し奇抜な演出で驚いたところもありました。
- 三田
- 今回もそうかもしれませんねえ。「オセロー」は、主人公オセローとイアーゴの戦いの芝居といわれるくらいイアーゴの存在感が大きい作品なんです。これまで演じられてきた劇では、オセローを大俳優がやり、イアーゴは中堅どころの俳優がやっていますが、イアーゴがオセローをどう騙すか、に重点が置かれていました。そのために、主人公たるオセローという男の悲劇やオセロー夫妻の悲劇の影が薄くなってしまいがちでした。イアーゴにあまりにも焦点が当たりすぎていたんですね。なので、今回平さんはこの「オセロー」を、あんなに立派な将軍にも実は深いコンプレックスがあって、そのために自滅していく話として演出されました。どんな人にも「コンプレックス」はあります。平さんは、「騙されたバカなオセローとはしたくなかった。今回は泣いてもらうオセローをやりたい」とおっしゃっています。
- 鳴門
- ということは、今回はオセローが前面に出ている芝居なんですね。
- 三田
- とりたててそういうシーンを書いてはいませんけど、そうですね。今までのように、手練手管の俳優がイアーゴをやるのではなく、今回は幹二朗さんの息子さんの平岳大さんが演じています。純粋な目をした若者が騙していく…という話にしているんです。純粋な目をした若者ならつい信じてしまう…誰しもそうでしょう。
- 鳴門
- かなり現代的ですね。
- 三田
- そうですね。そしてイアーゴは純粋だけど少しネクラなところもある。今回はイアーゴという青年の暗い幼児体験も物語の背景になっているという設定にしています。その暗い幼児体験というのは、実は今までの「オセロー」にはないんですが、イアーゴは幼い頃に母親が肌の黒い男に犯されるのです。それが、この青年が肌の黒い人つまりはオセローを憎む基盤になっていると…。
- 鳴門
- 今回の訳は小田島 雄志さんですね。平さんの場合ほとんどそうですか?
- 三田
- 福田 恒存さんのものと半々ですね。この前の栗山 民也さん演出の「オセロー」は今回と同じく小田島 雄志さんの訳でしたが。
- 鳴門
- シェイクスピア作品は翻訳を読んでも昔の言葉づかいなど多くて、堅い感じですね。
- 三田
- 福田さんの翻訳は堅いかもしれませんね(笑)。でも小田島さんのものも…同じでしょうか。やはり翻訳劇ですから…。
- 鳴門
- 今回演じられるデズデモーナで難しかったところはありますか?
- 三田
- 10年前、蜷川幸雄さんの演出の「オセロー」で(松本幸四郎さんがオセロー役、黒木瞳さんがデズデモーナ役)、私はエミリアの役をやったんです。エミリアはたいへん体力の要る役だったので、そのときには「デズデモーナならやれそう」と感じたものでした(笑)。なので今回平さんからこの役をいただいたときもできそうに思えたのですが、一方では、デズデモーナは若妻のイメージなので無理かなあという思いがありました。それで「自信がない」と平さんに言ったら、「このボクがオセローなんだから(大丈夫)」と言われて(笑)。今回は「夫婦愛」を出したいからがんばれとおっしゃってくださって決心しました。 でも本当に、蜷川演出もそうですが、いろいろな演出があります。たとえば今回の演出では、「イアーゴ」という名前はスペイン系なので、音楽・踊りでフラメンコを織り込んだりしています。
- 鳴門
- それはどういったところで出てくるのですか?
