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土居裕子さんに開演直前インタビュー

楽屋訪問59

  俳優座劇場プロデュース「音楽劇 わが町」鳴門例会(2013年5月12日)で“エミリー”役をされる土居裕子さんを開演前の楽屋に訪ね鳴門市民劇場がインタビューしました。

土居裕子
鳴門市民劇場(以下鳴門と略)
各地の反応はどうでしたか?
土居(敬称略)
昨日の高松では2,000人程入るホールでの上演だったんです。ホールが大きすぎて舞台と客席が遠かったので直の反応は得られなかったのですが、今朝お見送りにいらしたサークルの方から「日常生活が続く感じなのかなと思っていたら、最後は本当に感動しました」という言葉をいただきました。「わが町」の1幕2幕は、平凡っていう言葉が適切かどうかはわかりませんが、子供たちが学校に行ったり、ご近所さんとの世間話など、なんでもない日常の生活が繰り広げられます。でも3幕では、その平凡な日常がなんて素敵なんだろう、そして自分はこの大切なひとつひとつをどうして記憶に焼きつけて生活してこなかったんだろうって気が付きます。その時に、皆さんには1幕2幕の何気ない日常の素晴らしさを実感してもらえる筈ですので、何も起こらないなと思われるかもしれませんが、どうかじっくりと2幕までの日常を観ていただきたいと思います。
鳴門
もともとは「わが町」は音楽劇ではなかったんですよね。出演者も少ないと聞いたのですが、原作と異なるのでしょうか?
土居
「わが町」はおっしゃられるようにストレートプレイのお芝居です。しかし内容はほぼ原作通りです。世界でこんな少人数で「わが町」上演しているのは、うちだけなんじゃないかと思いますが、そんなにストーリーの違いを感じることなく観ていただけると思います。
鳴門
音楽劇とミュージカルとの違いをお教え下さい。
土居
私の中ではそんなに区別はないですね。ただこの芝居をご覧になると、これはミュージカルではなく音楽劇なんだと感じられると思います。
鳴門
セットもかなり簡素なものですよね?
土居
幕なし、セットなし、と台本に書かれています。セットってあるのかなって思われる程シンプルですね。こうやって(水差しからコップに注ぎ、飲むジェスチャーをしながら)コップがあるがごとくお芝居します。
鳴門
舞台上に小道具はないのですか?
土居
はい、ほとんどないですね。1900年ごろのお芝居ですので衣裳もその時代に合わせた非常にシンプルで、色も単色なものが多いです。
鳴門
小道具が無いとなると、演じるのは非常に難しいのでは?
土居
私もそう思ったのですけど、原作には「今ある全ては無である。無から始まり無に帰る」そういう大きな思いが根底に流れています。小道具を使わずセットをシンプルにしたのは、「無」を表したかったのではないかと思います。恥ずかしい話ですが、私おままごとが好きで中学1年くらいまでやっていました。想像力を膨らます点ではそれに似ていると思います(笑)
鳴門
観る者は想像力を膨らまし、自分の「わが町」を創れるお芝居なんですね。
土居
ええ、そうだと思います。初めは何をやっているんだろうと感じるかもしれませんが、その法則が分かってくると、それを楽しんでいただけると思います。
鳴門
その話を聞いてお芝居が、楽しみになってきました。エミリーを演じる上で気を付けていること、土居さんとエミリーの共通点や相違点を感じることはありますか?
土居
エミリーはどこにでもいる普通の女の子ですよね。勉強のできる子ではあるんですが、女の子らしく自分の容姿を気にしたり。
鳴門
コンプレックスを持っている子なんですか?
土居
コンプレックスという程のものではないと思います。母のように綺麗になりたいと思う普通の女の子です。気を付けていることは、すごく人生を楽しもうという思いを持って演じています。1幕2幕で死にたいぐらい楽しい日常を送るエミリーを演じることで、3幕がより強い意味を持ってくると考えています。
鳴門
冒頭の葬送曲の流れる場面はエミリーの葬送の場面なんですか?
土居
まだご覧になられていないんですよね?今日ご覧になられるんですか?
鳴門
はい。
土居
