劇団俳優座公演「樫の木坂四姉妹」鳴門例会(2012年5月23日)で“葦葉ひかる(次女)”役をされる岩崎加根子さんを開演前の楽屋に訪ね鳴門市民劇場がインタビューしました。
- 鳴門市民劇場(以下鳴門と略)
- この度は開演前の貴重なお時間に、インタビューのお願をご快諾いただきましてありがとうございます。今回のインタビューの内容をホームページと機関紙にお写真とともに掲載させていただきたいのですが、よろしいでしょうか?
- 岩崎(敬称略)
- あら、まあ、お化粧とかしてないんですが…。
- 鳴門
- 本当ですか?お肌お綺麗ですね。
- 岩崎
- 舞台でも、このままなんですよ。額に傷のメイクはしますけど。お化粧とかすると早変りの時に大変でしょ?
- 鳴門
- 早変りのシーンがあるんですね?
- 岩崎
- ええ、お出かけ用の服に着替える場面なんですけどね。舞台の前にバラしちゃうといけないわね(笑)
- 鳴門
- ところで、四国の公演では、鳴門と徳島で最後ですね。
- 岩崎
- ええ、他県をぐるっと回って最後に徳島県です。昔は、中村・宿毛・土佐清水の方まで回らせていただいたんですが……。
- 鳴門
- そうですね、以前は四国内に9組織もあったんですが、私達の努力が足りないもので今は6組織になってしましました……。
- 岩崎
- 随分少なくなりましたよね。東京でも、若い方の劇団が次々に出てきますから、若い方に観に来ていただくために四苦八苦ですからね。
- 鳴門
- でも、俳優座さんには若い劇団員の方が、多いですよね?
- 岩崎
- そうですね。俳優座には、私の若い頃にも新しいお芝居の趣向は若い方に任せてという風潮がありましたからね。千田是也先生は「いいんだよ、若い子が出てくるのは。僕の若い頃みたいだよ。みんなどんどんやればいいんだよ。」って。そう言えるのも、ご自身に自信がおありだったからでしょうね。今の若い人達には、俳優座がどういう方向を目指しているのか、何が根本にあって俳優座が成り立っているのかを理解し、演劇界の若い力を受け入れながら、私達の若い頃がそうであったように俳優座でしっかりと基礎を築いていってほしいと思います。だって、今の私たちもそうやって俳優座を造った人達に育てていただいていますから。
- 鳴門
- 岩崎さんは、俳優座の一期生でいらしたんですよね?
- 岩崎
- よくご存じですね。でも、養成所ができる前に、研究生候補というのがあったの。15歳で入りました。千田先生が若い人たちにしっかり基礎を憶えて欲しいという思いから、研究生候補の人が一期生として、養成所が始まったのよ。
- 鳴門
- 岩崎さんは、たくさんの作品に出演をされていらっしゃいますが、思い出深い作品はおありですか?
- 岩崎
- 私は、研究生候補の頃、初舞台は田中千禾夫先生の「おふくろ」の峰子でした。一期生として養成所に入って、そのころ、チェーホフの『桜の園』を俳優座が上演する際に、千田先生が、「アーニャは若ければ若い程いい」っておっしゃって、まだ養成所にいた私にアーニャ役を下さったんです。本当は養成所の人は本公演には出られないんですけど、17歳のおかげですね(笑)。その後、30年して『桜の園』再演するときには、「加根子は昔、アーニャを演ったんだ、ラネーフスカヤを演ってみる時期だね」って言って下さったの。東山千栄子追悼公演でした。でも、不思議なんですね。アーニャの時に聞いていた東山さんの口調が知らず知らずにでてしまったんでしょうね。千田先生は、それでは駄目だ、新しいラネーフスカヤを造るんだとおっしゃられ、ラネーフスカヤが出てくるときは、アールヌーボーに影響されて細いパイプタバコをプカプカふかしながら出てくるような演出をされたりね。昔したかったこと、できなかったことをしたいと、演出を全部がらりと変え、最後は斧で桜の木を切る変わりに、チェーンソウを使ったり。でもそれは、ちゃんと歴史背景を調べて、台詞の中から整合性を見出して千田先生は演出なされていたんですよ。その後千田是也追悼公演と俳優座劇場プロデュースで合同公演2回やりました。テェーホフ4部作の計画で、去年は『ワーニャ伯父さん』、今年は『かもめ』、来年は『三人姉妹』、そして最後に『桜の園』を演らせていただこうと思っています。年代によって、感じ方は違ってきますね。チェーホフってなんて深いんだろうって今更ながら思います。
- 鳴門
- 以前の演出を変えて新しいものを造るのって、とても大変なことなんでしょうね?
- 岩崎
- ええ、そのころ千田先生は70歳を超えていたと思いますから、すごいパワーをお持ちの方だったと思います。私も、今年この芝居のお勤めが終わったらところで、80歳ですからね。
- 鳴門
- 若々しいですね。舞台に立っていると違うんでしょうね。
- 岩崎
- ええ、舞台に立っていると、年のことは忘れてしまうんですよね。
- 鳴門
- 力強いと言えば、昨年の11月には『脱原発をめざす女たちの会キックオフ集会』では力強い朗読をなされましたよね。
- 岩崎
- あら、どうしてご存知なの?私、あの詩が大好きなんです。
- 鳴門
- どなたの詩なんですか?
