劇団俳優座公演「七人の墓友」鳴門例会(2017年3月10日)で“吉野仁美”役をされる清水直子さんを開演前の楽屋に訪ね鳴門市民劇場がインタビューしました。
- 鳴門市民劇場(以下鳴門と略)
- 人生終わりに近づいてくると、僕もそうですが、墓のこととかいろいろなことを考えるんですけど、清水さんはこの作品をどうとらえていますか。
- 清水直子(敬称略 以下清水と略)
- 私はこの作品に関わるまでは、お墓の事を具体的に考える事がなかったです。鈴木聡さんが俳優座に書き下ろして下さる時に『墓友』をテーマに書きたいと仰って下さって、初めて『墓友』という言葉を知りました。数年前に既に『墓友』が注目されていたことも知りませんでした。
- お墓を共にすることで これからをどう生きていくかということを墓友同士で共有している人達がいることを初めて知りました。
- そういうお墓もありだなぁ、もしかすると私もそうなるかもしれない、と思う反面、いざ自分の母親がそうしたいと言ったらどうだろうと思うところもあります。
- この芝居を観て下さった方々が、『お墓の事を考えることで、今までどう生きてきたかや家族との向き合い方を振り返ったり、これからどう生きていくかをちょっと考えてみたり』できるような作品になれば、と思っています。
- 『お墓』や『死』などネガティブでシリアスな問題を、鈴木さんのテイストでちょっと明るくポジティブに楽しく描くことで、観て下さった方々が元気になれるような作品だと思います。
- 鳴門
- 舞台では役作りに苦労されたと思いますが、その辺の話をして頂けませんか。
- 清水
- 鈴木さんに書き下ろして頂くにあたって、町田にあるエンディングセンターという市民団体のNPO法人に取材に行きました。
- センターでは、桜葬(樹木葬)の普及と、それを核とした交流や終活の支援活動、等をおこなっています。
- 墓友になっていらっしゃる方々とお会いして座談会に参加したりしてお話を聞くと、お墓を決めた、自分の終わり方を一つ決めたということで、ちょっとほっとされていました。
- 皆さん明るく話し合っていて、いいなあと思いました。
- この作品の中には、『夫や家族と一緒に入る先祖代々のお墓ではなく、墓友と共に入る桜葬にしたい』という母親の意思に対して、三者三様にとらえる三人の兄弟が登場します。
- 私が演じる長女は、母親と父親の事なのでどうしようと戸惑う。弟は、お母さんに賛成でいいじゃないかと言う。兄は真っ向から反対。
- また、兄には自身の夫婦の問題があり、私は独り者で(笑)アラフォーで、どう生きていくかという問題があり、弟は実は…………と、各々問題がありまして、それは観てのお楽しみということで。
- 様々な問題を抱えた人達が他にも色々登場し、みな個性的でチャーミングでちょっとエキセントリックでもあります。
- 役づくりの面では、コメディーをどう成立させるかという課題がありました。
- 演出の佐藤徹也さんには、『コメディーに必須のテンポと間合い』を徹底して指摘されました。
- 鳴門
- 特にここは考えさせられたというところは?
