劇団青年座公演「ブンナよ、木からおりてこい」鳴門例会(2016年7月10日)で“ブンナ”役をされる逢笠恵祐さんを開演前の楽屋に訪ね鳴門市民劇場がインタビューしました。
- 鳴門市民劇場(以下鳴門と略)
- 最初に作品についてお伺いします。そのあと逢笠さんの個人的なことをお伺いしたいと思います。まず作品のことを、元気が出る作品で良かったし、生きる喜びがよく出てる作品ですね。逢笠さんは、この作品をどう捉えていますか?
- 逢笠恵祐(敬称略 以下逢笠と略)
- 『ブンナよ、木からおりてこい』という作品は、決してハッピーエンドで終わるわけではないと思うんです。ブンナは椎の木の上に希望を求めますが、そこで厳しさを知って地面に戻って来ます。願っていた通りにはなりませんでしたが、それ以上にここで、今暮らしている地面で生きていくんだという力強いメッセージがあります。それは普遍的なメッセージですし、例えば東日本大震災や熊本地震。あとは放射能だとか、現在日本が抱えている様々なことに照らし合わせることが出来る舞台だと思います。だからこそ今やるべき作品だと思いますし、会員の皆さんにこのメッセージを届けるために僕は演じています。
- 鳴門
- ものすごいエネルギーに充ちた、溌剌とした舞台だと思いますが、そのへんはどういうふうに演っていますか?
- 逢笠
- まず人間ではない蛙の役なんで、躍動感が出るように気をくばったり、エサに対する執着だったりを生き生きと見えるように工夫しています。
- 鳴門
- 人間を演じている時とは違いますか?
- 逢笠
- やっぱりちょっと違いますね。稽古場で蛙を飼って動きを観察しました。蛙なので普通に立ったままの状態で演じるわけじゃないんですが、手を使ってぴょんぴょん跳ねたり、そういう所が溌剌とした感じに見えるんじゃないでしょうか(笑)
- 鳴門
- こう手をついてぴょんぴょん跳ねるのは大変なんですか?
- 逢笠
- そうですね。四つん這いで歩きながらですから。更に椎の木を見上げる姿勢で台詞を言わなければいけないため、最初の頃は首のあたりがひどい筋肉痛で辛かったですけど、さすがに今はもう慣れました(笑)
- 鳴門
- 土の中にもぐる時、こう下に、降りていくじゃないですか、しんどくないですか。
- 逢笠
- そうですね。最初は怪我が多くて。穴に肘をぶつけちゃったりして、血を流したりとか、傷だらけになったりしたんですけど。今は慣れてきてそんな事もなくなりましたね。1年目は僕だけでなくて、出演者全員怪我が多かったですね。
- 鳴門
- ほとんど出ずっぱりなんですけど。土の中でこうやって他の人が芝居をしているのを見てるじゃないですか。その時間がものすごく僕は長いような気がしたんですけど、大変じゃないですか。
- 逢笠
- 聞いている間も上の台詞に反応して動いたりしなきゃならないので、結構集中しています。
- 鳴門
- 台詞は言ってないけど、舞台上の演技に反応しているんですか。
- 逢笠
- 聞きながらずーっと上を向いています。首も疲れますし、上で跳ねている時とは違う疲れがありますが、集中してギュッとやっていますね。
- 鳴門
- 舞台は色々ご苦労があったと思いますけど、そのへんの話をしてもらえますか。
- 逢笠
- 『ブンナ』の場合は、まずやっぱり舞台装置に慣れるまでが大変でした。
- 鳴門
- 真ん中の舞台は傾斜してますしね。
- 逢笠
- 舞台が回るのと、ちょっと斜めになっているので、どっちが真正面かわからなくなったりして慣れるまで大変でした。あとはやはり動物の動きですね。
- 鳴門
- 初めてですか、動物の役をやるのは。
- 逢笠
- はい(笑)。過去にブンナを演じていた老蛙役の佐藤祐四や、鼠役の大家仁志といった先輩に動きのコツを聞いたりしました。
- 鳴門
