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南保大樹さんに開演直前インタビュー

楽屋訪問60

  劇団東演公演「ハムレット」鳴門例会(2013年7月15日)で“ハムレット”役をされる南保大樹さんを開演前の楽屋に訪ね鳴門市民劇場がインタビューしました。

南保大樹
鳴門市民劇場(以下鳴門と略)
各地の反応はどうですか?
南保(敬称略)
「今まで観たことのない芝居だ」とか、「3時間が長いと思わなかった」との声を聞くので、皆さんある種の衝撃を受けていただいているんじゃないかと思います。
鳴門
「今まで観たことのない」ハムレットというのは、ベリャコーヴィッチさんの演出が独特ということでしょうか?
南保
そうですね。日本人の感覚では作れない作品だと思います。感覚的なことなので言葉で上手く表現できないんですが、彼は激しさを求めるタイプの演出家なので、常に対立の存在を意識しているように思います。さらに、悲しいシーンを悲しくするのではなく、悲しい時に笑ったり怒ったりとあらゆる表現を駆使して作品を創っていると思います。シェークスピアは言葉の演劇っていわれることが多いと思いますが、ベリャコービッチの演出は言葉だけの枠に囚われていない感じがしますね。
鳴門
ベリャコービッチさんはロシア語を話されますよね? コミュニケーションはどのようにされたのですか?
南保
通訳の方がいますので、何を言ってるかはそこで確認ができます。でも、通訳がなくても集中して彼をみていると、「ああ、今のは気に食わないんだな」って感じますね(笑)。人間のコミュニケーションって言葉だけじゃないですよね。逆に言葉が分からないからこそ分かることがあると思います。彼と一緒に稽古をしているとコミュニケーションの根本が刺激されます。
鳴門
以前彼の演出の『ロミオとジュリエット』を観たのですが、あれも素晴らしかったですね。
南保
僕は、その芝居には出ていないのですが、ロシア人と日本人がそれぞれロミオ側とジュリエット側に分かれているのがものすごくわかりやすく、おもしろい構造ですよね。
鳴門
ええ、字幕が全く気にならなかったですね。ところで演じる上で難しかったことはありますか?
南保
『ハムレット』は正解がない芝居だと思うのです。普通のドラマは、主人公がいてそれに相対する者がいて、何か問題が起こって最後には新しい価値観が生まれるのがセオリーですよね。しかし『ハムレット』はそうではない。いかようにも解釈ができ、正解が山ほどある中で、自分の『ハムレット』を創って聞くことが苦しかったですね。ベリャコービッチさんにも相当叩かれました(笑)。具体的に何処が難しいとは言い難いのですが、厳しい稽古をして今があるって感じですね。
鳴門
ご自身のハムレット像とは?
南保
正気と狂気を常に行き来して、どっちなのか分からない真中の部分を表現できればおもしろいなと思って演じています。
鳴門
好きなシーンや見どころはどこですか?
南保
見どころは全部です(笑)。中でも僕の好きなシーンは、旅役者が登場する場面です。ハムレットが彼らに国王殺しの場面を演じてくれと依頼する一連の流れの中で、役者がいて、それを観ているハムレット達がいて、またそれを観ている観客の方がいてという、どこが舞台で、どこが日常で、どこが真実なのか、ごちゃごちゃになる三重構造の場面がものすごくおもしろくて好きですね。旅役者が登場した時、ハムレットがものすごく喜ぶんですよ。常に時代を読み、いろんな要求に応えてゆく彼らは、ハムレットにとっては愛おしい存在なんですね。シェークスピアは『ハムレット』以外の作品にも役者が登場するシーンを書いてるんですね。そういうところからも、彼は本当に芝居が好きだったんだろうなって思います。ベリャコーヴィッチさんも同じように芝居が好きで役者を愛しているんだなって感じることができるシーンになっていると思います。
鳴門
確か『真夏の世の夢』にも役者が登場する場面がありますよね。『ハムレット』の原作と今回のお芝居に違いはあるのですか?
南保
違いますね。まともにやると4時間くらいかかってしまうので、だいぶカットされています。
鳴門
オリジナルのエピソードが入っていたりするんですか?
南保
それはないですね。基本は原作と同じ流れです。
鳴門
有名な作品ですがハムレット役をもらった時のお気持ちは?
南保
「ハムレット役者」って言葉があるくらい象徴的な役なので、すごいプレッシャーでした。自信より不安が大きかったですね。劇団に入っても自分がハムレットを演じるとは思ってなかったですからね。でも勉強をしていく中で、ベリャコーヴィッチの演出ならおもしろく演じられるって思えるようになりましたね。
鳴門
ベリャコーヴィッチさんとハムレット像について激論を交わしたりされますか?
南保
多少しましたけど、彼のハムレット像がしっかりとあるので、そのイメージ通りにとにかく演れと言われて大変でした(笑)。
鳴門
役作りではどのようなことをされましたか?
南保
『ハムレット』に関する本は山のように出版されているので、なるべく本を読みました。実は今年、違う劇団で、違う台本の『ハムレット』のハムレット役を演じました。これはまたおもしろい経験ができましたね。おかげで違う視点で『ハムレット 』を見られ、役に深みができたように感じます。
鳴門
ところで話は変わりますが、南保さんご自身についてお伺いします。この道に入られたきっかけはなんですか?
南保
簡単にいうと、ある芝居を観て役者を目指したいと思ったんですね。
鳴門
ある芝居とは?
南保
小劇場の芝居といわゆる新劇と言われるような芝居ですね。
鳴門
スノーボードとかもされるんですよね。
南保
ええ、昔はプロになりたくてスノーボードをしていたんですが、たまたまスキー場でポスターのモデルをやってみないかと誘われて、それをきっかけにモデルの仕事をするようになったんです。僕としてはスノーボードでプロを目指したいと考えていたんですけど、その半面自分の限界というかトッププロと自分との差を感じるようになり、将来を考えた時に、役者の道を選び、そこから勉強を始めたんです。
鳴門
ブログに「もっとおもしろい芝居をやっていきたい」と書かれていますね。
南保
ずっとやりたい芝居があるんですが、タイミングが合わなくてできないままなんです。来年こそできればいいなと。
鳴門
それはどのようなお芝居ですか?
南保
現代劇なのですけど、大正時代のお話です。劇団のレパートリーを決める時にもっともっと劇団員も関わらなくてはならないと思いますので、劇団員が企画して劇団員が演じる作品のようなものが出来ればいいなと思います。
鳴門
普段はどのようなことをして過ごされていますか?
南保
特に旅中は、おいしいものを食べて自然に触れ合って心と体を休めるように心がけています。他にも読書とか舞台鑑賞も好きですね。あと週2〜3回は1時間くらいランニングもしています。
鳴門
お時間になりましたので、最後に鳴門市民劇場の会員に向けて一言お願いいたします。
南保
僕たちは、皆さんに芝居を通して、衝撃を受けて感動してほしいと思って演じています。しかしそれができるのは、皆様ひとりひとりが芝居を観て下さっているおかげです。それは役者にとってものすごい力になるのです。ですので、これからも観続けてほしいと思います。今回の僕はハムレットを演じていますが、また違うお芝居で鳴門にやってきた時には成長した僕を観ていただければすごく嬉しいです。それができるのは市民劇場ですし、お互いが一緒に芝居を創っている関係をずっと大切にしていきたいと思います。
南保大樹さんとインタビューア

E-mailでのお問い合わせは              鳴門市民劇場ホームページ
nrt-geki@mc.pikara.ne.jp
まで。