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早瀬栄之丞さんに

開演直前インタビュー

楽屋訪問100


 劇団前進座公演「ひとごろし」鳴門例会(2022年3月21日)で“コロス”をされる早瀬栄之丞さんを開演前の楽屋に訪ね鳴門市民劇場がインタビューしました。

早瀬栄之丞

鳴門市民劇場(以下鳴門と略) 「ひとごろし」と山本周五郎作品の魅力について。

早瀬栄之丞(敬称略 以下早瀬と略) 周五郎先生が書かれたものは沢山ありますけど、その中でも“滑稽もの”というジャンルに入るものです。一番最初に前進座で取り上げたときには、演出家が喜劇じゃなく笑劇と書いていたんです。笑劇のことはファルスというんですけど、一般的になじみがないので、今は喜劇としているんです。
 周五郎さんはもともと権力が大嫌いな方だったので、直木賞などいろいろな賞もすべて辞退され、この「ひとごろし」もそうですけど、書かれる小説も、名もない庶民を取り上げた作品が多くあります。この作品は、力というか武力に対していわゆる西洋の古い「目には目を」という力に対しては力で向かっていくという価値観ではなくて、力のあるものに対して違う価値観で向かっていって物事を解決していこうというテーマがあるんですけど、それを周五郎さんが心温まる、血を流さずに物事を解決するという。
 やっている方は喜劇と銘打っていますが、ことさらその喜劇というのを強調しているのではないんですけども、ただそういったテーマを楽しく観ていただいて、「ひとごろし」というタイトルが逆に皆さんの笑いを誘うというか、そういうスタイルなんです。
 これは偶然たまたまですけど今世界が混乱しちゃって、本当はそうあってはいけないんだけども、今の世界情勢とこの作品のテーマがぶつかってしまったものですから。
 リラックスして楽しんで観ていただく中で、そういうテーマを感じていただけたらなと思ってやっています。

鳴門 コロスについて教えてください。

早瀬 これは厳密にいうと古代ギリシャのコロスというところからきて、本来的な意味からいうとコロスは合唱、集団で別の状況を語ったりとか、主人公の心情を語ったりとかっていうスタイルなんですけど。厳密にいうとそういうスタイルの意味ではないかもしれないですけど、たった四人の出演者でいろんな登場人物の役をやります。普通の芝居はこの人はこの役と決めてますけど、そうじゃなくて、その四人の中で色んな役割分担があって、それが限定していない形で、四人で全部やりますよってスタイルをとっているので、演出家がコロスという風にしました。僕もメインは双子六兵衛ですけど、それ以外にナレーションも担当するし、若干他の登場人物もやったりするので、そういうスタイルですよってことで、あえてコロスとつけています。

鳴門 四人で30人以上を演じる秘訣と、音具のことについて教えてください。

早瀬 音具に関してはこのデジタル時代に、超アナログなものを使って芝居の中でもやっているんですけど、歌舞伎で使っているようなものを取り入れたりとか、昔ながらの、例えば雨の降る音は両うちわという油紙のむかしのうちわなんですね。本来ならそこに小豆がぶら下がっているんですが、今はビーズになっているんですけど、それをパラパラってやったりとか、蝉もタコ糸の先に竹の筒をくっつけて、グルグルグルグル回して蝉の音を出したりとか、そういった昔ながらの効果音を使って、皆さんに想像していただこうということです。
 音響も音楽をかけたりとか音を出すところもあるんですけど、それよりもアナログのようなものを使って、江戸時代の世界に皆様に入っていただき想像していただくという世界観の作り方です。
 30人を演じるということは、細かいところを全部拾っていくとそれくらいになるんですけど、例えば女優さん上原美咲さんは、僕の妹をやり、旅館の女将をやり、途中で昂軒に対するお茶をあげる旅館の人をやったりお侍役もやるし、一人ですごい数の役をやられていますけど。だから俳優のそういった奮闘ぶりというか、いろいろ声を使い分けたり音を楽しんでいただければと思います。

鳴門 鳴門の印象を教えてください。

早瀬 正直言うとですね、いつもホールとホテルしか印象がない。町の印象というのはあまりないんです。
 渦潮も一回見たことがあるだけなんですが、ただ来ている回数はここ最近立て続けにおじゃまして、その中ではちょっと元気を感じます。いろいろあって大変であったけど、盛り上げてもう一度というのを感じますしエネルギーを感じます。