- 岩崎
- 谷川俊太郎さんの『生きる』という詩です。教科書にも載っているんですよ。谷川さんとお会いした時に、「何かの機会があればこの『生きる』という詩を朗読したいと思うんですけどいいですか」とお伺いしたところ「どうぞ、どうぞ、何処ででも読んでください」って言ってくださって、それから、いろんな場面で読ませてもらっているんです。この間の『脱原発をめざす女たちの会キックオフ集会』でも、いろんな想いをお持ちの方がいらしたので、私は女優として朗読で気持ちを伝えたいと思ったんですね。
- 鳴門
- では、岩崎さんご自身がこの詩を選ばれたんですね。
- 岩崎
- ええ、なんでもいいからと言われたので、私はこの詩が一番ふさわしいと思いました。私は『ななにんかい』という評論家の吉武輝子さんが中心となって結成された会に参加していまして、この会は各分野で活躍されている7人が、語りと朗読を通じて心の交流、人間にやさしい社会を次世代へと結成されたんです。以前吉武輝子さんの「置き去り−サハリン残留日本女性たちの60年」を俳優座の有志が夏に16年も続けている朗読会「戦争とは・・・」で読みました。先日吉武さんがなくなられ「ななにん会」はなくなってとても残念です。日本と韓国でも戦争中はいろいろあったでしょ。サハリンで日本人と結婚した韓国の方が、戦争が終わって韓国に連れて帰ったら、お姑さんが敵国の女を連れて帰ったってことでつらい目にあったという話も中にあって、特に戦争は女子供に被害があると言われるのは本当だなって感じました。私も終戦の頃は子供でしたしね。そんな思いから、『脱原発をめざす女たちの会キックオフ集会』に参加させていただいたんです。あまりに辛いことがあると、人間ってそれを吹き飛ばすためにひっくり返そうとするんですね。そうじゃありません?怒ってみたり、笑い飛ばしたり自分の中で気持ちを置き換えるんですよね。だから人間って生きていけるんですよ。今回の『ひかる』もそんな人間なんですよね。本当に強い人間ではないからこそ、一生懸命この現実をひっくり返そうと足掻いているんだと思います。原爆をみとめたくないと心底思って。
- 鳴門
- 3人のベテラン女優が姉妹の役で共演するというのは、かつてなかったですよね。座付き作家として活動してきた堀江安夫さんの脚本でもあり、一生懸命ひっくり返そうと足がく姿は、岩崎さんにも当てはまる部分があるのですか?
- 岩崎
- よく当て書きって言われるんですけど、私、堀江さんにはお会いしたことがなかったのよ。私のことを見ていてくれたのかな。
- 鳴門
- では、演じられて『ひかる』と共通するところなどはありますか?
- 岩崎
- 私は、全然自分とは違うと思ってた。でも演じるには手ごたえのある役だなって思いました。誰でもそうだと思うんですが、自分からみる私、人から見られる私って違うと思うのね。この身体を材料に演じることしか私にはできないので、いかに『ひかる』の感性を表現できるかを考えて演じています。
- 鳴門
- 若い役者さんと二人で一人を演じるにあたり工夫されたことなどあったのでしょうか?
- 岩崎
- 演出は、それを考えて若い人に演技をつけていると思います。でも、役者同士はうっかり駄目だしをして逆に繁雑になったりしたらいけないので、私はできるだけ黙っているようにしています。それに10代と70代では、その間に随分と人生がありますから変わっていていいんですよ。ただね、小澤さんは綺麗でスラっとしてて立派な体格でしょ、年をとったらしょぼくれたんじゃないかって言われたことはありますよ(笑)
- 鳴門
- 岩崎様のお気に入りのシーンがあればお教えください。
- 岩崎
- 全てですね。全部が大事で、全部が次に続いていくものですから取り立てて何処がというのはないですね。それに、舞台は私達と今日観ていただいている方で造っていくものですから、基本は同じですがまったく同じようには二度とできないですからね。
- 鳴門
- 最後に、鳴門市民劇場の会員に向けて一言お願いいたします。
- 岩崎
- さっきの話ではないですが、芝居は一瞬一瞬の積み重ねで人生が出来上がっていくものでしょ。皆様と一緒になって造っていくものですから、とにかく観てください、感じてください、そして批評してください。それで私たちは育てられてゆくのですから。食わず嫌いにならないで、人生でもつまずく時もあれば、にこにこ太陽に向かって走っていく時もあるように、芝居も肌に合うものもあれば合わないものもあると思います。一度見て芝居嫌いにならないように、どうぞ劇場に足を運んで芝居を観て、私たちを育てて欲しいと思います。そして、私たちは今日の芝居がよかったから次も観ようと思って下さるようにベストを尽くして舞台を造ってゆきますので、これからもひとつよろしくお願い致します。
- 鳴門
- 今日は、ありがとうございました。公演後のロビー交流会も楽しみにしています。
E-mailでのお問い合わせは 鳴門市民劇場ホームページ nrt-geki@mc.pikara.ne.jp まで。