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宮本充さんに
開演直前インタビュー

楽屋訪問109


 劇団昴公演「クリスマス・キャロル」鳴門例会(2023年12月27日)で“エベニーザー・スクルージ”役をされる宮本充さんを開演前の楽屋に訪ね鳴門市民劇場がインタビューしました。

宮本充さん"

鳴門市民劇場(以下鳴門と略) 本作品は世界中で映画やアニメ化され親しまれていますが、舞台化し上演することの意義や伝えたいメッセージを教えて下さい。

宮本充(敬称略 以下宮本と略) 映画も面白いけど舞台は生のものです。我々は舞台役者ですから舞台で「クリスマス・キャロル」の世界観つくる、何が違うかと言いますと、映画やアニメはカットで上手くつなげば、精霊は空を飛べるし、次の瞬間にはパッと雪の町に行ったりできるけれど、舞台ではできません。それぞれのシーンは映画だと簡単に画像を切り替えてできますが、舞台は役者の台詞と照明、音響、大道具の転換等で表し、あとは観客の皆さんの想像力に補ってもらう。その客席と舞台で想像力を共有することが実は一番面白いんじゃないか、それが舞台のいいところだと思っています。この作品の原作者ディケンズが生きた時代は産業革命が始まったばかり、労働者は大人も子供もなく資本家に搾取されていた、彼もそれを感じ、底辺も味わったようですから、作家として成功し金持ちになっても、底辺にいた虐げられた人々のことを彼が書いた作品には書かれています。舞台の中で現代の精霊が、足元にうずくまる子供を指差し、一人を「無知」、もう一人を「貧困」だとスクルージに見せつける場面があります。この場面はこれまで「クリスマス・キャロル」では、あまり取り上げられなかったエピソードでした。今回その場面を演ってみると精霊の足元にいる「無知」と「貧困」を見つめると、今苦しんでいる戦禍のウクライナやパレスチナの子供たちがパッと浮かびました。日本でも貧困状態にある子供たちのことや介護で学ぶ機会を失っていると言われているヤングケアラーの子供たちに結びついたんです。時代背景によってこの物語から受けるものはその時々で違うと思いますが、ディケンズの凄さは虐げられている人々への思いを誰にでも読みやすいこの物語に込めていること。クリスマスの楽しさ、素晴らしさだけでなくこのことも大切な事だと感じました。

鳴門 けちで偏屈、嫌われ者のスクルージ役を演じていますが、この役を演じる醍醐味を教えて下さい。

宮本 僕にとってスクルージはちょっとあり得ない人。そんな信じがたい程嫌なジジイ!と思う人間を演じる、面白さはあります。「この人の気持ち、よく分かるという人を演じるのは、それはそれで楽しいし、楽ですけど、全く自分にない価値観や考え方の人物を自分なりに想像して演じるのは大変ですが、とても楽しい作業でもあります。役者はどんな役をやりたいかって問われると、悪役っていう人が多いんです。僕は普段のんびりやで悪態をついたりする方ではないので、自分に無いものを創るのは、なかなか難しくて。この役を三年間演ってみて、ようやく…ですが、分かってきたように思います。今年の工夫の一つをあげると、過去の場面でスクルージ、昔恋人のベルという女性を見つめる時、昨年まではベルに笑顔を向けていたんです、でもこれは違うと。今年からは笑顔ではなく、表情は変えず、笑顔の形に顔が動かない男で演ってみようと思って。気持ちは“ベル”に、顔自体は偏屈なスクルージのまま、しかめっ面に近い表情で。観ていただく方に何か違うものを伝えたい思いでそんな工夫をしてみました。工夫やアイデアを演出家と練り上げ、自分に無いものでも表現していくことが醍醐味だと思っています。

鳴門 スクルージは時空を超える聖霊に導かれ過去・未来へと時空を超えて移動しますが、その演出について教えて下さい。

宮本 時空を超えるというのがこの舞台の一つのテーマで面白いところですが、先ほどお話ししたように映画だと簡単にできることを舞台でどう表現するか、いかに観る方と劇場空間の中で物語を作っていくかを考えていくのが、演出家の醍醐味じゃないかと思うんです。例えばベルとパーティで出会うシーン、次は若いスクルージとベルの別れのシーン、その後にはベルが結婚し幸せな家庭を築いている。短い間に次から次にスクルージの蘇った記憶のリズムで見せていく。また、屋台の連中が六人くらいで歌う場面でも、パーっと六人が登場して、後ろに屋台がパーっと並び、街の男たち六人がウォーっと歌って、屋台がサーっと無くなると、ボブ・クラチットの家が後ろに出来ていて、家族たちがラララと歌い料理を作っている。役者・音響・照明・演出部の工夫と動きで、観客の想像力を掻き立てる舞台創りをしていますし、それを愉しんでいただけたらと思います。

