グレイクリスマスの会公演「グレイクリスマス」鳴門例会(2010年1月27日)で“ジョージ・イトウ”役をされる石田圭祐さんを開演前の楽屋に訪ね鳴門市民劇場がインタビューしました。
- 鳴門市民劇場(以下鳴門と略)
- 石田さんに鳴門へ来ていただいたのは、『赤い月』『家族の写真』に続いて今回で3回目ですね。
- 石田(敬称略)
- そうですね。めずらしいことですが、四国が3回続いているんですよ。
- 鳴門
- 早速ですが、作品についてお伺いします。日本の現在の民主主義について作者である斎藤憐さんの強いメッセージが込められている作品ですが、石田さんの考えるこの作品見どころはどこでしょうか?
- 石田
- 作者としていろんな想いを込めて作られた作品ですが、斎藤憐さんは非常にロマンティストな作家なんだと思います。というのは、この作品はあの進駐軍が五條家にやってきた5年間を横糸にするなら、そこにイトウと華子・権堂と雅子2つの恋愛劇を縦糸として紡いだラブロマンスであるからです。難しい芝居というイメージが先行しているかもしれませんが、理屈を聞いていただくための芝居ではないので、2組の恋人同士が時代に翻弄されながら生きていくという物語を楽しんでいただければ、自ずとデモクラシーについても分かっていただけると思います。
- 鳴門
- 松本清張の『日本の黒い霧』の中で民政局と情報局の対立を描いた作品がありますよね。
- 石田
- ええ、GHQの支配下にあった日本で数々の事件が起きた訳ですよね。昨年、こまつ座の『闇に咲く花』で私は戦犯狩りをしているGHQの下で働く日本人役をしましたが、戦犯だった人でもアメリカ側が利用できると判断した人間は釈放され、戦犯狩りに協力させられたりしているんですね。あの頃のアメリカは日本を共産主義からの防波堤にしようと都合のいいように利用していたのです。でも、この芝居にもあるように朝鮮戦争が勃発したりして、結局はGHQにとっても日本にとっても思い通りにいかなかった訳で、偶然と偶然の産物が今の日本を築いていったのです。確かに硬い背景がある物語ですが、芝居は勉強するために見るものではないですので、単純にラブロマンスを楽しんでほしいですね。
- 鳴門
- そう言って下さるとありがたいです(笑)。
- 石田
- 華子は非常に知的好奇心が強く活発な人だったので、民主主義について強く語るイトウに惹かれていったんでしょうね。僕は思うのですが、今の時代に置き換えてみると、例えば、自動車会社の社員であれば自分の好きな車のことを恋人に熱く語りますよね。それが今回はたまたま進駐軍だっただけなんです。イトウが民主主義に対する想いを華子に熱く語れば、2人は恋仲になってしまったということなんです。恋愛劇に関してはなんら現代と変わらないと思うんです。
- 鳴門
- 日系アメリカ人として戦時中もアメリカ白人社会で迫害されたイトウ。そして華子と心を通わせるようになるイトウ。とても重要な役どころのように感じるのですが、役づくりで苦労されたことなどはありますか?
- 石田
- 苦労といっても非常に楽しい苦労でした。この作品の一番最初の上演は『劇団黒テント』によるものでした。その後、『劇団民藝』でも上演されています。
- 鳴門
- ええ、確か1995年3月に徳島市民劇場の鳴門例会として『劇団民藝』に一度来ていただいています。
- 石田
- そうですか。三田さんはその『劇団民芸』の作品を見ているそうですね。でも、演出が違うので、全然違う芝居になっているようです。もちろん台本も初演の頃から変っていますしね。今回の僕たちのグレイクリスマスの台本は『劇団民藝』が上演したものを基本に少し直しています。
- 鳴門
- 石田さんの好きな場面などあればお教えください。
- 石田
- イトウは華子にデモクラシーの理想を語り続けていましたが、「実はそれは本当ではありませんでした」という真実を打ち明ける場面があるんです。そこが一番好きですね。実はイトウの頭の中には、理想のアメリカと、日系二世として迫害をされた現実のアメリカと、2つのアメリカがあったのです。華子にすれば現実のアメリカは、イトウが熱く語っていた話と違う訳ですよね。それでもイトウは死を前にして華子には「アメリカは決して夢の国ではありませんよ」という真実を伝えたかったのでしょうね。
- 鳴門
- どうしてイトウは理想のアメリカを求めつつも、志願してまで朝鮮戦争に行ってしまったのですか?