鳴門 この世界にはいられたきっかけと前進座を選ばれた理由を教えてください。

早瀬 僕は生のお芝居というのは高校生くらいまで見たことがなくて、学校の鑑賞教室で一回だけ高校1年のときに“12人の怒れる男たち”を観ました。その時は話の中身にへーっと思ったんですけど、演劇についてはそんなに興味を持たなかったんです。
 高校3年生の大学受験の直前になって、NHKテレビで演劇をみて、劇に興味を持って、大学へ行って演劇サークルにでも入ろうかなんて思って、いくつかの大学を受けたんですけど、たまたま受かったのが日本大学の芸術学部演劇科でした。俳優じゃなくて演出コースというところに入ったんですが、日芸の演劇に入ったもんですから、大学に入って本格的に始めて、学生時代はほとんど授業に出なくて、仲間内で小劇場活動をやっていて、これが後につながるんですけど。
 小劇場活動と同級生に誘われてクラブで歌舞伎舞踊研究会って本格的に歌舞伎を実演するクラブに入ったんです。年に1回学園祭で発表するということをやっていた。学園祭の一環で学園内のホールでやるから無料公演なんですよね。歌舞伎なのですごく費用がかかるんですけどお客さんからお金を取れなくて、全部学生が自腹で1年間アルバイトしたお金を何十万ためて、一日に公演のために20万~30万出すということをやっていた。僕が4年生の時に1年後輩の会長が、お客さんからお金を取ってやりたいと言って、ついては、学校ではできないのでよそのホールを借りてきますといって借りてきたのが前進座劇場だったんです。それで前進座劇場で3本立ての昼夜2回公演をやりました。
 その時に前進座の人が見ていて、誰か前進座の養成所に入る人はいないかと声をかけてきて、その会長が僕がどっかの養成所を探していたのを知っていたので、僕は舞台にずっと立っていたんですけど、さっきも言ったんですが演出コースに入っていたので、演技の本格的な訓練を受けたことがなかった。それで自己流で舞台に立っていたんで、どこかの養成所に入ってちゃんと勉強しないといけないなと思っていたら、前進座の養成所に入るものはいないかという話を耳にしたので、それじゃ入れてくれるかなと思って試験を受けて、たまたま前進座に入って今に至っているということなんですけど。
 女性の所作も前進座に入ってから学びました。学生の時にもちらっとはやっていましたが本格的には前進座に入ってから丁寧に教わりました。大人になってからやり始めた人間でもいろいろ教えてくれますし、役もやらせてもらえるしそういう意味では有難いです。

鳴門 仕事以外の趣味が何かありますか。

早瀬 今は特別これが趣味ですって言えるものはないんですけど。
 コロナ禍になって半年近く誰とも接触がなくなったときに、もともと僕らの演劇活動って皆さんとこうやって直接触れ合っているというのが仕事みたいなものなんですが、それがピタッと閉ざされたとき、交流がないというのはこんなに辛いことなんだなって実感したので、趣味っていうのではないんですが、あちこちおじゃましてこうやって皆さんと交流して直接触れ合っているということかな。

鳴門 演劇鑑賞会に対する考え方と私たちへのメッセージをお願いします。

早瀬 3、4年前に東京の自宅に近いところの鑑賞会に入ったので会員でもあるんです。入って1年くらいでコロナ禍になっちゃって大変ですけど。
 ただ生の演劇を観るということを鑑賞会のようにただ観るというだけでなく、さっきの僕の言った楽しみというかな。感染症が怖くて人と接しないじゃなくて、それもわかりますがお互い人間なのだから、触れ合って交流してというそういう楽しみの場として、鑑賞会、市民劇場があってほしい。柳橋物語で松山に行ったときに、一人で何人も増やしたという会員さんがいたんですよ。たまたまその人が演劇が好きであったということもあるんですけど、どうやって会員さんを増やしたんですかと聞くと、「とにかく楽しいと声を掛けますって。もちろん観るのも楽しい、それから会に入ったらみんなでこういうことをやるのが楽しいよ、当日になったらこういうことやって、担当が集まって楽しいよ って。会に入ったらこういうことがあるということを説明しながらその一個ずつを、こういうことをやるのよ楽しいよってすべてに楽しいということをつけてやったら楽しいのだと。結局そういうことなんだなと思って、楽しんでやる、人とふれあって楽しいんだよってことで鑑賞会の活動を続けているし、それが演劇の原点みたいなとこだなって。そこを理解していただけると会がどう存続していくか膨らんでくるなって思います。

インタビューアー

E-mailでのお問い合わせは、         鳴門市民劇場ホームページ
nrt-geki@mc.pikara.ne.jp
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