劇団朋友「女たちのジハード」鳴門例会(2014年9月26日)で“斉藤康子”役をされる加藤忍さんを開演前の楽屋に訪ね鳴門市民劇場がインタビューしました。
- 鳴門市民劇場(以下鳴門と略)
- 「女たちのジハード」のジハード(聖戦)というのは、何に対する 戦いだと思いますか?
- 加藤忍(敬称略 以下加藤と略)
- 最初にこの作品を頂いた時に、聖戦って本当に何だろうとすごく思いました。
- 鳴門
- 男中心社会に対する聖戦かなと思ったんですが?
- 加藤
- 初演の時はそういうイメージを強く持っていて、女性の生き方、女性の社会での立場とか、男社会へのジハードだというのが強かったんですけど、年月がたって(2年)演っていると、今の自分に対するジハードだということが、やっと納得できるようになってきました。外に対する理不尽な社会的立場へのジハードというよりも、今回は内面的な自分に対するジハードです。常に選択して生きていくことに対して、自分でやってみるという感じが強いのです。
- 鳴門
- そのように変わってきたのはなぜでしょうか?
- 加藤
- 自分自身の2年間の生き方だと思います。
- 鳴門
- 周りが変わってきたというのでなく、自分が演じている中で変わってきたということですね。
- 加藤
- 今回は、演出面で深く深くっていう指示があったもんですから、1ヶ月近くで創りあげて行くときに、より自分に引きつけようと思いました。私の役の立場からいうと、まだまだ働いている女性が大変だと思うんですが、劇の世界は平等なので男女の差はないです。お稽古では常に同志であり、敵でもあったりしますけども、男女ということで差別を受けたり、生きづらいということはありません。「女たちのジハード」のヒロインたちが、原作ではもっと社会的立場とか、対男性とか、仕事をする上での女性の地位の低さとかと戦っていますけど、私が今回康子を演じるにあたっては、むしろ自分に引き付けて演ってます。だから聖戦とは自分に対する聖戦という感じで演ってます。
- 鳴門
- この主人公は、会社を辞めて、ちょっと思いもよらないすごい生き方をしますが、そういうことに対しては共感できますか?
- 加藤
- すごく共感できます。康子は最後はピュレを作る会社を立ち上げて社長にまでなり、年商1億を目指してやります。普通の結婚目指して、普通の男性と出会って普通に結婚して、普通に会社にいて、普通に子育てしようと思ってたんですよ。それが思いもよらない方向に行っちゃったんですけど。私たちは、まさかこの鳴門市民劇場の皆さんと出会えるなんて(笑)本当に思ってみなかったし…。決断の積み重ねが、私の女優人生とダブるとこがあります。最初女優をやりたいなと思ってきてから何度もいろんな決断と選択を繰り返してここまできました。彼女も、康子という役自体も他の4人のヒロインも同じです。今の女性はわりとそういうことがあるんじゃないかと思います。
- 鳴門
- 思っていても決断できない。こういろんな事を思い描くけれど、決断するところまではなかなかいけないということですね。でも最近の女の人はすごいけど…。
- 加藤
- すごいですね。本当にネパールに行っちゃた話とかありそうですね。初演の舞台が1996年なんで、すごく新しい女性として描かれているけど、2014年になってみると、作家の描いた世界が実現されているんだなと思いますね。
- 鳴門
- 女の人って大胆だなと思ったんだけど、原作読んでても、大胆だと思いませんか(笑)?この5人の女性は大胆ですよ。康子にしても分別のある、気配りの出来るOLだったけど、最後はピュレを作る会社を作って飛び出していくという、これだけ変われるんかなと思いました。
- 加藤
- 大きな決断をわりと大胆にするかもしれません。女性は、意外に…。
- 鳴門
- マンション買うとかね。
- 加藤
- 男性のほうが今となったら、ちゃんとお嫁さんをもらって家を築かなきゃいけないっていいますね。わりと普通一色なんだけど、最近の女性はすごく自由ですね。
- 鳴門
- いろんな事に縛られないで生きるようになりましたね。昔はそんなことしたら周りから、すごい白い眼で見られて、あそこの女は何やっているんだといろいろ言われたけど、最近は意外と受け入れられる部分もありますね。
- 加藤
- まず結婚しなきゃいけないというのがあります。男探しに奔走します。男の人によって自分の一生が変わるっていう立場でしたね。女優は結婚してないというのが多いですけど、私の友人とかは、学生時代の友人も余り結婚していません。半々ぐらいかなあ。この時代の女性は変わったなと思います。
- 鳴門
- 結婚に余り重きを置いてないって感じがしたんですけど。
- 加藤
- 現代人はですか?そうですね。男性がいい女性を捜していて、女性のほうが結婚する気がないですね。(笑)。
- 鳴門
- 演っていて楽しいですか?
