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阿知波悟美さんに開演直前インタビュー

楽屋訪問75

  加藤健一事務所公演「Be My Baby〜いとしのベイビー〜」鳴門例会(2016年3月18日)で“モード・キンチ”役をされる>阿知波悟美さんを開演前の楽屋に訪ね鳴門市民劇場がインタビューしました。

>阿知波悟美
鳴門市民劇場(以下鳴門と略)
この作品は喜劇としての面白さもありますが、むしろ赤ちゃんが出てきて心温まるもので、最後は自分たちで育てようとなるんですが、阿知波さんはどう捉えられていますか?
阿知波悟美(敬称略 以下阿知波と略)
喜劇というくくりは、どこからどこまでが喜劇で、どこからどこまでがheart warmingなものというのではなく、それは混ざっているわけで、これがコメディーかコメディーじゃないという話ではないような気がします。ただ登場人物が一生懸命になればなる程、お客様は楽しく、役者が愚かさを現せた分だけ可愛らしいと思って笑って下さると思うんですね。その愚かで可愛いところがコメディーとして描かれていると思うので、どこで線を引くかは、私は考えないで演っています。
鳴門
イングランド人気質とかスコットランド人気質とかありますね。そこがこれかと思うところはあるんですけど、何か分かりづらいのですが。
阿知波
つまり気質という言い方をしても、結局私たちは日本人ですから、イングランドはどう、スコットランドはどうっていうよりも、スコットランドというものを、伝統とか文化も何もかも含めて、刷り込まれてきた男と、一方はイングランドにいるというだけで、本人は意識していないが高飛車になっている女。と、そんなふうに捉えてみてはと思います。スコットランドの文化を最初から学習しなくても、お客様が知らなくても楽しめるように作られていると思います。気質を語るとすれば、本当に研究者にきいてみたいですね(笑)。
鳴門
ハギスが出てきますね。非常に面白かったんですが、あれはスコットランドの伝統的な食べ物ですが、それをイングランドの人は非常に嫌っているのですか。
阿知波
日本での納豆だと思ってください(笑)。関東の人は食べるけど、関西の人は食べないっていう。どうしてあんな臭いものを、いやだ気持悪いと思うかもしれないし、これ最高ですっていう人もいる。そのくらいの差だと思っているといいんじゃないでしょうか。つまりそういうものを食べつけない人にはとてもいやなもので、小さい頃から食べている人にとっては何で?と思う。そこに相いれない何かがあるのですね。けれども赤ちゃんの力で相寄っていくっていう面白さがあります。そういうふうに思っています。
鳴門
舞台を練り上げていく中で、いろんなご苦労があると思いますが、その中で心にひっかかることとか、あったらお話しして頂けませんか。
阿知波
心に引っかかる苦労ですか。それは膨大な台詞ですね(笑)。これくらいの歳になると、あれを正確に覚えるというのはやはり大変でした。受験生のように勉強しました(笑)。単語帳に書いて、表に相手の台詞を書いて、裏に自分の台詞を書いて、電車の中でもどこでも、ずーっとやってました(笑)。
鳴門
うわー。それを公演が始まるまでしていくわけですか。
阿知波
勿論。今でもやっています。毎朝、一回は通してやっておかないと、不安なので。
鳴門
今回イングランドの女性を演じていますけど、演じながら自分で面白いなあと思われることがありましたか。
阿知波
イングランドの女性だからという事ではありませんが、この作品は、演出方法として、ほとんど暗転を使わないで場を転換していきます、その舞台転換ですね。いろんな場所、30場があるんですけど、次々、次々と変わっていきます。それもスタッフが丸見えで、全部転換していくんです。そういうのも観劇なさる方にとっては楽しみの一つじゃないかと思います。 私にとっても、テンポが早く、次々に場面転換し、しっとり泣いて涙が出てきたなあと思うと、次は満面の笑みで出てこなきゃならない、それも大急ぎでやらなきゃならない、こういう作劇法も面白いなあと思って演っています。
鳴門
その上で何か特別に工夫されていることがありますか?
