劇団文化座公演「てけれっつのぱ」鳴門例会(2011年1月24日)で“あや乃”役をされる阿部敦子さんを開演前の楽屋に訪ね鳴門市民劇場がインタビューしました。
- 鳴門市民劇場(以下鳴門と略)
- 『てけれっつのぱ』は、かなり印象的なタイトルですね。よく質問を受けたりされませんか?
- 阿部敦子(敬称略以下阿部と略)
- 『死神』という落語に出てくる死神を追い払う呪文なんですね。当時はこの呪文がかなり流行ったそうなんです。しかも、当時の事件や風刺をもじり、いろんなバリエーションで使われていたようです。
- 鳴門
- このお芝居でも、いろんな場面で「てけれっつのぱ」が使われていますね。
- 阿部
- ええ、あの激動の明治の中では、やるせない事っていっぱいあったんでしょうね、その時にこの呪文でそれを追い払いたいという思いで、みなさん使っていたのかもしれないですね。このお芝居をするきっかけになったのは、佐々木愛さんが札幌公演中、偶然本屋さんに立ち寄った時に、タイトルが目に入り「『てけれっつのぱ』って、なんだろうこれは?」と手に取ったことが始まりだったんです。
- 鳴門
- タイトルが引きよせた偶然の出会いだったんですね。登場する女性はみんなたくましいですね。この作品で元気をもらう人も多いんじゃないかと思いますが、好きな場面、思い入れのある場面があれば、お教えください。
- 阿部
- あや乃には大きな決断が2つあるんですね。ひとつめは1幕の終わりの、今までの東京での人生を断ち切って北海道に行く決心をするシーン、ふたつめは2幕の後半、別所との決裂のシーンですね。そこが上手く演じられれば、みなさまの中のあや乃像がより大きくなりますでしょうし、芝居の流れとしても、翻弄された人生に立ち向う登場人物の思いを集約したラストシーンがより鮮明になり、大切に演じたいと思っています。
- 鳴門
- 清楚で思慮深く、かつ一本筋の通っているあや乃役がピッタリでしたが、普段の阿部さんとあや乃の共通点はありますか?
- 阿部
- 共通点と言うよりむしろ相違点の方が多いですね。どんな役でもそうですけど、自分と同じ役なんて決してある訳ないですし、逆に自分に近い方が演じるのが難しいですね。距離がある方がいろんな想像ができますからね。今回のあや乃でしたら、旗本の嫁から芸者、そして妾になるのは、今の時代では想像してもしきれない時代だったでしょうし、その中で流されることなく自分の意思で生きていくあや乃の人生の背負い方は、自分には足元にも及ばないことですし、それはそれは強く、しなやかな人だなと思うと相違点ばかりが見えてきますね。
- 鳴門
- 迫力あるアクションシーンは皆さん大変だったのではないですか?
- 阿部
- 大変でした。今年は稽古初日が1月5日だったんですけど、まず殺陣の稽古から始まりました。一日5時間、トップアスリートのように殺陣の稽古をしましたね(笑)。私は銀次さんの後ろに隠れて逃げる役なので、直接殺陣の中には入っていませんけど、ここで籠が飛んでくるのでどの方向に逃げなきゃいけないとか、逃げるのも段取りがちゃんとありまし、すれ違いにしてもこのタイミングでヤクザとすれ違わなければならないとか、細かく決まっているんですよ。少しでも違う動きをすると怪我のもとですからね。ですので、何回やっても同じ動きになるように殺陣は毎日練習しました。今日もセットが出来上がったら、この舞台で練習します。
- 鳴門
- 昨年はトルコ公演もされたとのことですね。反響はいかがでしたでしょうか?
- 阿部
- イスタンブール・エスケシェヒール・イズミルと3か所6公演いたしましたが、どこも最後はスタンディングオベーションでたくさんの拍手をいただき、観客の反応がとっても良かったです。逆に、私達の方がびっくりしたくらいです。トルコ語の字幕を流してもらったのですが、日本語の直訳ではなくて、現地のトルコの方や日本に留学している大学生の方に意訳してもらい、トルコ人の方にも判るような言葉にしてもらいました。
- 鳴門
- 国は違っても感じるものは同じなんですね。
- 阿部
- そうですね。そもそも、日本・トルコ友好120周年の記念でトルコへ行ったんですね。始まりは和歌山で難破したエルトゥールル号からトルコの方を助けたことから、親交が深まったらしいんです。その出来事はトルコの小学校の教科書にも載っているんですよ。なので、みなさんかなりの親日なので、道を歩いていても「こんにちは」って声をかけてくれるんです。
- 鳴門
- 印象に残った街はございますか?
- 阿部
- みなさんが元気なことにびっくりしましたね。イスタンブールは眠らない街なんですよ。東京で言えば六本木・渋谷のような街ですね。夜になれば落ち着くだろうと思っていたら、そんなことはなく、いつの間にか朝5時のお祈りの時間がきて、そのまま、また1日が始まるんです。エスケシェヒールの市長さんもかなりの親日家で、ちょうど日本庭園をお造りになられてて、今年出来上がる予定らしいですね。その日本庭園に、私達が舞台で使った人力車などの大道具を飾ってくれるそうです。
- 鳴門
- 大道具も現地で造られたそうですね?
