劇団前進座公演「お登勢」鳴門例会(2007年3月31日)に“三田昴馬”役で出演される山崎辰三郎さんと“加納志津”役で出演される今村文美さんを公演前に訪ね鳴門市民劇場がインタビューしました。
- 鳴門市民劇場(以下鳴門と略)
- お忙しいところどうもありがとうございます。辰三郎さんには鳴門市民劇場独立5周年記念パーティに来ていただきました。その節はどうもありがとうございました。
- 山崎(敬称略)
- 鳴門グランドホテルでしたよね。懐かしいです。
- 鳴門
- 四国をずっとまわってこられて、反響はいかがですか?
- 山崎
- 四国は、最初の例会が宇多津(香川)でした。比較的小さなホールだったんですが、予想以上によかったですね。
- 今村(敬称略)
- この作品は3年前から立ち上げていますが、今までで一番反応が良かったのでは……。土地のせいでしょうか。いい反応をいただけると嬉しいです。
- 鳴門
- この「お登勢」は大作なので、いろいろたいへんだったのではないでしょうか。
- 今村
- 舞台では、原作の半分の北海道に行く前までしか描いていません。最後までとなると、とても2時間半では無理なので。
- 鳴門
- 徳島県出身の辰三郎さんは、「稲田騒動」をご存知だったのではないでしょうか。
- 山崎
- それが知らなかったんですよ。この作品をやることになって急遽勉強しました。
- 鳴門
- 作品への思い入れにはどんなものがありますか?
- 山崎
- 人形(浄瑠璃)を使ったり三味線の音を入れるという、脚本・演出のジェームス三木先生の特別な趣向があり、初めての挑戦だったものですから、その挑戦にこたえたいと思いました。
- 鳴門
- 徳島の会員には人形浄瑠璃はとても身近で、この作品は徳島向けだと喜んでいます。また、これまで徳島での前進座の例会はすべて歌舞伎だったので、今回はそういった意味でも楽しみです。
- 今村
- 今まで歌舞伎作品だけだったんですね。私も初めて鳴門にお邪魔しました。前進座は歌舞伎以外に、ミュージカルから歴史劇・大衆劇・時代物色々な作品を上演しますから、女優も半数近くおります。ですから、前進座の養成所では、モダンダンス・日本舞踊、声楽・義太夫・長唄……和洋どちらも習います。
- 鳴門
- そうすると、養成所時代に、歌舞伎に進みたいとか、洋物に進みたいとか、道が分かれるのですか。
- 今村
- そうではありません。どちらもできるように修行して、どの作品に出演するかも、自分が選ぶのではなく、劇団が決めるんです。
- 鳴門
- そういえば「五重塔」など(歌舞伎以外)もたくさんありますね。
- 山崎
- 歌舞伎の演目は半分程度ですよ。
- 今村
- 前進座は、女優が、たとえば「女殺し油地獄」などの歌舞伎に出られる唯一の劇団です。
- 山崎
- 現代劇の「銃口」や「旅の終わりに」などは徳島へも来たのではなかったでしょうか。
- 鳴門
- 残念ながら例会としては実現していません。例会になった女優による舞踊「雪祭五人三番叟」(1997年11月例会)はみごとでした。
- 今村
- あの作品、私は東京公演には出たのですが、残念ながらこちらには来られませんでした。ハードな舞踊です。5人の踊り手の気持ちがひとつになる、またひとつにならないとまとまらないんです。
- 鳴門
- 衣装がとても重そうでした。
- 今村
- 重いですよ!