阿知波
早変わりの時間をなるべく短くすることですね。スタッフの方たちも舞台転換をなるべく早くして、観て下さる皆様を待たせない努力をしています。私たちも着替えを、わあーとやって、白けさせないように、なるべく短い時間でやれるように、いろんなところを全部マジックテープにしたりとか、ピタッ、ピタッとやるというようなそういう工夫はしています。
鳴門
役の上で特に自分なりに心がけていることがありますか。
阿知波
最初は絶対いやと思っているんだけど、交わらない考えの人たちが少しずつ溶けていく、その少しずつ溶けていく様が観客に伝わればいいなあと思っています。
鳴門
話が変わりますが、どのようなきっかけで女優になられたんですか?
阿知波
元々本を読むのが好きだったんですけど、ある日に読んだ戯曲にすごく想像力がかきたてられて、戯曲って面白いなあと思ったんですね。そして中学の時には演劇部がなかったので、高校に入ってから演劇部に入りました。高校2年の進路を決めなきゃいけない頃に、たまたま北海道へ民藝の「奇跡の人」という芝居が来たんですけど、奈良岡朋子さんがおやりになっていたアニーサリバンを観て、アニーサリバンを演りたいと思った。それがきっかけです。でも民藝には行きませんでしたけど(笑)。
鳴門
最初から舞台俳優を目指していたのですね?
阿知波
そうですね。
鳴門
舞台を離れて、日常生活はどうですか?
阿知波
お料理が好きです。
鳴門
わあー、いいなあ。
阿知波
何しろお料理が好きで。今日も、実はこのインタビューの前に、スーパー・キョーエイへ行ってきたんですよ。地方へ出掛けると大体一回はスーパーへ行くんですよ、その土地ならではの食べ物があるじゃないですか。今日もまず荷物をホテルに降ろして、その後ぶらぶらしながらスーパーへ寄って、まずここは海に近いから、魚売り場へ行って、おーおーおーと言いながら、あー台所が欲しいなあって、わめきながら来ました。台所があったら、皆に食べさせてあげられるのになあと思ってね。
鳴門
普段料理されているんですか。
阿知波
勿論です。普段からしています。だからああいうものを見ると、いてもたってもいられなくなる。魚もおいしそうだったし、野菜も採れ採れのが、あそこに並んでいて、しかも安いし(笑)。ビックリしちゃった。うーん。
鳴門
安いですか。東京のほうが安いと思いますけど。
阿知波
まさか。こちらが断然安いですね(笑)。大根一本80円でしたよ。東京では、多分250円ぐらいしますよ。
鳴門
えー。
阿知波
ねえ(笑)、買ったことないんですか。そう80円とかでビックリしました。
鳴門
ところで趣味は何ですか。
阿知波
なくはないんですけど。一杯ありすぎて。一番好きなのは料理ですね。 本を読むことも好きで、小説はよく読みます。あとは何かこまごましたものを作ることかな。小さいことを集中してやると、すごく、すーっとするんですよ。お料理もそうですけど。
鳴門
どんな料理をするんですか?
阿知波
日常やっていることなので、洋風から和風までなんでもしますよ。時々お友達を呼んで、家でパーティーやったりとかもします。この間も、ここへ出かけて来る前にしましたね。10日以上家を空けるから、冷蔵庫にある食材の在庫一掃セールみたいにして、お友達を皆呼んで食べて、冷蔵庫を空っぽにしてきました(笑)。
鳴門
心に残っている人、本、映画とかありますか?
阿知波
うーん。変わってきているからね。余りパッとは思い浮かばないけど、映画だったらメリル・ストリープさんが素敵だなあといつも思っています。
鳴門
どういうところが素敵ですか。
阿知波
作品に対する挑み方というか、一つ一つの芝居の作り方というか。そういう意味で言うと、とっても魅力的な女性だなあと思います。
鳴門
去年、弓澤さんが講演してくれたんですが。どんな経緯で劇団に入ったんですかと聞いた時に、阿知波さんがOKを出してくれて、それで入れましたと言ってました。
阿知波
先ほど聞きましたが、本当にそうなんですよ。皆は余り賛成しなかったんですよ。私は彼のことを、「面白いじゃない、いいんじゃない」と言ったんですよ。ひどいけど面白い子だなあと思って。態度も悪いし(笑い)。いや本当に。その、不良じゃないけど個性的な子だったんですよ。髪の毛も辮髪みたいなポニーテイルにして、ここからバーっと、男の子なのにこんな長髪ですよ。オーディションだと、ちょっと気取ろうとするじゃないですか、それを全く気取らないんですよ。台詞をちょっと読んでみましょうと言ってやらせますよね。すると、「一人でやりますか、それともおばちゃん相手に」みたいなこと言われて、いいですよと言って相手をした。だけど何の気後れもなくやるんですよ。皆は、あんな態度の悪い子はいないだろうと言っていたけど、私は面白い、ああいうのが面白い、と言って賛成しました。
鳴門
阿知波さんのお蔭だと言ってましたよ(笑)。
阿知波
あっはっはっはっは(笑い)。それなら私に何かしてくれりゃあいいのにね。(笑)彼からは何も贈られていないよ(笑)。
鳴門
でも話は面白かったですよ。
阿知波
ああそれは良かったです。
鳴門
本人は入ってから何か変わってきました?
