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秋野太作さんに

開演直前インタビュー

楽屋訪問104


 ピュアーマリー公演「殺しのリハーサル」鳴門例会(2023年1月30日)で“アレックス”役をされる秋野太作さんを開演前の楽屋に訪ね鳴門市民劇場がインタビューしました。

秋野太作

鳴門市民劇場(以下鳴門と略) 久しぶりのサスペンス劇で最後にどんでん返しがあると聞いていますが、誰もストーリーを知らないので非常に楽しみにしています。ストーリーについては語れないと思いますので、今回は人間ドラマというのがテーマの一つかなと思いので、そのあたりで何かお話頂けることがあればお聞きしたいのですが。

秋野太作(敬称略 以下秋野と略) 雑談でよろしければお話します。
 新劇は真面目なものが多いので、ミステリーは例会では珍しいのでしょうね。ミステリーは大衆的なものと思われているのでしょうね。確かに大衆的ですよね。「犯人は誰だ」とは、これはどうかすると子供じみたなぞなぞゲームのようなものですね。
 僕らが若いころ、いい大人はミステリーなんか読まなかったんですよ。ミステリーは中学、高校を卒業するみたいにお遊びみたいなものと思われていたんですけども、最近では逆に何でもミステリー仕立てで、テレビもドラマも何か探偵や刑事が出てきて食傷気味ですが、あれは逆に作りやすいんですよ。人を殺せば犯人は誰だとドラマになる。この劇の中で僕は気にいってるセリフがあるんですけど、「ミステリーをやるというと、ある役者が「自分は血も肉もある芝居をやりたいと言うんですよ。確かに血は流れるんですけど肉付けが薄いミステリーが多いですね。筋書だけで見せてるドラマが多い。
 今回の劇はもともとテレビドラマのために書かれたものを舞台に詳しい人が手を加え、舞台用に書き替えたもので、私がみるところ舞台用の方がはるかに出来がいいのです。これは脚色した人が素晴らしく才能のある人です。ですから大人の鑑賞に十分耐えられるものになっています。
 アガサクリスティなんかも沢山書いているだけにピンからキリまで、いいものもあればくだらないものもあるんですけど、いいものは何度も再演されています。映画にも作り直されて、それをみると犯人は誰かなんていうのはどっちでもいいことで、そこに何が描かれているか、アガサクリスティの作品はもう犯人は分かっているんですよ。それでも映画でできるとまた観たくなる。新しいキャスティングでやられるとまた観たくなる。犯人は分かっている、だからいい作品というのはそういうものです。
 四国に渡ってから皆さん最後に大どんでん返しがあるらしいと広がっているようですが、これもね実はネタバレなんですよ。ネタバレという言葉がありますけど、犯人は誰だと教えればネタバレなのではなく、最後にどんでん返しがあるというのもネタバレなんですよ。プロデューサーが売り込みに悩むんですよね。最後まで読ませたくないし、大どんでん返しがあるというのも言いたくないんですよね。
 20年位前に仕事でニューヨークに行って、たまたま一日だけ夕方から空いたんですよ。芝居を観ようとホテルの人に何がお勧めかと聞いたら、ミュージカルかストレートプレイかコメディーかなどと聞くから、何でもいいから一番人気のよいものを観たいと言ったら、すすめてくれた作品があるんです。それはどういうドラマかと問うと、それは言わないんですよ。ニヤッと笑って、ニューヨーク市民はそういうことは言わないことになっていると言うんです。で、その作品を観に行きました。今思うとタイトルも意味深でしたよ。鮮やかなどんでん返しがあるわけです。でも観た人は言わないことになっている。ニューヨーク市民全員が言わない。大どんでん返しがあるとも言わない。だから僕も言わないけど、、何のインフォメーションもなく観に行きましたが、ショックでした。あれは無名の俳優さんでないと務まらない、そこがミソ。いやあびっくりしました。役者さんの層の厚さにも驚いた。オーディションで探せばいるんだなと。ところが日本でそれをやるという、で誰がやるのだろうと思っていると、配役が発表されて、、もうその時点で大どんでん返しにならなくなっちゃった。だから、ミステリーは難しいですね。

鳴門 今のお話で楽しみ方はある程度わかりました。共演者の人たちとの裏話があれば聞かせてください。

秋野 そうですね。共演者の方々は皆さんとても熱心ですね。非常に熱心です。芝居に対する姿勢っていうんですか。
 最近はいろんな分野の人が集まっているんで、そのせいもあるのか何かやりたいのか分からない人が多いんですよ。若い年代の人で何をやりたいのかわからないのもいるんですけど、このお芝居は珍しく皆さん演劇に対する訴求力というか力が強いです。一昨年から足掛け三年に渡って関わっているんですけど、やるたびに深まっている。その点では皆さん熱心でとてもいい共演者に恵まれたと思います。特に見所と言えば大至さんかな。何たって意外なところから来ています。お相撲さんって表現者なんですよね。裸でいろいろ表現している。地方巡業などでいろいろな芸を磨いている。もともと表現が達者だと思ってたんですけど、案の定非常に面白いですね。デビューは遅いですけどこれから本格的な俳優さんになっていったら面白いなと思って応援しているんです。
 僕はこういう年齢なんで、旅公演をしても皆といっしょに行動することは少なく部屋で休養しているんですけど、皆さんはあちこち見て回られてとてもいいチームになっています。

