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釆澤靖起さんに

開演直前インタビュー

楽屋訪問93


 俳優座劇場プロデュース公演「ハーヴェイ」鳴門例会(2019年5月20日)で“エルウッド・P・ダウド”役をされる釆澤靖起さんを開演前の楽屋に訪ね鳴門市民劇場がインタビューしました。

釆澤靖起

鳴門市民劇場(以下鳴門と略) 今回1944年に上演された作品を現代で上演するにあたり、どのようなことを伝えたいと考えていますか?

釆澤靖起(敬称略 以下釆澤と略) “信じる力”を大切にしたいということを伝えたいと思います。
 僕が演じるエルウッドという役は、長身のウサギが見える。それを他人に紹介する人間なんですね。エルウッドはウサギを友人に紹介すると、他者からどう思われるかということもわかっている。ただ、なぜ紹介するかと言うと、“いいものだから”“素敵なものだから”“自分の親友だから”他者からどう思われようが、何を言われようが、自分は彼が好きだし、優しいもの、いいものと思っているから、それを他者に知って欲しいし、分かって欲しいから紹介するんですね。
 現代にどうやってそれを置き換えるかと言いますと、今はいろんな生き方があって、自分の好きなものとかやりたいこと、人それぞれあると思います。でも、会社を辞めて僕はこの道を行きたいといった時に、人からどういわれるんだろう、やっぱり嫌だなとか、考えますよね。
 皆さんは演劇を紹介する、好きだから紹介するということに関して信念があると思うのですが、人からの評価を気にしてしまうと、その信念を曲げてしまうということが、現代に結構あるような気がします。人生が定まらないままブレてしまうということがありますよね。
 でも、そうじゃない生き方、自分がいいものはいいんだ、信じていいんだ、それを貫くのがエルウッドの生き方なのです。結局、この話はハッピーエンドで終わります。自分の信念を持って生きる、そういう生き方があっていいんだと。今を生きているちょっと悩んでいる人の背中を押せる芝居だと思っています。

鳴門 ハーヴェイという、人には見えないウサギが見える役で、難しいと思う点は?

釆澤 難しかったですね。190㎝くらいの設定なので、ちょっと気を抜くと下の方を見ていたりして、最初慣れるまで大変でした。座っているハーヴェイとしゃべったりするシーンがあるので、どうしてもこの辺でしゃべってしまうのでちっちゃくなってしまう。家でハーヴェイがいると想定してしゃべるなど、癖がつくまでやっていましたね。
 いないものを見せるというのは大変で、詳しく説明をすると、観てる人にはわかりやすくなるのですけど、あんまり説明しすぎても想像する余地がなくなってしまう。観ている人にも、あっ、あそこにハーヴェイいるんだ、今あそこに立ちあがったなとか発見しながら、観て楽しんでいただけるように、説明しすぎない、わからなさすぎないように。いろんなところで演じるのが大変でした。

鳴門 色々な劇団の人々が集まっての作品ですが、役者さんどうしの交流について教えてください。

釆澤 お酒を飲むということですね。
 僕は文学座でお世話になっているのですが、劇団だと、今の芝居ちょっと違うとか、稽古場でくったくなく言い合えるんですけど、今回のようにプロデュース公演だと、違う畑の方たちが集まっているので、皆さん気を使われるのです。それぞれの育ってきたやり方があります。それでも、ある程度思ったことは言い合った方がいいので、終わった後の飲み会とか、お酒が入ると、あそこはああした方がいいんじゃないなんて出てくることで、翌日の稽古に反映させてよりいいものにしていく。お酒の席というものは、どんな世界でもそうなのかもしれませんが、いい交流の場になっています。

鳴門 俳優になられたきっかけについて教えてください。

釆澤 小学校3年生の時の学芸会で「半日村」という劇で主役を演って、褒められた記憶がずーっとあります。
 子どもなので当時分からなかったのですが、父兄もひいき目で見ていて凄く反応が良かった。それで小中高、大学まで行って、就職して3年働きました。その仕事は好きだったのですが、自分は目立ちたがりの部分があるので、もっと自己表現したいとフラストレーションが溜まってきました。学芸会のことを思い出して、ああいう世界もいいなと思って。今はそう思わないですけど、役者はしゃべるだけなので自分にもできると思って入って見たら、文学座でしこたま怒られました。できるんじゃないかと飛び込んだ感じですね。

鳴門 舞台を離れての日常生活での趣味があれば教えてください。

釆澤 趣味としては釣りです。ドラムをやっていたのでドラムを叩いたりすることがあります。あとは映画が好きなので映画はよく見ます。
 以前働いていたころは仕事と私生活というのはキッパリ分けられていたのですが、役者になってからは境がなくなってきています。役者って常に全部が仕事に活かせる仕事なんですね。人との出会いとか。そういう意味で日常が楽しくなります。こうして皆さんにお会いしていても、人のしぐさを観察していて、人の動きが面白くて興味があります。
 仕事をしていた時は何をやってたって、そんなことしたって営業の成績につながらないよと上司からよくいわれるし、遊びに行ったら怒られるし。役者は、ただ毎日何をしていたって芝居にいかせるかどうかは自分次第なんで、心の持ちようはとても豊かになったような気がします。

鳴門 役者に活かせるような特技がありますか?