- 阿部
- そうなんです。あちらへ道具を運ぶのはかなり経費がかかりますので。先に図面などをお渡しして全て現地で作っていただきました。出来上がるまでは不安でしたが、なんの遜色もなく出来上がりました。強いて言えば頑丈すぎまして、障子をひくシーンがあるんですが玄関のドア並みに重くて(笑)。トルコ公演の時は、裏で障子を開け閉めする方を特別に付いていただくことになりました(笑)。また、トルコで作っていただいた燈籠が非常にいい出来だったので持って帰ってきたんですよ。今日の舞台にある燈籠はメイド・イン・トルコでございます(笑)
- 鳴門
- 話は変わりますが、子供の頃から女優志望だったのですか?
- 阿部
- そうではなかったですね。大学ではゴルフ部に所属していました。春休みも夏休みも合宿、強化トレーニングで埋まるような体育会系クラブだったんですが、そのクラブ自体に行き詰まりがございまして、1学年全員で辞めてしまったんですね。学生時代は、クラブが全ての生活をしていたので、やめた途端ぽっかりと穴があいてしまいまして、その穴を埋めるために、当時の文化座に研究所があったので、そこを受けました。それまでは、演劇をするなんて考えてもいませんでしたから、きっと魔がさしたんでしょうね(笑)。
- 鳴門
- 大学の演劇サークルではなく、直接プロの道に入ったんですね。
- 阿部
- ええ。学校が中・高・大と付属で、教育の一環として演劇鑑賞がありまして、演劇を観る機会はあったんですね。でも、どこの劇団がどんな作品を公演しているかなんて全く知らずに、「演劇っておもしろそうだな」という、単純な動機で始めたんです。
- 鳴門
- 休日はどのようにお過ごしになられていますか?ご趣味や健康法などがあればお教えください。
- 阿部
- 旅公演に出かけると毎日がハードな生活になってしまいますので、普段はどうやって体を緩めるかを考えています。整体に通ったり、ジムやスパに行ったり、専ら身体のメンテナンスに時間を使っていますね。
- 鳴門
- 今でもゴルフはされているんですか?
- 阿部
- 今はアキレス腱を切ったりしたので、整体の先生に止められていて3〜4年はしていませんね。
- 鳴門
- ちなみにスコアとかは?
- 阿部
- 大学時代は生活の全てでしたので決してうまくありませんが90代でまわりましたが、今は100を切るくらいです。戦うゴルフはもうさんざんなので、今は楽しいスポーツとしてやっています(笑)。
- 鳴門
- 今までで印象に残る舞台、また挑戦したい役はございますか。
- 阿部
- 印象に残るというか、苦しんだ役は山ほどあります。『遠い花』という作品では、第一次大戦から第二次大戦の時代を生きた女性を演じ、娘から90歳の老婆までを演じ分けなければならない、本当に難しい役をいただきました。そういう意味では『遠い花』は忘れられない作品です。私はこの役がやりたいというものはないんです。いただいた役なら何でもやらせていただきたいですね。ただ、私のカラーなんでしょうか、あや乃のような役が多いので、敢えて言えば『てけれっつのぱ』のロビン役など、挑戦を含めて演じてみたいですね。きっと、来ないでしょうけど(笑)。
- 鳴門
- 文化座さんでは私はこの役をやってみたいとか、リクエストはできるんですか?
- 阿部
- いえいえ、これをやりたいと思ってできたら幸せですけどね。なかなかそうはいかないですね。今回の作品は、瀬戸口さんが愛さん、ひろみさん、私と三婆には当てて書いてくださっています。
- 鳴門
- だから、この作品は女性がすごく光っているんですね。このわずかな時間ですが阿部さんと話をしていて、一本筋の通ったあや乃役は、本当に阿部さんにぴったりの役だと思いました。
- 阿部
- まあ、嬉しいです。ありがとうございます。その言葉を心に入れて今日は頑張りたいと思います。でも女性だけではないんですよ。男性も頑張ってるんですよ(笑)。
- 鳴門
- 私たちのような演劇鑑賞会の活動について、考えられていることがあればお聞かせください。また、鳴門市民劇場の会員に一言メッセージをお願いいたします。
- 阿部
- 亡くなった光枝先生から、役者は続けることが才能だとよく言われていたんですね。若い頃は分からなかったんですが、30年近く劇団にいると、先生の言葉がひしひしと身に沁みてきます。鑑賞会も同じだと思うんですね。この時代ですから続けることは本当に大変と思うのですが、みなさんにはお芝居をずっと観続けていただきたいと思います。続ければご覧になるみなさんも、鑑賞会を通して横のつながりも広がって行くと思いますし、そこに向けて私たちも1作、1作いい作品を作って市民劇場を盛り上げていきたいと思います。
E-mailでのお問い合わせは 鳴門市民劇場ホームページ nrt-geki@mc.pikara.ne.jp まで。