鳴門 昨日大塚美術館に行かれたそうですがどうでしたか。

秋野 びっくりしましたね。いろんな美術館に行ったんですけど仰天しましたね。疲れ果てました。何がびっくりしたって全部偽物ですからね。こんな美術館ありかと。美術を志す学生さんが勉強するために行くのであれば良いと思います。だけど偽物と本物では違いますからそういう意味ではねどうかなと思います。誰が考えたのか、あれは勉強にはなりました。感動はまた別ですけど、何といってもびっくりしました。
 絵画とかも好きですけどどちらかと言うと写真とか画集を見ることが多いんですけど、分かったつもりでいたのですけど、ある時大型の本屋に行ったとき時間があって、外に出るとセザンヌ展が開催されていて、セザンヌって少女の絵で甘ったるい女の子向きの絵を描いている人だなと、好きも嫌いもないんですけど見ようと思っていったんです。本物は感動しましたね。それは理屈ではないんですよ。いやー凄いなって、そこから向かってくる波動っていうか、本物って凄いなってその時思ったんです。残念ながら昨日はその波動がなかったんですけど、だから画学生は勉強になると思うあれを見たら。一か所であれだけのものを見られないもの。そういう意味では確かに存在意義はあるでしょうね。本物は全然違うそれは思いましたね。

鳴門 四国の印象を聞かせてください。

秋野 若いころテレビに出始めたとき、素晴らしい作品に出合いまして、それが松山出身の方の作品だったんです。早坂暁さん、一年間演らして頂きましたけど平賀源内の話で、そこで早坂さんともお付き合い頂きましたけど、何かとご縁がありまして松山あたりには何回か行きました。こちらは初めてですけど、徳島とかいろいろ廻るなかで、温暖な気候と瀬戸内海が波のない静かなところっていうのがわかりますよね。四国の人たちってこんな感じなんだというのがよくわかります。早坂さんは非常に心が大きな方で、素晴らしい天才でしたけど、どうしても「天下御免」という作品が頭にあるんで。私にとって代表作といってもいいぐらいのものです。あの頃の作品は残っていなくて残念ですけどね。テレビドラマの中でも本当に最高の作品でした。だから、四国というとどうしてもあの作品が頭に浮かびます。

鳴門 舞台とテレビ、映画に出ておられますが一番の違いを教えて下さい。
 例えば舞台であれば一つの作品ができたら100回、舞台で多いのであれば1000回。舞台も同じ作品を演じますが飽きないといいます。映画は一回撮影すれば同じですね。

秋野 それは演技のことでしょうか?
 違うと言えば違うんですけど、同じと言えば同じ。比べようがないんです。比べるものではないし比べても仕方ない。どちらがいいとか悪いとか性質が違うんです。舞台は歴史が長いです。土台になっているのは舞台です。舞台から映画には比較的楽ですが逆のコースは難しい。
 舞台は目の前で何かが湧き起こるのを観るライブなんです。目の前で何かが湧きおこるのを皆さん観に来る。ですから毎回同じ段取りで同じようにしゃべっておしまいというのでは何も起こらない。本当の舞台とは目の前で湧きおこる、何が湧きおこるかを観に来ているのだからそれが舞台の上にないと面白くない。それがないと面白くないと演っている方もあきてくる。
 僕の舞台生活の中でとても印象的なことがありました。ある舞台で本物の羊を使ったんです。動物は芝居ができないから本物は使いません、必ず人間がやります。羊は歩くだけだから僕が引っ張って出てきて引っ込む。ところが舞台に出てきて途中で止まっちゃったんですよ。よく見るとシャーシャーって、羊のおしっこって長いんです。予定にないことであわてて色んな人が処理して、次にまた同じことになって何回やっても同じところでする、お客さんは爆笑して、そこで湧き起こることにお客さんは喜ぶんですよ。お客さんは何を観たいのかというと何が起きているのかを観たい、そこがわかっていると飽きないんです。何回もできないんですよ。