釆澤 ドラムは結構活かせてるなと思っています。セリフはリズムでしゃべってはいけないのですが、「裏でしゃべる」普段、私たちはそのように言っているのですね。演出家や先輩たちは「裏打ちで言った方がいい」といいます。この言葉はドラムをやっていなかったら、絶対にわからないことでした。ドラムには裏打ちというのがあって、裏打ちというリズム感はセリフを言うときとか、動きなど何かやるときに、自分のなかで意識しながらやることができます。リズムをずらすという感覚は芝居をするうえで大事だと思うのですね。だから、ドラムの感覚というのはセリフを言うときに活かせるなっていうのはあります。
 また、釣りは気長に待たなければいけない。辛抱強さのようなものが必要で、釣りをやっているときと共通です。釣りをすることで忍耐強さのようなものは鍛えられた部分はあると思います。

鳴門 尊敬する俳優さんは?

釆澤 何人か好きな俳優がいるんですけど。田宮二郎さん 香川照之さん 段田安則さんとか好きですね。あと、山崎努さんが結構好きで、早春スケッチブックというドラマがあるのですけど。

鳴門 人に見えないものが自分に見える、釆澤さんにそういう存在があったとしたら何を選びますか?

釆澤 ハーヴェイは強大な力を持っていて、時間と空間を行き来させてくれるんですね。時間を止めることができる。時間を止めれば自分の好きなことができるよってエルウッドに言ってくれるのだけれど、エルウッドは何もしないんです。というのも、今ここにいる人と楽しく過ごせているので、別に時間と空間を移動させる必要がないよって言うんですね。そういう、強大な力をもっているのにエルウッドは友達としての付き合いで、その人の肩書とか力というものは欲しくないのです。僕自身は、もしハーヴェイが見えたら力を使っちゃうかもしれない。その辺を突き付けられるお芝居なんですね。
 劇中「アインシュタインは時間と空間を征服した。でも、ハーヴェイは征服しただけではなくあらゆるものを克服したんだ」というセリフがあります。戯曲の書かれた1944年当時、武力とか核兵器とか強大な一瞬にして何かを消し去ることができる力を持ったときに、それを人間はどう使うかということが物凄く大事になってきた時期なのではないでしょうか。大きな力を使うか、使わないのか。自分だけのエゴイスティックな力だったり、他を廃絶するような力だったりしたら、それを使ったらと良心に問いかけて、使っちゃいけないというような思考が生まれるとは思います。
 作者自身がジャーナリストでもあったため、世相の影響を受けて作ったんじゃないかなと推測できますね。今の時代でも共通して人間の力、権力、政治力とか相通ずるものがあると思います。

鳴門 演劇を観る人に合わせる(迎合する)という考え方についてどう思いますか?

釆澤 わかりやすい芝居を作ろうと思えば作れるんですよね。10~20代の人を演劇に取り込もうとする芝居を作って、ちょっと馬鹿なことをやって笑わせる。コントじみた芝居というのは迎合している芝居といえる。僕は2つあっていいと思う。それはそれであっていいと思うんですね。
 わかりやすい芝居と非常に考えさせられる芝居、例えばゴーリキとか哲学的なものを作ってもいいと思うんですよ。2つ並行して両輪で走っていくような考えでいいと思うんです。でも、役者としてのやり方を安売りしてはいけないと思います。いいものを創る、メッセージ性のあるものを創る、伝わりやすいものを創る、結局それを演れば伝わると思うんですね。僕は哲学的なもの、生き方を左右するものを信じて、芸能活動を続けていきたいと思っています。

鳴門 最後に、演劇鑑賞会について考えられていることがあればお聞かせください

釆澤 こんなにありがたいことはないんですよ。
 僕は芝居をしたいと思ってこの世界に入りました。鑑賞会の皆さんは演劇が観たいという志が強い方たちなので、演る方もやりがいがあります。鑑賞会で演ると反応が違うので、こっちも物凄くいい気分というと語弊がありますけど、楽しんで自分の存在意義を確認しながら芝居ができる。なお且つ、それでお客さんの方も喜んでくれて、私生活や仕事のエネルギーになっていると皆さん話してくれるので、こんなウィンウィンのどっちにとってもメリットしかない組織って素晴らしいと思います。僕は今後芝居を続けていきたいし、続けていきますし、そのうえでは決して無くなってはいけない、無くなって欲しくない。お互いにいい人生を歩むためにも僕は芝居を続けます。皆さんも活動を続けてほしいです。
 創造団体と鑑賞会2人3脚で舞台芸術を守っていく、大切なパートナー。同志と言う感覚で僕は今一緒に作り上げていく覚悟でおります。

インタビューアー

E-mailでのお問い合わせは、         鳴門市民劇場ホームページ
nrt-geki@mc.pikara.ne.jp
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