- 私も昔もちょっと演ってたことがあって…。
- 逢笠
- あっ、そうなんですか。『ブンナ』に限らずですけど舞台の上で他の人と交流しているなあと実感できた時が一番楽しいと僕は思いますね。新しいものが、何の段取りも合わせてなくても、本番でいきなりポロッと生まれてくる瞬間があるんです。観ている方々にはわからないかもしれないですが、そういうものが出てきたりするとライブというのはこういうことなんだなあと思います。演じていても毎日若干違うし、会員さんの反応によってちょっと変わったりとか、これが演劇のいいところだと思います。
- 鳴門
- 笑えるところがかなりあったと思うんですが。特に蛇の言葉は(笑)。あれもじっと聞いているだけですよね。
- 逢笠
- ずっと耐えているんです(笑)
- 鳴門
- 逢笠さんの個人的なことをお伺いしたいと思います。逢笠さんはおいくつなんですか。
- 逢笠
- 29歳です。
- 鳴門
- じゃあ、他で働いていたんじゃなくて、高校を出られてまっすぐ演劇に進まれたんですね。
- 逢笠
- そうです。卒業して青年座の研究所に入りました。
- 鳴門
- 逢笠さんはどういうきっかけで演劇に進まれたんですか。
- 逢笠
- 子どもの頃から映画が好きでたくさん観ていました。そのうち漠然と自分も出演してみたいと思うようになったのですが、どうすれば俳優になれるかよくわからなかったんです。高校卒業後、上京して青年座の研究所に入ったんですが、青年座を選んだのは同じ福島県出身の西田敏行さんの存在が大きいです。もうその当時は西田さんは青年座を辞められていたのですけど、西田さんがいらっしゃられた所ならと思って、本当に右も左も分からない状態でしたが試験を受けてみました。
- 鳴門
- 入るのは簡単ではなかったんじゃないですか。
- 逢笠
- 試験があって…、でもそうですね、僕はなんとか受かりました(笑)
- 鳴門
- 演劇ってやったことありました?
- 逢笠
- 僕はなかったです(笑)。でも結構多いみたいですよ、演劇経験のない人が試験を受けるのは。
- 鳴門
- 研究所には2年おられたんですか?
- 逢笠
- はい、2年間勉強しました。1年目は基礎中心、2年目は実際に何本か芝居を創り、そして準劇団員になって…と段階を踏んできました。受験時には大体100名位の申込みがあるのですが、受かるのは半分の50名くらい。2年目でまたさらに半分になって、劇団員になれるのは1人か2人です。結構厳しくて月に1人位辞めていくんですよ(笑)。先生も厳しい方が多かったですね。当り前ですけど。
- 鳴門
- そんな難関を突破してきたんですか。最初映画って言ってたんですけど、何を見たんですか?
- 逢笠
- 中学生の頃は、「ミッションインポシブル」とか「グリーンマイル」とか、そういった映画が、丁度僕が一番映画を見ていた時期に映画館で上演していました。
- 鳴門
- 福島で観たんですか。
- 逢笠
- 僕は福島市内なんですけど、小学生の時に綺麗な映画館が出来たので、そこでよく観ていました。
- 鳴門
- 最初から舞台を目指していたのでしょうか。
- 逢笠
- イメージとして、役者をやるのなら舞台をやりたいと思っていました。もちろん映画にも出演したいんですけど。
- 鳴門
- 好きな言葉あるいは座右の銘がありますか?
- 逢笠
- 座右の銘というほどではないんですけど、「今に集中しよう」というのがあって、人間って結構過去とか未来のいらない心配をしてしまいがちです。「迎えず送らず」という言葉があるんですけど、不安な未来を持ってその日を迎えないように、その日を送らないように、また過去を引きずらないように、今を生きるということ、「今を集中して生きる」ということです。
- 鳴門
- 「今を大事にする」というのもいいですよ。日常生活での趣味はおありですか?