- 山崎
- そんな風に女性が歌舞伎に出られるのも前進座の特徴のひとつです。
- 鳴門
- 山崎さんは徳島県のご出身ですが、この道に入られたきっかけはどんなことだったのでしょうか。
- 山崎
- 私の場合は阿南高専時代に文通をしていた友達と一緒に芝居を観にいったこともきっかけかもしれません。18歳のとき、労演で観た新人会の芝居「オッペケペ」にたいへん感動しましてね。阿南高専学生だったので、一応卒業してサラリーマンも少し経験したんですが、やはり演劇の道に進みたくて23歳で上京しました。芝居への道の23歳のスタ−トは遅い方です。前進座に入ったのは、たまたまの要素が強いのですが、今まで続けられたのは、前進座の芝居が水に合ったということが大きいですね。
- 鳴門
- では、今村さんの方が劇団では先輩ですか。
- 今村
- いいえ。入座はずっとあとです。ただ、前進座に生まれ育ちましたから、私がこの道に入ったのに環境は大きく影響しているでしょうね。母は舞踊家でしたし、踊ることが私自身好きですから、舞踊家を目指しましておりまして、その芝居心のため、前進座の養成所に入ったのが、今こうして舞台の道を歩んで……。おばのいまむらいずみの「出雲の阿国」「さぶ」等、幼い頃観たものが憧れとして心に残っていたのが大きいと思います。
- 鳴門
- 歌舞伎役者の方は3〜4歳で初舞台とかききますが。
- 今村
- 私は7歳のとき「五重塔」が初舞台です。
- 鳴門
- 今回の作品は、幕末〜明治、いろいろな生き方ができた時代が舞台です。その中で、今村さんは、演じられる志津という女性にどこか共感するところとかがありますか。
- 今村
- 時代がどう変わるか、人々が右往左往した頃、特に男性はとにかく自分を守ることで一生懸命でしょう。そんな中で純粋にけなげに生きる女性がお登勢ですし、志津の方は、藩士の娘としていろいろなしがらみはあるんですが、親を筆頭に男たちが慌てているのを冷静にみて、時には下手な政治家よりも賢いくらい時代の先をみつめる力を持った女性です。でもその相手がコロコロ変わるんですね。びっくりするような生き方。彼女なりに懸命に、楽しく生きた女性ではないでしょうか。上昇志向も強く……失敗もあったり、間違いもあったりしますが、共感できるし好きです。ですから私も最終的には楽しんで舞台で生きたいと思って日々つとめています。
- 鳴門
- お登勢と志津では、どちらが自分に近いと思われますか。
- 今村
- 私は役に同化するタイプらしいので、思い切って今は志津といっておきます。
- 鳴門
- お2人はいわゆる職場結婚ですよね。
- 山崎
- そういえばそうです。劇団では結構ありますよ。生活サイクルも同じだし。
- 鳴門
- 同じ舞台に出るというのはどんな気持ちですか。
- 今村
- 今回の父加納市左衛門役の(藤川)矢之輔は兄ですし、家族だからといって特に違和感はありません。
- 山崎
- 夫婦役もしたことがありますよ。やりにくいところとやりやすいところ、両方ありますね。
- 鳴門
- 今でもご家庭内では芝居の話が多いですか。
- 今村
- そうでもないですね、むしろ普通に、子供の話とか。
- 鳴門
- お子さんもこの世界を目指されているのですか。
- 今村
- 踊りを3歳から教えましたが、つい厳しくなっちゃって逃げられました(笑)。芝居を観たり応援もしてくれますが、この世界に入らず独自の道を歩んでいます。私たちも、この世界の苦労を知っていますし、無理にすすめるつもりはありません。
- 鳴門
- 前進座は世襲制ではないんですよね。
- 今村
- そういうところから飛び出したのが前進座です。
- 山崎
- 松竹さん(の歌舞伎の世界)は未だにかたくなに世襲制を残しています。そのいいところもあるでしょうけど、松竹さんでは、私のような田舎から出て歌舞伎でも大きな役をやるという道が閉ざされているというのは、大きいと思いますよ。
- 鳴門
- 次にやりたい作品などはありますか。
- 山崎
- 前進座は常にいろいろ持っているので、市民劇場さんへということであれば、来年の予定はお決まりのようですから、再来年ですね。
- 今村
- せっかく四国出身でいて、すてきな役をつとめているんだし、是非「出雲の阿国」を観ていただきたいわよね。
- 山崎
- 人頭が多め(40人超)で、少したいへんですが、かつて、いまむらいずみが全国で300回以上を回り、その後3年前にリニューアルされています。演劇鑑賞会では、中国、長野、関越をまわっているのではないでしょうか。
- 今村
- 私も出演しています。実はこの「出雲の阿国」は、そのテーマが演劇鑑賞会さんの運動と共通するところがあると思います。『なぜ人は銭を払うて私らの唄や踊りを観にくるんじゃろうか』『楽しんだ心が残ろう。銭では買えぬ程のものが残ることもある』という、演劇の原点のような……。
- 山崎
- 歌舞伎発祥のときの人ですからね。市場型にはめていった人、台詞を大事にして地方を回った人です。「芝居なんか観なくても生活はできるんだけども、なぜ(観るの)?」という問いかけをテーマにしている作品で、演劇鑑賞会と重なるでしょう。
- 鳴門
- 「お登勢」は、時代劇で会員も大きな興味を持っている作品です。搬入は大掛かりで舞台装置が楽しみになりました。
- 山崎
- この作品は、基本舞台(装置)をしっかりつくっているし、衣装もかつらなどを含めて多いので、搬入はたいへんだったでしょうね。
- 鳴門
- 最後に、鳴門市民劇場会員へのメッセージをお願いできますか。正直いうと会員数についてなど、苦しい状況にあります。
- 山崎
- 全国ではもっとたいへんな状況のところもみていますよ。四国は、この4県だけで16ステージ、大したものではないでしょうか。徳島は人口80万人の県で5回公演、誇るべきと思います。我々劇団を支えてくれているのは全国の市民劇場のお力が大きいので、波はいろいろあると思いますが気にしないでがんばってほしいです。
- 今村
- さきほどと重複しますが、笑ったり泣いたりを共有できるすてきな運動です。私たちも楽しんだ心が残るような作品をつくっていきます。一緒にがんばりましょう。
E-mailでのお問い合わせは 鳴門市民劇場ホームページ nrt-geki@mc.pikara.ne.jp まで。