- 清水
- 自分の父親が、この作品に出てくるお父さんとちょっと似ているところがあるんです。頑固で横暴といいますか、『俺が言ってる事が正しい、皆が間違ってる』みたいな(笑)
- 父親に対する自分の思いみたいなものがダブルところがあるので、ある意味で役づくりに生かされているんじゃないかなと思います(笑)
- あと、実際の私は妹と二人姉妹なので、男兄弟の間に挟まっている長女役、三人兄弟で女一人真ん中ってどんな感じなのか実感がないので、三人兄弟の真ん中の友人に聞いてみたりもして。それが具体的に生かされているかはちょっと微妙ですが(笑)
- コメディーということで、演出の佐藤さんには、ちょっとオーバーめの演技や少しデフォルメした表現を色々求められたりもしました。
- 今までの普段の演技のやり取りにはなかなか無かった色々なアイデアで演出して頂き、鈴木さんと佐藤さんが描くコメディーの中で必死に生きている感じです。
- 鳴門
- 全国を芝居しながら廻られると、役者みんな共同生活になってしまいますが、普段はどういう生活、過ごし方をされていますか。
- 清水
- 基本的には皆それぞれです。
- 今日も若手の役者やスタッフは先に移動して舞台の仕込みをしてくれて、中堅から上のメンバーは後から到着して準備します。
- 皆さん体力維持が一番だと思いますが、町を散策したりもします。一人で行く人もいますし、連れだって行く人も。
- 公演先に演出家がいる時は終演後に駄目出しがあることもあり、翌日楽屋入りしたらその部分を皆で確認しあったり、舞台上で合わせたり。
- 翌日が移動日の夜などは、皆で飲んだり(笑)
- 鳴門
- 女優になられたきっかけは何だったんでしょうか。
- 清水
- 私は高校生の時に友達に誘われて演劇部に入り、初めて演劇に触れて、大好きになりました。高校3年間が、クラスの記憶より演劇部の記憶しかないくらい(笑)演劇ばっかりでした。
- 部活の先輩が桐朋学園という演劇科の学校(短大)を受験するとのことで、演劇科の大学があることを知りました。
- 私も受けたいと両親に言ったらびっくりされました。でも結局『じゃあ好きなことをやってみれば』ということに。
- 私が大学を卒業する当時は、卒業したら俳優座、文学座、青年座、演劇集団円など新劇の劇団に進む流れがあり(今は桐朋学園も色々変わってきていると思いますが)、一番試験日が早かった俳優座を受けました。今思うと何だか単純なんですが(笑)
- 鳴門
- 筆記試験があったんですか?どんなものですか。ちょっと興味があるので。
- 清水
- 近代演劇史の流れとか劇作家の名前、この作品を書いたのは誰か、等々だったと思います。実技は歌とパントマイムもあったと思います。
- 演技は、自分が好きなやりたい台詞を演じる課題で、私は三好十郎さんの『殺意』という女性の一人芝居の台詞を抜粋して演じました。作品の内容は覚えてますが、どんな台詞だったかはもう覚えてないのですが………
- 鳴門
- 歌って重要なんですか? 歌の試験があるとは知しませんでした。
- 清水
- 演劇科の大学でも歌の授業があります。
- 上手いかどうかも勿論重要かもしれませんが、表現力といいますか、その歌をどう解釈して どう伝えようとしているのかが審査されるのかもしれません。
- 鳴門
- 舞台の方へ行かれたのは?
- 清水
- もう桐朋学園を受けた時から演劇の道に行きたいなという気持ちがありました。
- 鳴門
- 芝居一本ですか。
- 清水
- アルバイトをしています。一昨年からは、知り合いに紹介して頂いて介護の施設で介護職をしています。舞台がある時は休ませて頂けるということで。
- それまでは飲食関係など色々やっていました。
- 鳴門
- 厳しいなあ。それは生活のためですか。
- 清水
- はい、舞台だけですとやはり厳しいので。アルバイトをやってる人は多いです。
- 鳴門
- 舞台を離れて、日常生活をしているわけですが、何か趣味がありますか。
- 清水
- それが、演劇に関係あることしか私やってこなかったなぁ………と改めて思います。
- 鳴門
- じゃあ本とか歌とか映画とか印象に残ったものがありますか。
- 清水
- 映画は、ちょっとマニアックかもしれません。
- 今は亡くなっているんですが、ジョン・カサヴェテスというアメリカの映画監督がいて、奥さんはジーナ・ローランズという女優で、ジーナ・ローランズ主演でカサヴェテスが撮った一連の映画が、私が20代の頃に単館映画館で上映されていて、足しげく通った時期がありました。今でもずっと好きです。どれも素晴らしいですが、有名な作品となると『グロリア』でしょうか。