- 逢笠
- 僕はフラメンコをやっていまして…
- 鳴門
- えー。
- 逢笠
- フラメンコぐらいしか趣味はないんですけど(笑)。
- 鳴門
- なぜフラメンコなんですか。
- 逢笠
- オーディションの時にアピール出来る特技が欲しかったので、何か踊りを習いたいとずっと思っていたんですが、その音楽性と立ち姿が美しく見えるという所からフラメンコを習い始めました。もう6年くらい続けています。グラシアス小林さんという昔青年座に所属していた先生に習いながら、定期的に発表会に出演したり、西日暮里のアルハンブラというお店でライブに出演したりしています。…今年は忙しくてなかなか出られていないのですが。
- 鳴門
- 男のフラメンコってありましたか?
- 逢笠
- 恰好良いですよ。踊り手は女性の方が7割ですけど、男のフラメンコはめちゃくちゃ恰好いいです。一度見て欲しいです。色んな踊り手さんがいるんですけど、僕の先生はすごく男らしい踊りをする人です。
- 鳴門
- 女の人はカスタネット持ってやりますよね。男の人は横で弾いているだけ。
- 逢笠
- それはギタリストの方ですね。僕は先生のような男っぽい踊りが好きで、すごくクールな感じで踊りたいと思っています。
- 鳴門
- 大切な人とか本、歌、映画、舞台とかありますか?
- 逢笠
- 大切な舞台ですか…。舞台だったら最初に外部出演させて頂いた『旅とあいつとお姫さま』という作品ですね。丁度100ステージ出演したんですけど、各地を旅で廻ったり、1年間で3000人くらいの小学生に授業の一環で観てもらったり。とても思い出深い作品です。出演者はプロのダンサーさんや元BARBEE BOYSのKONTAさんといった僕を含めて5人なんですけど、役が16役もあって、それを5人で演じ分けました。自分の中では劇団に入団してすぐに参加した作品だったので、すごく思い出に残っています。
- 鳴門
- それを色んなとこでやったわけですか、小学校とか。
- 逢笠
- 東京の高円寺に「座高円寺」っていう劇場があるんですが、そこに小学生を招いて上演していました。ただ授業の一環なので開演が結構早くて…、朝10時開演とか…
- 鳴門
- 授業の時間ですね。
- 逢笠
- 劇場に8時に入って、急いで身体を動かして…みたいな感じでした(笑)。なかなか経験出来ないことなので、そういった意味でも思い出深いですね。
- 鳴門
- 本とか映画とかは?
- 逢笠
- 映画だと「ニューシネマパラダイス」というすごく有名な映画です。わかりやすくて本当に良い映画だと思います。作中で流れるエンリコ・モリコーネの音楽もとても好きですね。本はなんですかね…余り思い当たらないです(笑)
- 鳴門
- 小説で好きなのは?
- 逢笠
- 東野圭吾さんとか好きです。わかりやすくていいなと思います。僕はわかりやすいものが好みみたいですね(笑)
- 鳴門
- 逢笠さんの休日はどんなものですか?
- 逢笠
- 休みの日はビデオを観たり、映画のDVDを借りて観たり、結構インドア派ですね。身体を動かすのは好きなんですけど、休みの日はなるべく家で過ごします。1日何もしない日を作るとリフレッシュできて、次の日はやる気が出る感じですね。
- 鳴門
- 最後に演劇鑑賞会について考えられていることがあればお願いします。また、鳴門市民劇場の会員にメッセージをお願いします。
- 逢笠
- 先ほど聞いたんですけど、前例会をクリアされたいうことで…。
- 鳴門
- ありがとうございます。すったもんだの末に、ようやく2日ぐらい前に1名クリアしました。
- 逢笠
- おめでとうございます。やはり前例会をクリアして迎えて下さることで、僕らも演劇を続けられるし、今日も舞台に立てる。今僕らがこうやって舞台に立てているのは、皆さんが一生懸命運営をして下さっているお陰だと思います。本当に感謝しています。今日は精一杯皆で力を合わせて、鳴門ならではの演劇空間を作り上げていきたいと思いますので、どうぞ楽しんでご覧下さい。
- 鳴門
- ありがとうございました。
- 逢笠
- どうもありがとうございました。
E-mailでのお問い合わせは 鳴門市民劇場ホームページ nrt-geki@mc.pikara.ne.jp まで。