- 加藤
- 楽しいです。本当に。このお芝居は、5人心の内を描いています。私は主人公なのですごい責任を感じてて、プレッシャーでした。今回はものすごく評判が良くて。内面を深くつくりましょうと言った分、お客様が幕が開いた瞬間から、前のめりに台詞を一つも逃さずに聞こうという姿勢がみられ、その集中力が2時間半とぎれないのですね。こちらもそのエネルギーをもらって、もっと大きい舞台にしようとします。そんな大きい交換が出来ていて、幸せだなと思いながら毎日演っています。楽しいです(笑い)。
- 鳴門
- 一番好きな場面はどこですか? お芝居の中で特にここはお勧めと言う場面はありますか?
- 加藤
- 一番ラストで旅立っていった紗織ちゃん、リサちゃんからお手紙が来て読むところ。この作品で好きな台詞なんですが、「人が頑張るのは人から褒められるためではなく、自分の道を生きる力を自分につけるためだ」というのがあります。その台詞に初演のときからすごく共感してきて、「自分の歩く道を自分につけるためだ」となかなかそんな格好いいことを言えないなと思って(笑)。でも、そういう生き方が出来たらいいなと思ってます。ずっと共感してます。自分が迷ったとき思い出したりしています。 この間もロビー交流会で、なんでこんな生き方をしているんだろうと落ち込んでいた女性がいたんです。「今日のお芝居はどうでしたか」と聞くと、「劇場に来るまでいらいらしていて、注意力散漫で、自分の生き方とか、自分が今ここにいることにもいらいらして…、どうしようもないぐらい情緒不安定だったんだけど、最後の台詞を聞いて、本当に今日来て良かった! 眼の前がパーと開けて、明日からまた頑張れる」と言って下さったんです。
- それはうちの役者がみんな涙しちゃったことです。やっぱりその台詞は皆さんの心に残るんだなと思いました。
- 鳴門
- 俳優になられたきっかけは何だったんでしょうか?
- 加藤
- 母が松竹少女歌劇団にいたんです。結婚してやめてしまったんですけども。舞台に未練があったのか、とにかく華やかな世界が好きってことがありました。ミュージカルとかを幼い頃からよく観ていて。最初ミュージカルを演りたかったんです。
- 鳴門
- この道にすんなり入られたんでしょうか?
- 加藤
- いや、もうそんなことは。まず宝塚を受け、途中であきらめて、女子しかいない世界はいやだと急に思って、高校三年生の時に。大学へ行くと決めたんですけど、ずっとレッスンしていたんで勉強も間に合わなくて、結局女子短大になってしまいました。中高6年ずっと女子ばっかりだったので、もう女子ばっかりはいやだと思いました。でも結局短大に進みました。やっぱり女優をやりたかったので、レッスンは続けていました。そんな中で無名塾を受けたんですけど落ちて(笑)。
- 鳴門
- 皆そういう経験を持っていますね。
- 加藤
- いろんなことを巡り巡って、本当に始めたきっかけは20歳の時に入った加藤健一事務所の養成所なんです。
- 卒業するまでに色んな新劇団のパンフレットを集めていて、卒業して受けようと思っていたんです。試験が加藤健一事務所の養成所が一番早かったんですよ。これって縁ですよね。それで受かったので入りました。それまではお芝居は暗いイメージだったんですがコメディーが一杯あるとか、感動できる作品があるなんて思ってもみなかったんです。ミュージカルが好きでミュージカルばかり観に行っていたので知らなかったんですね。台詞の世界も奥深くて素晴らしいなって思って。それこそ私の中では、人生がギューとカーブを切った時期です。
- 鳴門
- 加藤健一事務所にいたのは、どれくらいいましたか?