なら、一目瞭然ですので、ここでは内緒にしておきます(笑)。
鳴門
初めにおっしゃっていた「無から始まって無に帰る」という事を表しているんですね。話は変わりますが、土居さんがこの世界に入ろうとしたきっかけをお教えください
土居
大学が音楽系の大学だったので歌はやろうと思っていたんです。大学を出てからお芝居の勉強ができて歌もできるので、劇団四季に入ったんです。それがこの世界に入ったきっかけですね。
鳴門
以前、歌のお姉さんもされていましたよね?
土居
ええ。仕事として歌を始めたのがこの頃です。
鳴門
土居さんの「シャボン玉とんだ宇宙までとんだ」を観たんですが、日本のミュージカルってこんなことまでできるんだってすごく感動しました。
土居
ありがとうございます。私にとって、この作品に出会えたから今があると言える作品です。あれは「ファンタスティックス」の後の2本目のミュージカルでした。私がNHKで仕事をしている時に、演出家の横山さんもNHKで構成作家をされていて、そのご縁で今度一緒にやろうねって言ってくれていたんです。それで横山さんが「これやってみない?」と誘ってくれて、「シャボン玉とんだ宇宙までとんだ」の原作を渡されたんですね。原作を読んでみたら、もうおもしろくておもしろくて、朝4時まで読んでしまいました。夜が明けるのを待って横山さんに電話をして「やらせてください」って(笑)
鳴門
ところで、土居さんの「わが町」はどこですか?
土居
出身の愛媛県の宇和島だったり、子供の頃過ごした大分県の別府が「わが町」ですね。鳴門もいい所ですよね。
鳴門
そうですか?
土居
住んでいると分からないものですよね。エミリーも死んで初めて良さが分かるんです。エミリーは「この後悔の念は私だけなんでしょうか?」って問いかけるんです。そしたら進行役が「みんなそうなんです」って応えます。それが人間なんですね。
鳴門
「わが町」は今ここにある幸せを教えてくれるお芝居なんですね。
土居
そうだと思います。2年前、丁度この初演をやっていたときに3.11の震災が起きました。チケットは完売していたのですが、その日はやむなく中止にしました。翌日「今日なら観られると思ってやってきました」って大変な時にも関わらず、観に来て下さったお客様には本当に感動しました。一瞬にして失ってしまう日常の素晴らしさを伝えているこのお芝居は、私にとっては大切な作品のひとつです。精神世界の話でもあるので、心のトレーニングをしながら観てほしいと思います。
鳴門
土居さんの今ハマっていることはなんですか?
土居
質問とは違うかもしれないのですが、命を預かってそれを育てる使命を自分に課してみようと思い犬を飼いだしたんです。それがもう今年で12歳です。よくこの忙しい中12年もと自分でも思います(笑)。
鳴門
種類とお名前は?
土居
ミニチュアシュナウザーです。村山元首相似のまゆ毛の長い犬です。名前は坊やからとって「坊」です。
鳴門
結構愛嬌のある犬ですよね。最後に、鳴門市民劇場の会員に向けて一言お願いいたします。今回は前例会クリアしました。
土居
まず初めに、私たちを迎えてくださる皆様には言葉で言い表せない感謝でいっぱいです。前例会クリアと聞くと尚の事、嬉しく思います。こうやって地方を回ると、私スーパーマーケットによく行きます。そこでしか売っていないものに出会って感動したり、お野菜のお値段が安くてびっくりしたり、その土地の空気を感じることができるんですよね。お客様が反応される場所も、その土地その土地で違うのです。それがライブのおもしろい所だと思います。東京ではお芝居が昔みたいに上り調子ではないですが、お客様と一緒に作る芸術は絶対なくならないと思います。特に「わが町」はお客様に心を使ってもらうお芝居ですので、今日は私達とお客様が一体となり、きっと楽しんでもらえると思っています。
鳴門
ありがとうございました。
土居裕子さんとインタビューア

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nrt-geki@mc.pikara.ne.jp
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