阿知波
そうですね、大人になってきましたので。当初は子供の面影というか、少年の面影が一杯あった。世間知らずな分だけ面白かったが、段々世間を知ってくるじゃないですか。大人になってきてしまって悩むようになっちゃったですね(笑)。悩むようになっちゃったので、少しずつ迷いも生じてくるらしく、時々相談されたりもしますけど。何言ってるの、最初の頃のあれでいいんだよ、いつものようにパーっとやりなさいよと言うけど、そうしたら分かったと言いながら(笑)、何か悶々としながらも、はじけようと一生懸命やってくれています。
鳴門
阿知波さんの人生の中で芝居はどういう位置付けですか。
阿知波
がっかりさせるような事を言っていいですか。仕事です(笑)。本当に仕事ですから。皆さんはがっかりするかもしれませんけど、崇高な目的なんかなくてごめんなさい。
鳴門
仕事だから、ものすごく頑張ってるんでしょう?
阿知波
勿論です。仕事だからです。仕事じゃなかったら、悪いけどやりたくないですよね(笑)。 受験勉強じゃないけど、この歳になってから、あの膨大な台詞を覚えるなんて普通はやりたくないと思う。でもこれで食べていってるというのがあるから頑張れるんだと思っていますね
鳴門
我々も会社に行ってる時は仕事一筋だったです。
阿知波
勿論仕事として芝居をやって、その上で観て下さった方が何か感じ取って下さって、少しでも前向きな気持ちになって頂けるんだったら、それが一番の事だと思う。そこを目指してはいるけど、私にとって芝居は仕事ですね(笑)。
鳴門
私たちにとって、お芝居を観ることは何なんでしょうね。
阿知波
潤いでしょ、その束の間だけ浮世を忘れられるというか。ライブで芝居を観ている時は携帯電話の電源も切るし、世の中のことから遮断されて、自分が観ることが出来るというのはすごく大事なことじゃないかなと思います。家で寝転がってTV見てる方が楽だけど、電話はかかってくるは、人から何か言われるは、そうだ明日の朝ごはんは何にしようかな、そうだ米とがなきゃね、しかしまだ片付けもしてないしな、でもまあいいか、となるんですよね。そうでなくて、芝居を観るために、その時間を作って劇場へ来て、一切のことを忘れて、一瞬だけそこに浸るというのは、大事な潤いだと思います。
鳴門
個人的に日本で目標にされている、あるいはされてきた俳優はおられるんですか。
阿知波
30歳代ぐらいに、目標にしても、結局、自分は自分でしかないって事に気がついた時期があって(笑)。自分が出来るようにやるしかない、やれることは何でもしっかりやると思い、それからは、目標にするっていう人は余りいないんですね。
鳴門
俳優というのは、自分ではとうてい望むべくもない職業の一つだと思うのですが。
阿知波
そうですか? 皆さんも普段からずーっと芝居してるじゃないですか(笑)。よく考えてみて下さいよ。人前に出た時と自分の家にいる時と違うでしょ。芝居しているじゃないですか。それの延長線ですよ。
鳴門
いやあ。
阿知波
そう、結構そういう方が多いんですけど、人間は生まれた時から芝居をしてるんですよ(笑)。だって、赤ちゃんがお腹空いたって泣くのだって、きっとそれを伝えるためにやっている。人それぞれに、皆才能は持ってるんだと思いますよ(笑)。
鳴門
僕らから見ると、俳優さんというのはレベルが違う感じがします。
阿知波
だとしたら、家を建てられる人は素晴らしいと思うし、私なんかと比べるとずーっと上かもしれないと思うし、比べられるものじゃないと思う。そう。それは餅は餅屋なんじゃないかと思うんです。私たちは俳優という職業を選んで、それに対して精進していくということですね。この間、ある税理士さんと話をしたんですけど、いやああの台詞を覚えるとはすごいねえって言うから、一日中数字を見ていることができるなんて余程すごいなあって答えました。私、数字なんて見ていられないもの。しかも一日中なんてイライラしてしまって。大工さんがカンナでシャーとやるのなんて、一朝一夕に出来るものじゃないですが、大工さんはそれを当たり前のようにやるじゃないですか。それと同じですよ。  餅は餅屋で。その人が追求してやったものは、それぞれに素晴らしいんじゃないですかね。