- 石田
- 以前、強制収容所に収容されていた日系人の若者達が志願して最前線に出兵し、戦果を挙げたことにより、日系人の地位が見直された経緯がありました。もちろん一番危険なところへ赴く訳ですからほとんどの二世は亡くなってしまいます。それを分かっていながら家族の待遇を良くしてもらう為に彼らは志願したんですね。日系アメリカ人として戦時中もアメリカ白人社会で迫害されたイトウは、迫害を受けない理想の国にするためにも出兵せざるを得ない現実があったのだと思います。
- 鳴門
- お話は変わって、石田さんご自身についてお伺いしたいと思います。経歴をみさせてもらったのですが、若いころ石田さんは音楽に興味をお持ちになられておられたように感じたのですが。
- 石田
- ええ、若い時に漠然とジャズミュージシャンになりたいと思ったこともありました。あの頃は、映画監督になりたいとも思っていたこともありましたし、毎年将来の目標が変わっていた時でしたね。
- 鳴門
- 俳優を目指されたきっかけはなんだったのですか?
- 石田
- アマチュアの劇団に勧誘されたのがきっかけです。映画監督になるには芝居の演出を勉強するのも必要だなと思って入ってみたら、ちょうど俳優が足りなかったのか、演出をするなら俳優をしないとねと言われ舞台に立つことに。劇団と言っても、松明を掲げてふんどしで一つで走り回る、言葉なんてないような芝居だったんです(笑)。そんな折、「五月舎」の『薮原検校』や、「地人会」のウェスカー作『調理場』を立て続けに観たんです。生まれてはじめて言葉のある芝居をみて非常に感動しましてね、どうやら両作品とも木村光一さん演出だというじゃないですか。木村光一さんは当時文学座の講師をされていましたので、この人に会うためには文学座に行けばいいらしいということで、受験したんです。
- 鳴門
- では、今回のグレイクリスマスでは、華子はイトウに出会い人生観が変わったのですが、石田さんにとって人生に強烈な影響を受けた人物が、木村光一さんだった訳ですね。
ところで、役者さんはひとつの舞台を作る上で大変なご苦労をされているんじゃないかと思いますが、石田さんの息抜きの方法や、お芝居以外で今興味を持たれていることなどあればお教え下さい- 石田
- なかなか行けないですけど旅行は好きですね。ニューヨークでミュージカル観たりとかして過ごします。
- 鳴門
- 勉強というよりはリフレッシュとしてミュージカルをご覧になられるんですか。
- 石田
- ええ、僕はミュージカルをしないので、単純に楽しんで観ています。日本で観るものは知り合いが出ていたりすることが多いので、僕が照れたりしてどうしても観客として観ることができなかったりしますからね。その点海外は、誰も知り合いがいませんから。
- 鳴門
- 石田さんは、『子供のためのシェークスピア』に出演されていますよね。
- 石田
- ええ、もう15年くらい続いているプロジェクトでして、毎年夏に上演しています。元青年座の山崎清介さんが演出しているんですね。小学校にあるような木の椅子と四角いテーブルを組み合わせて舞台を作っています。毎回8人ぐらいの役者で演じており、舞台転換も役者がしますので一度始まったら楽屋へは帰れないんです。場面転換も手拍子のリズムにのって行います。(リズミカルな手拍子の実演)子供でも観ていられるように2時間くらいの作品に仕上げています。初演を観られた方が今では大人になって、また足を運んでくれているのは嬉しいことですね。なので、昨年の『マクベス』は8割くらいが大人でしたね。
- 鳴門
- 最後に、私たちのような演劇鑑賞会の活動について、考えられていることがあればお聞かせください。また、鳴門市民劇場の会員に一言メッセージをお願いいたします。
- 石田
- 僕たちのような劇団活動は演劇鑑賞会の皆様の支えがあってこそ、成り立っている部分があると思います。お芝居を選ぶ基準は人それぞれだと思いますが、少なくとも観賞会の皆様は作品本位で選んでくださっていますから、僕たちはいいと思える作品を作っていくことができるのです。また、子供や若い方の演劇離れが問題になっているようですが、昔は男の人が恋人や家族を誘って観に来ることが多かったんですよ。あの頃のようにたくさんの世代の方が観に来て下さるように、僕たちはいい作品を作り皆さんと一緒に演劇鑑賞会を盛り上げていきたいと思っています。
E-mailでのお問い合わせは 鳴門市民劇場ホームページ nrt-geki@mc.pikara.ne.jp まで。