- 三田
- イアーゴが感情的になったりフラストレーションがたまるところなど…ですね。彼の苛立ちをフラメンコのステップで表現するといった感じです。
- 鳴門
- 三田さんは劇団四季のご出身ですね。
- 三田
- そうなんです。それでよく歌やダンスが得意なのでは?ときかれるのですが、私が在籍していた頃四季は、ミュージカルはまったくやっていなかったんですよ。
- 鳴門
- どうりで。三田さんはどちらかといえば古風な役柄がお似合いになるなと思っていました。
- 三田
- 私が四季に入った頃は、フランスの作家のものなど、台詞劇のみを上演していました。18年間在籍していましたが、入団して5年目くらいのときに劇団四季が初めてやったミュージカルに出ました。モーツアルトの歌劇「フィガロの結婚」をロック風にアレンジしたもので、全国を公演しました。浅利慶太さんはこれに手ごたえを感じてこの路線でいけると思われたのではないでしょうか。その後四季はすごいスピードでミュージカル化していきましたから。それでもまだ私がいた頃は、台詞劇との2本立てで「カッコーの巣の上で」なんかもやっていたんです。でもそのうちミュージカル1本化の時代が来るだろうと感じて退団しました。四季ではいわゆる洋ものばかりだったので、やめてからは敢えて和物、日本の作品を選んでいったというところもあります。その頃からこういった演劇鑑賞会との関わりも増えてきました。日本の作品の方が…たとえば服装ひとつでも、着物の方がラクですね。
- 鳴門
- 今までで思い出深い作品にはどんなものがありますか?
- 三田
- そうですね、自分である程度やれたと思うのは、新国立劇場での「夜への長い旅路」(ユージン・オニール作)でしょうか。心に残っている作品です。あと、こまつ座の作品にも多く出させていただいています。井上ひさしさんの作品も楽しいですね。
- 鳴門
- 最近こまつ座の「東京裁判三部作」に出演されましたよね。
- 三田
- そうです。「夢の痂」をやったばかりです。
- 鳴門
- 井上ひさし作品ではそのほかに「頭痛肩こり樋口一葉」にも出演されていますよね。
- 三田
- はい、あれは演劇鑑賞会向きではなく新国立劇場でやったものですけど、「おこうさん」を演じました。あの役は普通宝塚出身の方がやるもので、それ以外の役者がやったのは私が初めてではないかしら。歌には苦労しましたよ(笑)。
- 鳴門
- これからやってみたい役などありますか?
- 三田
- そうですね。今までは自分がやってみたい役というより、声をかけていただけたら何でもありがたく、スケジュールがあいている限りお受けしてきました。でも流石に最近は年齢も感じますし、ペースダウンということも考えています。毎回の舞台、ペースを落とさずにやるというのはたいへんなんです。
- 鳴門
- でもまだまだ年齢の高い役者さんはたくさんいらっしゃいますし。大滝秀治さんなども80歳を超えていらっしゃいますよね。
- 三田
- そうですね。大滝さんとは二人芝居をやったことがあるんですよ。とても個性的な方で印象深いです。
- 鳴門
- そもそも三田さんはどんなきっかけで女優になられたのですか?
- 三田
- 7歳上の姉が芝居好きだったんですよね。新劇が華やかに活躍していた時代です。私は大阪生まれ大阪育ちなんですが、関西にそういった劇団が来ると、姉は必ず観にいったんです。そのとき姉は大学生くらいだったでしょうか。でも当時は娘が一人で行くことがなかなか許されなくて、私を一緒に連れて行ったんです。ですから中学生くらいから観ていることになりますね〜。私、芥川比呂志さんの「ハムレット」を観ているんですよ!これが新劇を観た最初でしたね。その頃はとりたてて演劇に思い入れがあったわけではないんですが、その後普通に大学生活を送っていたとき、何かこのままではつまらないと思い始めました。それで、ちょうど俳優座養成所が出している研究生募集を見たときに応募してみたんです。それに通らなければ女優にはなっていなかったかもしれませんね。
- 鳴門
- では随分幼い頃から演劇に親しまれていたと…。
- 三田
- そうですね。だから今の若い人にも、たとえば高校生くらいの子がお母さんと一緒に観劇するなど…になってくれればなあと思いますよ。
- 鳴門
- 最後に私たちのような演劇鑑賞会の会員にメッセージをお願いできますか?
- 三田
- 会員になるとやらなければならないことも多くて、そういうのがイヤで入会しないって人が、実は私の友人にも確かにいます。でも、東京にいても演劇に接する機会というのはそんなにはなくて、その機会はすごく贅沢な時間だと思うんです。それをこんな地方でも味わえることは素晴らしいことです。芝居を観る時間というのは贅沢な時間ですよね。そう思って、続けて観て欲しいと思います。
E-mailでのお問い合わせは 鳴門市民劇場ホームページ nrt-geki@mc.pikara.ne.jp まで。