鳴門
それにしてもね。舞台を選ぶってことは、ちょっとやそっとの差ではないと思うんです。そうですよ(笑)。
阿知波
そんなことはない。馬鹿なだけですよ。恥ずかしいってことを知らないだけですよ、人前に出て演るというのは(笑)。羞恥心が欠如している人たちなんですよ(笑)。きっと。
鳴門
インタビューを何度しても、やっぱり俳優さんは全然違うと思う。どこが人間として違うんだろうと、却って興味が湧きますね。
阿知波
なる程。ごめんなさいね、夢を壊すようなこと言って。私は皆同じだと思っている。だから余計にちゃんと演ろうと思っているんです。
鳴門
最後に、私たちのような演劇鑑賞会の活動について、何か一言あれば、また鳴門市民劇場の会員にメッセージをお願いいたします。
阿知波
いつも私たちを支えて下さってありがとうございます。私たちは東京公演で、せいぜいやっても10日間とかそのぐらいです。先ほども言ったように、一か月ぐらい必死になって台詞を覚えて、もうご飯を食べる間も惜しんで稽古して、一本の作品を作るわけですが、それが10数ステージで終わってしまって葬られてしまう。舞台は取っておけないですから。そういう作品をこうやって演劇鑑賞団体の方たちに、お呼び頂くことによって、一緒にその作品を成長させられるなあと思うんです。折角作った作品なので出来るだけ多くの方に観て頂きたいなあと思う。皆さま方にお会いできるというのは、可成り成長させていただける、作品も、役者としても。地方によってご覧になる方たちの反応が違うんですよ。ですから、そういうのも勉強になるんですよ。こういう時にはこうなんだとか。会場もわんわん響く会場だったり、そんなに響かない会場だったりとか、いろいろ違います。そういうのも経験できるし、われわれ俳優を育てて下さっているなあと、いつもありがたいなあって思っております。今回、ここは一回で終わってしまいますから、町の中を散策したくてもできず、町を知らずに次へ行かねばならない。せめて3ステージあると、真ん中の日にちょっとゆっくり出来る。そうするとその町のことを知ったり出来るんですね。勝手なお願いですけれど、出来れば3ステージぐらいあるといいなあと思います。それは急には出来ないけど、全国的に会員数が減っているわけですから大変なことだと思いますけど、こういう火を消さないで頂きたいなあと。消えてゆく火をいくつも見ておりますので。それを考えると、どうかどうか火を消さずに踏み止まって、しかも前に進んでいって頂きたいなあと思っています。一時の潤いを、皆で共有できたらうれしいなあと思います。
鳴門
ここの会場はすごく広いんですが大丈夫ですか。
阿知波
それは頑張りましょうとしか言いようがないですね。会員の皆さまにもご協力願って、客席が盛り上がってくれると乗せられるんですよね。だから、客席も舞台の上も一緒に作っているんだというふうに思って頂けるとうれしいです。余りに広い会場だと、臨場感がないということもあるので。だから観客席からも芝居を作る意味で、声出して笑って頂けるとうれしい。
鳴門
鳴門市民劇場は幸いなことに19例会連続クリアで、今回の例会も8名オーバーした。
阿知波
(拍手、拍手)19例会。素晴らしい。鳴門には、この大きさのホールしかないですか。もうちょっと小さいホールで2回やればねえ。そうすればもう一泊できて、町の中を散策したり、渦潮でも見にいけるのにね。
鳴門
どこにも行けないのですか。
阿知波
行けないですよ。3時半にここへ来なきゃいけないし、昨日は徳島で昼公演だったし、明日は移動日だから、全くどこも何も見てないですね。建てて下さいよ、800名ぐらいのホールを。
鳴門
市長に言っておきます(笑)。それではどうも有難うございました。                  
阿知波悟美さんとインタビューア

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nrt-geki@mc.pikara.ne.jp
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