鳴門 鳴門に来られたのは2006年5月の「怒りの葡萄」でのトム・ジョード役以来かと思います。鳴門や四国の印象を教えて下さい。

宮本 徳島に限らず四国を廻ったときのイメージは「明るい」です。気候も天気も良くて。皆さんとても優しくてオープンでずっといい気分で各地に伺った覚えがあります。昨日バスで空港から鳴門の街に向かうときに、一番札所のお寺を見つけました。お寺を見つけたからかもしれませんが、お遍路さんの巡礼の地というイメージもあります。四国の各地は、どの土地もそこ行くと昔からいたような、自分の第二の故郷のような思いを持ってしまっています。横浜の自宅に戻っても、ニュースの気象予報のコーナーをみていて、四国のお天気も気になる程なんです。

鳴門 舞台だけでなく声優としても多くの作品に出演され活躍されていますが、この世界(劇団昴)に入られたきっかけを教えて下さい。

宮本 大阪の堺出身なんですが、学生時代から典型的な長男気質。神経質で友達もいないような子でした。それもあってか、母から大学だけでももっと自然のある所に行ったらどうだと言われて、北海道大学へ行くことにしました。北海道に旅立つ時、母は大阪空港に見送りにきてくれて。別れ際には号泣して手を握って離さなかったんですよ。本当に僕は神経質で頼りのない長男だったんでしょう、母はとても心配したと思う。でも、まさかその後、役者になるとは思ってなかったでしょうね。
 学生時代は寮に入っていて、その時寮で一緒だった三重出身の友人が「お前、演劇鑑賞会に入れへんか。あと一人足りへんねん。お前が入ったらサークル組めんねん」と誘われました。僕は大学ではずっと化学を専攻していて試験管を振っていた、芝居などは全く観たことがなかったんですが「でもまあええわ、入ったるわ」と入会したんです。その時に観たお芝居が文学座の「ショートアイズ」という作品だったんです。衝撃を受けて、終わった後席を立てなかったほどでした。他に面白かったのが、杉村春子さんの「ふるあめりかに袖はぬらさじ」、自由劇場の「上海バンスキング」でしょうか。「上海バンスキング」はジャズバンドの話で、クラリネットやトランペットやトロンボーンなど出演している役者皆が演奏するんですよ。終演後、ロビーに出てきたらその役者たちがダーッと勢ぞろいして「エレベーターでお帰りになる間私たちが演奏します」と言って、ずっと演奏してくれる。それに感激して、すぐにトランペットを買いまして!結果、全然音が出なくて上達せず、すぐ挫折しましたが。(笑)そうやって芝居を観ているうちに、こんなに面白いことをやって日本中廻ってお給料も貰えて、いい仕事だなあ~と思い始めたんです。
 大学卒業後、初めは文学座の研究所に入りましたが一年で終わって、昴に入りました。昴は当時から声の仕事をやっている先輩方がいらして、刑事コロンボのコロンボをやっていた小池朝雄さんや牛山茂さんも活躍していて、そういう人たちについて少しずつ役をもらえるようになったんです。その仕事をやってなかったら、多分僕はここにいなかったと思う。本当に下手くそで、大学では試験管を振っていたような男ですし、人間の感情とかイマイチ疎いところがあって。それが声の仕事では、一本の仕事が大体一日で終わり、それを年間200本やったとすると、200の役が出来ることになる。舞台だったら一年間にどんなに頑張っても三本くらい、その何十倍という役ができるんです。僕の場合、声の仕事でずっといろんな役をやらせてもらっていたので、そういった経験が出来た。洋画の吹替え等をする時は、その映画の名優の演技をどういう気持ちで演じているか見ながら日本語で吹替えて演じていく、とても勉強になる経験でした。その経験が無かったら、もうとっくの昔に挫折していたかもしれません。いや、その前に、もし文学座に残っていたらとっくに淘汰されて、どこかに行っていたかも。今思えば、文学座を落とされて良かったんじゃないかと思っていたりします。

鳴門 仕事以外で好きなこと、興味があることを教えて下さい。

宮本 僕は趣味が多くて…(笑)、一番熱を入れてやっているのが草野球、囲碁。白黒決着をつけるものが好きで、自然を相手にするような山登りやスキー、ではなく勝ち負けがあるのが好きです。ほかにテニスもやっています。あとは、毛色は違いますが、木版画も好きです。絵も劇団で頼まれてよく描いています。パンフレットに、とか、今回作っている「クリスマス・キャロル」の公演Tシャツのイラストも僕が描いているんですよ。

鳴門 私たちに様な演劇鑑賞会の活動について、考えられていることがあればお聞かせください。鳴門市民劇場の会員に一言メッセージをお願いします。

宮本 今回クリアできたと聞きました。会員の仲間が増えたと伺うと自分のことのように嬉しいです。コロナで会員さんがどんどん減っていっていると聞いてましたし、心配でした。新劇は演劇鑑賞会や市民劇場の皆様がいらっしゃらないと成り立たないと思っているので、仲間を増やせたというご報告が何より嬉しかった。とにかく役者は舞台に立ち、沢山のお客様に観てもらうことが一番、そしてその機会を市民劇場の皆様に与えてもらい、会員の皆様と一緒に例会を創ることが喜びです。今回四国に昴の作品を呼んでいただいたことで、再び皆様にお会い出来ました。本当にありがとうございました。

インタビューアー
劇団昴メッセージカード

E-mailでのお問い合わせは、         鳴門市民劇場ホームページ
nrt-geki@mc.pikara.ne.jp
まで。