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髙橋美沙さんに
開演直前インタビュー

楽屋訪問107


 劇団文化座公演「旅立つ家族」鳴門例会(2023年7月10日)で“山本方子”役をされる髙橋美沙さんを開演前の楽屋に訪ね鳴門市民劇場がインタビューしました。

髙橋美沙さん"

鳴門市民劇場(以下鳴門と略) 演じている山本方子さんについて伺います。第二次世界大戦末期に朝鮮に渡るには大変な勇気を要したと思いますが、どのような気持ちで演じられていますか?

髙橋美沙(敬称略 以下髙橋と略) 誰が聞いても驚く事実ですよね。私達は歴史を知っていますから、これからの悲劇を準備してしまいますが、舞台ではその瞬間どういう思いであったのか、未来を知らない事を大切にして演じています。 東京大空襲があり、何処にいても不安だったと思います。方子さんを送り出すご両親もまさか、終戦後、朝鮮戦争が勃発するとは思っていなかった筈です。勿論不安だったと思いますが、希望を持ってくれていたと思いますし、何よりジュンソプへのひたむきな愛が両親にも伝わり、背中を押してくれたんだと思います。
 アゴリさん(ジュンソプのあだな)が朝鮮へ帰ってしまう時に台詞で「私は地の果てまでも追いかけて行きます。たとえそこがどんなところであったとしても」があります。地の果て…朝鮮…彼が待っていてくれるなら、そこが私の行くべき場所だったと思います。
 朝鮮へ行く事がただのワガママにならない様に“ごめんなさい。どうか行かせてください。”と強く思っています。その事がお客様にも伝わってくれれば良いと思っています。
 両親が工面してくれて、やっと手に入った下関行きの切符。しかし、下関からの船は出航出来なくて博多へ。そこでも2日待つことになります。東京出発から10日ほどかけてやっと、元山へ辿り着くんです。愛さん演じる方子さんも語っていますが、朝鮮へ向かう最後の連絡船になるなんて、知る筈もありませんよね。
 舞台ではただただ、必死です。アゴリさんと会える事だけを願っています。

鳴門 家族の愛と絆を描いた作品ですが、現在の我々に伝えたいことを教えて下さい。

髙橋 東京公演でこの作品を観ていただいたお客様が、「今の日本も色々とあるけれど、あの時代ではなく、今の時代に生まれて良かった。」と感想をくれました。確かに今の私達と方子さんとアゴリさん達が生きていた時代では遥かに違います。しかし世界ではまだこの様な境遇も現実にあります。他人事だとは思えません。想像と共に自分の身近な問題だと考えて観ていただけたら嬉しいです。
 そして、私が心掛けている事ですが、小さな幸せを感じる事です。幸せを感じると感謝にかわります。感謝の受け渡しが出来たら、平和への一歩になるのではないかな…と。例えば、重い荷物を持っているお婆さんが居て手助けをする事があったとします。そのお婆さんが、また誰かの為に助けます。そして、巡り巡ってその助けが、私の身内に返ってくる。そうやって、助けが感謝に変わり誰かの幸せに繋がっていく。大袈裟な事は難しいので、日々の生活の中で探しています。
 大きな幸せも大事ですが、小さな幸せが巡り巡る事って平和に繋がっていくことを少しでも信じて欲しいです。

鳴門 オブジェの2頭の牛のダイナミックな動きなどがこの舞台の見所の一つかと思いますが、今回の演出について教えて下さい。

髙橋 演出の金守珍さんは幕開け3分間が勝負だ。そこでお客様の心を掴むんだ、と仰っています。
 牛のオブジェは北朝鮮と南朝鮮を表しています。近いようで遠い国、朝鮮では暗く悲しい歴史があります。若い人達にもその事実を知って欲しい。その上で何が出来るのか、この脚本の上でどう生きられるのか。お客様に何を伝えたいのか。稽古場で金守珍さんはそう、私達に熱く語ってくれました。ですから、私達は映画や本や資料を観て出来る限り勉強して稽古をしてきました。
 金守珍さんは本当にエネルギッシュな方なので、無我夢中について行きました。そして、金さんはなるべく客席に役者の表情を見せたい、と仰ります。相手の顔をずって見て芝居をするのではなく、正面(客席)に向かって芝居をします。普段の私達新劇ではあまりしない芝居ですので最初は抵抗がありました。お客様は役者の顔が見たいんだ!その一言で私達も必死に答え、芝居を作っていきました。しかし、ただただ正面を見れば良いのではありません。理由が必要です。だから私達は台詞の中で正面を向ける言葉を探します。それと、心が変わる瞬間に正面を向いたりします。決意の瞬間、希望を抱く瞬間、客席に色々なものを想像して芝居をしています。例えば朝鮮、日本、愛する人、と大切な物を客席に想像して芝居を作っています。