- 加藤
- あそこは3年間だけなんです、養成期間が。卒業したら皆フリーになります。
- 鳴門
- 加藤忍さんは、名字が加藤だから娘さんかなあと思っていました(笑)。
- 加藤
- 親子役も多いし、本当に偶然ですね。
- 鳴門
- やっぱり偶然ですね。
- 加藤
- 義宗君が息子さんです。加藤だらけになってます(笑)。
- 鳴門
- まだミュージカルをやりたいですか?
- 加藤
- すごいやりたいです。今計画中なんですよ。いつか準備が出来たら是非観てくださいね。
- 鳴門
- 何か趣味とかありますか?
- 加藤
- お休みになったら母とか家族で旅行に行くことです。海が好きなんですよ。潜れるところ。スキューバダイビングしていたんですけど、今は素潜りですね。ダイビングは以前していたんですけど、マレーシアの海のすごく怖い所、すごく上級者向けのところで、パニック症候群になって。二年間ぐらい潜っていなかったのに、潜って急に流されて怖くなってパニックになっちゃいました。それでダイビングは止めました。
- 鳴門
- 最近、流されるというのは多いですね。
- 加藤
- 怖いですよね。結構あるんですよ。ダイビング事故が。パニック症候群というのは女性に多いですね。なってしまった時に、本当に克服するには3、4年かかったんですけど。海上にいるのも怖くなって…「もう早く病院に行ったほうがいいよ」と女優さんに言われました。今は行ったほうがいいみたい。二十歳代の若い女性がなるらしいの。もうならなくなったのは、年のせいかなと思う(笑)。私の場合は、元から閉所恐怖症があったみたいですね。そういう人はダイビングをやっちゃいけないみたいですね。なっちゃうと脳が癖になるそうですけど精神病じゃないけれど肉体疲労とかいろんな原因があるらしいです。しゃべっている時はいいんですけど、これが舞台で出たらどうしようと思った瞬間、もう怖くなってしまう。私も舞台上にいるのが怖くなってしまう時期があって、これじゃ舞台をやめなきゃいけないと思って悩んだ時もありました。病院へ行けばよかったんです。自力で治そうとそういう本が出ているので、そういうものをトレーニングするというのを知りました。
- 鳴門
- 今はもう全然出ないですか。
- 加藤
- 大丈夫です。やっぱり四十歳になったら…(笑)。20代中盤から後半にかけてなったんです。体の生理的なものもあったかもしれない。本当に怖い経験でした。「サマーハウスの夢」の時も妹役の娘が、旅の途中でなってしまって、ずっと私が見ているから大丈夫だよといって手を握っていたのですよ。出番以外の時には、結構多いんですよ女優さんは。
- 鳴門
- 舞台に出て大丈夫ですか?
- 加藤
- いや。舞台に出たら、頑張っているから何とか乗り越えるんですけど、でも襲ってきているんでしょうね。意外に女優さんにパニックが多くて。
- 鳴門
- そういう緊張の仕方があるんですね。僕もインタビューの時に緊張していて、言葉が自由に出てきません(笑)。
- 加藤
- そうは見えません(笑)。
- 鳴門
- その他に趣味とかありますか?
- 加藤
- ダンスは今お休みしています。今、本当に頑張っているのは歌の方です。歌のライブを定期的に、一年に一回やってます。
- 鳴門
- やっているんですか、どこで?
- 加藤
- 50人ぐらい入るお店、ライブハウスで。3ステージを、年に2回やっているんですよ。
- 鳴門
- 是非行きたいです。
- 加藤
- 12月11〜14日に4ステージをします。加藤健一さんを引っ張りだして歌ってもらおうと思ってます。芝居でよく共演する先輩方にも…。私のプロデュースなので、是非来て下さい。あとはヨガを頑張っています。お芝居に入っちゃうともう出来ないんですけど。それと去年はインドへ行ってきました。念願だったことです。
- 鳴門
- 大丈夫だったんですか。ひどいことになったのでは?
- 加藤
- ひどい目にあいました。多分お水でなったんですね。うがいぐらいは大丈夫と思って、ペットボトルの水でない水でしていたんですけど、それでも駄目でした。
- 鳴門
- インドはどこを廻られたんですか?