鳴門 健康について気を付けられていることと仕事以外の趣味があれば教えて下さい。

秋野 俳優の仕事って面白いんです。お医者さんは病気のことを研究しますが人間のことはよく知らないです。俳優の仕事というのは丸ごと人間を研究するんです。その中に健康も入っています。この業界に入って人間に興味がないとこの仕事は続かないんです。この仕事を続けていくうえではやっぱり肉体面精神面その二つを研究せざるをえない。お医者さんは肉体面のことは診ますが精神面のことまでは診ない。どんな病気のも原因があるんです。俳優は演じる役を理解するのに人間の根底にある魂のようなものを探っていかないとよい表現にならない。昔は忙しい現場が多くて、舞台の仕事って楽しいはずなのに現場の稽古場は面白くないんですよ。怖い人がいて怒鳴られる、だからストレスが溜まりやすいんです。肉体的にもそうなんですけど精神的に非常にストレスが溜まりやすい。そしてもう一つ言えることは物語の表現はドラマや小説にしても人生の嫌なところに目を向けることが多いんです。笑うことよりも怒ったり怒鳴ったり泣いたり苦しんだりそういう所に目を向ける演出が多い。それを必死になって一生懸命本気になって泣いたり怒ったりしている。それを続けていると身体を壊すんです。皆さん経験あるでしょう。そんなことをやっていたら身体を壊しますよ。それを普通の方の100倍やっているんです。それを真剣に演っていたら身体を壊すんです。それをどうしたらいいのか?やっぱりそのストレス解消というのは本当難しいですけど主観を離れ客観を取り入れる表現をする。そうするとだんだん楽になってくる。シェークスピアが言っていますよ。「この世は劇場だ。人はみな役者だという心境になるといいんですよね。もの凄く上から客観的に見ている。みんな役者なんで生まれて死ぬまで役者さんとして現実的なところが。何か苦しいことがあるといやこれは面白くなってきたぞぐらいの精神。舞台もそうなんです。いやこれは面白くなってきたぞと思いながらやっていかないと。若い役者さんなんかでもノイローゼになったのを見ていると可哀そうで真面目なんです。主観的になってなかなか客観が取り入れられない。
 それまで、運動もしてきました。特にジョギングなんかもやったんですけど何かストレスがあると負けちゃうんですよ。お医者さんに行って揉んでもらったり。中年を過ぎていいものを見つけたんですよ。それはメディテーション、瞑想です。それで助かっています。これは素晴らしい。私は朝起きたら一時間瞑想する、夕方も仕事が終わったら必ず一時間瞑想をする。するとまた元気になる。僕の同輩はみなセリフを3行しかしゃべりません、5行もあったら仕事を断っています。瞑想を取り入れて10年くらい、とてもそのおかげで元気でここまでやってこれました。

鳴門 演劇鑑賞会へのメッセージをお聞かせください。

秋野 一言で言って甘えるばかりじゃいけないなと。
 久方ぶりを地方の演劇鑑賞会の公演に廻っていますけど、若いころは不測にもよくわからないで廻っていました。今思うと皆さん方の存在がいわゆる新劇というお芝居現代劇を支えてきてくれたんだなと凄く思います。本当に有難い存在だったんだなと思います。反面、原因はいろいろ語られる人がいるんでしょうけど、やっぱり労演の頃に比べれば大分様変わりしてきました。やっぱりね、我々作る側に責任がある。面白い芝居があまりないように僕は思うんです。僕の合格点をつけられる芝居があまりないんです。どの作品を選んだらよいか皆さんも悩まれるでしょうけど、何しろ芝居が面白くなければ、観に来てつまらなかったら帰って行くでしょう。そういう面で我々作る側が甘えてばかりで何もしてこなかった。
 このお芝居は新劇からちょっと毛色が違いますけど面白く、いい意味の面白さ、面白いってことは難しいですよね。何が面白いか、面白くやる劇団はいくらかあるんですけど、表面的な面白さではなく深いとこもあるそういう芝居っていうのがないのを申し訳なく思います。私は労演のころを知っていますから皆さんの努力には頭が下がります。皆さんの組織が世代を超えて繋がっていくためにも、僕らが頑張らなければいけないんです。分け隔てなく求められるままに自然に生きてきたらこうなってきました。でもいつも心にあるのは舞台俳優だということです。僕は劇団俳優座の出身で師匠は千田是也さん、演出家で俳優で、僕はああなりたいと思っていた。幸いなことに世の中に出たとたんに忙しくなって、それどころじゃなくなった。今この歳なって、まだまだいけますから。仲代さんなんか凄いですね、去年観ましたけど立派ですよ。僕より10年先輩、僕も百歳まで現役を続けたいと思っています。
 組織が世代を超えて続けていって欲しいと本当に思います。この芝居のもう一つ好きなセリフで<劇場は大衆のもの>だと言っています。今観劇費が高騰しています。歌舞伎なんか観に行ったら万札が二三枚飛んでいきます。そうでなくてやっぱり大衆のものでないとね。それを皆さんがまさに実現している。僕が協力って言うとおこがましいですが、できたらなって思っています。なにしろフリーなんで劇団にいればいいのですが、難しいといえば難しい。頑張りたいと思います。
 この組織が世代を超えて繋がっていくことを願っています。

インタビューアー

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