鳴門 前回の鳴門の印象や今回楽しみにされていることがありましたら教えて下さい。

髙橋 私は文化座に入団して23年くらいですが初めて四国を廻ったのは20年前の「遠い花」の裏方での公演です。22歳の頃です。
 昨年、本当に久しぶりに四国へ来る事が出来ました。俳優座劇場プロデュース「人形の家」での出演です。初めて四国へ来た時に私の故郷、静岡と水が似てる!と思いました。疲れていた筈の身体が四国に来たら体調が良くなったんです。そんな思いを忘れられないでいました。水が似てる、って言われても誰も納得出来ませんよね。でも!四国と静岡が似てる事を証明してくれた方が居たんです。それは「人形の家」の主演、土居裕子さんです。裕子さんは宇和島出身です。その裕子さんに「四国と静岡、水が似てると思いませんか?」と尋ねたところ、「私も静岡へ行った時に四国を思い出したの!」「やっぱり!」と意見が一致しました。理由は…分かりませんが、似てるんです。だから今回も四国へ来るのがとても楽しみでした。そして、四国の山々が好きです。丸くて可愛いんです。昨年初めて食べた徳島ラーメンも印象的です。
 今回は子役の2人とアゴリさんとグサンさんと徳島のひょうたん島クルージングをしました。橋の下を潜る時に体を小さくする、あのスリリングがたまらなく好きです!子供達よりはしゃいでしまいました。

鳴門 この世界に入られたきっかけを教えて下さい。

髙橋 1990年、私が小学校3年生の時に静岡の富士宮市民劇場例会で文化座の「三婆」という芝居の現地子役をやる機会がありました。その時に舞台の袖で感じた、逃れられない現状と緊張感、私にしか出来ない事をこれからやるんだ、という思いが忘れられませんでした。
 それから日々の生活をしていく中で、舞台俳優という夢が生まれ、消える事はありませんでした。 18歳の時に上京し2年間専門学校で芝居を学びました。自分には向いていない、と不安もあり悩みましたが文化座だけは受けて、落ちてしまったら静岡へ帰ろうと決意しました。そして、無事に受かり今に至ります。
 入団15年目に富士宮市民劇場の例会「あかきくちびるあせぬまに」の作品で再び富士宮の舞台に立つ事が出来ました。その時に「ただいまー!」と終演後の舞台挨拶をさせて頂き、ご当地公演の夢が叶ったんです。

鳴門 仕事以外で好きなことや興味ある事を教えて下さい。

髙橋 人と会う事が好きだなぁ、とコロナ環境になってから改めて思いました。目と目が合って話をする事、日常会話から演劇論、美味しいものを食べて、乾杯する喜び。賑やかな場所が好みの様です。
 1人の時は映画やドラマを見る事が多いですが、実は部屋の間取りや時刻表や地図を見るのも好きです。間取りでは、この家族構成ならのこの家かな。とか、私がもしこの土地に住むなら、この間取りかな。とか、想像して楽しみます。時刻表や地図も同様に想像して旅をします。妄想癖があるんですね。恥ずかしいですが。

鳴門 昨年お亡くなりになった山本方子さんにお会いしたことがありますか。

髙橋 東京公演を観に来てくださいました。その時に一緒に写真を撮り、握手をして下さいました。2人の息子さんも来て下さいました。次男の泰成さんは今年の東京公演にも奥様と来てくださいました。その時に、泰成さんがどんどんアゴリさんに似てきているのでは…と思いました。
 映画「ふたつの祖国ひとつの愛」や「日曜美術館」でも方子さんを拝見する事が出来ます。方子さんは苦しい時代の事を質問すると「うーん、忘れてしまった。」「すぐに会えると思ってましたからね…。」と穏やかにお答えになっています。私はもしかしたら辛く苦しい事は話したくないのかもしれないと思いました。でも、アゴリさんとの若い時の思い出話をする時は頬を赤らめてコロコロと笑いなが答えてくれています。
 「旅立つ家族」の戯曲は最初、事実とは違うものでした。それは時代がそうさせたんです。方子さんはその芝居を観てショックを受けられたそうです。私達が作った「旅立つ家族」は史実を加え、よりありのままの2人の愛を描いています。方子さんのご両親は結婚に反対していなかったし、アゴリさんを捨てて日本へ逃げた訳ではありません。方子さんが2回も劇場へ来てくれた事、泰成さんが今でも応援してくださる事。それはこの「旅立つ家族」が真実だからだと思います。
 国を超えた愛、ジュンソプの絵、もっと沢山の方に知って欲しいです。この作品が近くて遠い国から、本当に近い国になるきっかけになると信じています。

鳴門 演劇鑑賞会の活動について考えられていることがあればお聞かせください。また、鳴門市民劇場の会員にメッセージをお願いします。

髙橋 先程私の演劇に進むきっかけの話をさせて頂きましたが、私は市民劇場っ子でした。事務局長が母の知り合いでしたし、母も祖母も会員でした。私は会員だった母にとても感謝しています。演劇を地元で観る事が出来なかったら今の私は居ません。わざわざ東京へ年に何回も芝居を見る為だけには行けませんから。だからとても大切で意義ある団体だと思っています。
 会員を増やさなければならない困難や、時間をたくさん費やさなければならない事、たくさんの苦労があると思います。でもやっぱり、この団体の一番の魅力は地元で本物の芝居が観られる!という事だと思っています。
 時代と共に生活リズムや価値観は変わっていきますが、感動は年を取らないと思います。その想いを絶対にノックし続けて欲しいです。必ず心にそのノックは響き伝わっていくと思います。創立メンバーの立場に立つ事は難しいですが、その方達が築いた情熱に近づく事は出来ると思います。劇団も同じです。私は芝居が好き。最後にはいつもそこに行き着きます。
 みんなで大切にしていきたいです。

インタビューアー

E-mailでのお問い合わせは、         鳴門市民劇場ホームページ
nrt-geki@mc.pikara.ne.jp
まで。