- 小津安二郎映画も好きで、子供達が主役みたいな『お早う』という作品があるんですが、子供達がことあるごとにおならをするんです(笑)軽石か何かを食べるとおならが出るので、お互いに『食べてごらんよ』とか言って、おならをしあって。凄く馬鹿馬鹿しいんですが、何だか面白い映画でした。
- 向田邦子作品も大好きで、ドラマもよく見ていました。
- あとは韓国映画の『オアシス』『密陽』など。
- 鳴門
- 歌の方は?歌謡曲が好きですか(笑)。
- 清水
- 美空ひばりさん、中島みゆきさん、山口百恵さん、とかが好きです。今時の歌はちょっとあまり分からなくて(笑)
- 鳴門
- 本はどうですか。大切な本とかありますか。
- 清水
- 演劇を始めたばかりの20代の頃は、役者が書いた役者論のような本をよく読んでいました(草野大悟さんや佐野史郎さんや)。この言葉いいなあと言葉に線を引いたりなんかして(笑)あとは、寺山修司の短歌集とか。
- 鳴門
- 今回はあなたにとって10年ぶりの地方を廻りながらの芝居ですね。旅をしながらの芝居と1か所でずっととどまっての芝居は何か違いがありますか。
- 清水
- 都内で公演する時は、一つ所に落ち着いて毎日通って芝居をしますが、色々な土地を廻ってそこに住んでいらっしゃる方々に観て頂けるのも、また違う喜びがあります。その土地土地で観て下さる皆様のリアクションが違って、皆様に教えて頂くような感じもあって。
- 今日も、出迎えて下さった方々が観て喜んで下さるといいなあと思っています。
- 鳴門
- 前に全国を廻られたのはどんな芝居ですか?
- 清水
- 『三屋清左衛門残日録〜夕映えの人〜』(ドラマ化もされた、藤沢周平さん原作の舞台)と、『きょうの雨 あしたの風』(藤沢周平さんの幾つかの原作を1つの作品にした舞台 )、この2作品で約10年前に3,4年の間ずっと全国を廻っていました。
- その前は20年以上前、『とりあえずの死』(中国残留婦人の物語)です。その頃の私は20代前半の若手でしたが、今や40代半ば、アラフォーになってしまいました(笑)
- 鳴門
- 旅回りというと、どれくらいの期間行かれるんですか。
- 清水
- 上演スケジュールによるので、その時々によって全然違います。
- 一番長い時で1ヶ月半くらい行きっぱなしで帰らないスケジュールの時もありました。
- 今回は、最初に四国を廻らせて頂き、一度東京に戻り、横浜で公演し、数日後から東北へ約1ヶ月弱くらい行きっぱなしで、また一度戻ったあと関越を廻ります。11月と12月は長野と北海道。春と冬、全部合わせて52ステージくらいになります。
- 鳴門
- もし役者をやってなかったら、今何してると思いますか?
- 清水
- よく聞かれるんですが、何か人の役に立つ仕事をしたいです。
- 介護の仕事もそうなんですが、最初は私に務まるだろうかと思っていましたが、いざやってみると大変は大変なんですが、求められている役にたっている実感があり、演劇のやりがいとはまた違うやりがいにもなっています。
- どんな仕事でもそうなんですが『誰かの役に立つ』、どこかでそれが実感できる仕事がいいなあと思います。
- 芝居は、お客様の心に響きますようにと思っていつも取り組んでいます。
- 鈴木さんは、この作品を書いて下さる時に『観終わった後で観た芝居の話を肴に楽しくお酒を飲んだり食事したりできるような、そんな芝居をつくりたい』と仰っていました。
- 観て下さる方々の心に響く、それぞれの方の心のどこかにしっかり届く作品をつくりたいです。それはやりがいであり、常にやりがいのあることに取り組みたいです。
- 鳴門
- 私たちのような演劇鑑賞会の活動について思っていること、考えていることがあればお願いします。
- 清水
- 今回は約10年ぶりに各地を廻らせて頂きまして、本当に有り難く嬉しいです。
- 10年前の時もそうでしたが、1名クリアすることがどれだけ大変か……………ということを凄く感じます。皆様がとっても頑張って下さっていることも。
- 全国の方々に観て頂けることは本当にありがたいです。
- 観て下さった方々が『あー観て良かった』『次の例会も誰か友達を誘いたい』というように思って頂けるような作品づくりをしなければ、と思います。
- これからもどうぞ宜しくお願い致します。
- 鳴門
- 本当に有難うございました。
E-mailでのお問い合わせは 鳴門市民劇場ホームページ nrt-geki@mc.pikara.ne.jp まで。