- 加藤
- インドはツアーで4箇所ぐらい廻りました。詳しいことを知りたいですか?(笑)
- 鳴門
- いやいや、行ったことがないから(笑)。今後の参考にしたらどうかと思って。ニューデリーとかムンバイぐらいしか知りませんけど(笑)。
- 加藤
- 超特急で2週間ぐらいで廻ったので。
- 鳴門
- ガンジス川で沐浴されたんですか?
- 加藤
- いやしませんでしたけど、見ましたよ。入るだけでも下痢するんですって。入らないで下さいって言うんだけど皆入っちゃうのですって。これで皆ひどい目にあうんです。病原菌に感染しちゃうじゃないですかね。でも、向こうの人は、その水を飲んでいるんです。こうやって本当に。リサちゃんのトイレのないところへ行くというのと似ている。
- 鳴門
- そうですね。ネパールのね。
- 加藤
- ネパールにも行ったんですけど、ネパールのほうが断然好きでした。インドは今、のぼり調子なので人々がものすごくギスギスしています。眼を見ただけで、パァーと寄ってきてたかられてしまうので危なくて夜は外へ出られませんでした。
- 鳴門
- 好きな言葉は何でしょうか?
- 加藤
- 好きな言葉は、師匠から言われている言葉なんですけど、「一生懸命遊ぶ」。本気で遊ぶっていうことです。なかなか難しいんですけど、お芝居をするにあたって、「本気で遊べてる?一生懸命遊んでいるか?」と言うのはよく言うんですけど。
- 鳴門
- 師匠って加藤健一さんですか。
- 加藤
- はい。そのことって、ものすごく難しくって。舞台にいる時はいろんな情報が入って、考えながらその役になっています。そういう時は集中力がすごく必要なんだなと思います。はっきり言って失敗してる瞬間もあるんですね。
- 鳴門
- 分かりませんね。観てて間違えたとか。
- 加藤
- 言い間違いとかというよりも、いろんなことを考えながら、その役になりきれているかってことですね。成功している時は自分では何かすごく気持ちが良いもので、自分を見ている自分がいるみたいな感じで、それがたまらなくて芝居を続けているんです。そのためには心身共に健康じゃないといけません。そういうものはなかなか作り出せないと思います。なるべく不摂生しないようにしなきゃいけないのに、お酒が好きなんですよね(笑)。悪の道ですね(笑い)。終わってから皆で飲みます。
- 鳴門
- おいしいでしょうね、終わった後の打ち上げのお酒は。
- 加藤
- 舞台の話をしながら、歓談するっていうのはね。毎日反省会があるの。舞台をやっている人は皆酒がお好きですよね。私は真面目にお家に帰っています(笑)。
- 鳴門
- 私たちのような演劇鑑賞会に対して考えていることがあればお聞かせ下さい。また鳴門市民劇場の会員にメッセージがあればお願いします。
- 加藤
- 10回連続クリアという話を昨日聞いて、皆さんが寝られないぐらい努力をなさっているということを聞いて、先輩の女優さんと共に涙が止まらなくなったんですけど…。本当に有難うございます。皆様のお蔭で、私たちは舞台に立って全国を廻れるようになっています。今の日本全体の高齢化とかを見ていると減っていくのは止められないと思うけれど、でも努力して、頑張ることを投げ捨ててしまったら終わりじゃないですか。ここは劇団側も皆さん側もすごく頑張らなきゃいけないと思っています。苦しいと思うんですけど一緒に頑張っていけたらと思っています。なくなってしまうのは余りに悲しすぎるので頑張りたいと思います。何か出来ることがあったら教えて下さい。
- 鳴門
- 僕たちが教えて欲しいぐらいです(笑)。毎日、毎日苦しい思いをして、少しずつ少しずつ増やしている。
- 加藤
- 今年で何年目ですか?
- 鳴門
- 16年目です。
- 加藤
- これからもずっと続けていけることを願っています。
- 鳴門
- どうも有難うございました。
E-mailでのお問い合わせは 鳴門市民劇場ホームページ nrt-geki@mc.pikara.ne.jp まで。