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藤原章寛さんに
開演直前インタビュー

楽屋訪問114



 劇団文化座公演「しゃぼん玉」鳴門例会(2024年9月11日)で“伊豆見翔人”役をされる藤原章寛さんを開演前の楽屋に訪ね鳴門市民劇場がインタビューしました。

藤原章寛さん"

鳴門市民劇場(以下鳴門と略) しゃぼん玉のように地に足がつかない“ダメ男”を演じられていますが、スマ婆やシゲ爺と交流する場面で苦労したこと、工夫したこと、またエピソードがあれば教えてください。

藤原章寛(敬称略 以下藤原と略) “ダメ男”というか非行に走ってしまう青年で、20代前半の青年時代は学校とか面倒くさいなというようなことで、そこから最初にひったくりをしてしまった。本当に些細なことがきっかけでも、それをやってしまったら、もうそのまま流れ流されて、そういう生活の方にどんどんどんどん入っていってしまい、安易に流されたまま生きている翔人を演じています。
 しかし、ひょんなことから椎葉村に辿り着いて、おばあちゃんとかと接することによって、最終的には変わっていくわけです。一番難しかったなと思うところは、この芝居全体が翔人のモノローグ、一人で喋ったりするところが多く、その中で心情の変化を表現するところかなと。最初は「なんだこの婆ちゃん」とか、シゲ爺にしたって、今でいえば凄いパワハラのようなことを言われたり、他の住人達も出てくるんですけど、ずかずかと入り込んできます。その中で美味しいごはんを食べたりとか、自然と接したりとかして少しずつ変わってくる。急激に何かが終わって変わるということではなく、深く考えたり、徐々に徐々に自然に変わっていくというそういう変化を凄く大切にしたいと思って演じています。
 あとは、山仕事とか実際にやったことがないんで、これは翔人と同じ気持ちでできたんですけど、例えば、キノコを採ってそれを普通に籠の中に入れたんです。そしたら、結構年配の衣装さんから新聞紙にやわらかく包んで入れないとキノコは崩れちゃうと言ってもらったり、長靴を履いていて砂が入ってくることがだんだんわかるようになってきたら、長靴を裏返して砂を出すとか、そういう細かい仕草とかは、先輩たちに教えてもらいながら、翔人と同じような感覚で学んでいきました。

鳴門 この作品の魅力を教えてください。

藤原 さっきの話と通ずるところがあって、ある日非行に走ってしまった青年の再生の物語と一括りにできると思うんですが、この「しゃぼん玉」は他にも結構魅力があり、それは、初演が2017年で、その時ですら実際の時代設定が2000年代前半くらいで、翔人自身もガラケーを使っていたりして、時代的にちょっと古いのですが、現代(いま)に凄く通ずるものが多く、むしろどんどんはまっていく作品だなと思います。
 今はネット社会になってきて、人との接し方というのが希薄になってきて、それが加速する社会の中で、人と人とがちゃんと分かり合うために、ある程度踏み込んでぶつかっていかなきゃいけないだろうし、婆ちゃんとか椎葉村の人たちのそういう密な接し方が描かれています。
 あと、今はパワハラと言われるようなシゲ爺の接し方(頭をはたいたりとか、それも過度であればいけないと思うんですが)が描かれているんですけど、そういった体で教える、それが絶対いいとは言いにくいんですけど、それが大切なことだったかなと思ったりします。
 今、失いかけているものがこの「しゃぼん玉」の中に描かれているので、青年がどのように変化していくかということにプラスして、人との接し方とか仕事に向き合う姿勢、シゲ爺から教わり山仕事をやっていくんですけど、その仕事と向き合う姿勢の中から、また自然に接したり、星を見たり大自然の中に生きていくことによって、少しずつ心が通っていくということが、観ていてとても懐かしいもののような感じで、それが魅力でもあるなと思います。

鳴門 昨年の「旅立つ家族」、2019年にも鳴門に来られていますが、その時の印象や今回楽しみにされていることを教えて下さい。

藤原 一番に感じたことは、会員の方々が凄く元気だということです。入団してすぐの時に鳴門の来たことがあって、その時には「渦潮」を見に行って船に乗ったのですが、その船が結構揺れて気持ちが悪かったなという印象があります。
 「旅立つ家族」「銀のしずく降る降る…」では、役が大きくなってきて、なかなか自由に行けなかったり、ゆっくりできる時間がなかったので、また渦潮は是非行ってみたいなと思います。今度こそ気持ち悪くならずに楽しみたいなと思います。

鳴門 この世界に入られたきっかけを教えて下さい。

藤原 僕は結構引っ込み思案だったり、赤面症だったりとか、あまり人の前に出るような感じではなかったんですが、高校の時にブレイクダンスを始めたんです。たまたま動画を見て人間にあんな動きができるんだなと思ってやってみたんです。そしたら、友達が教えてくれって言って、そこから友達も増えて、せっかくやったんだからと文化祭で発表したんです。それが人生において初めて自ら人前に出る体験でした。その時の拍手が凄く気持ちよくて、人前に出ることってこんなに楽しいことなのかなあと思ったんです。
 それから普通に大学に進学して、相変わらず引っ込み思案や赤面症が治らなくて、なんとかして治したいなと思って、大学在学中に社会人劇団に入ったんです。社会人劇団に入って人前で喋れば少しは克服できるんじゃないかなと思って、そこで児童劇をやったんです。「はだかの王様」の詐欺師の役を演ったんですが王様から隠れなくてはいけないシーンとかで、観ているのは子供たちなんで、子供たちが実際に声かけてくれるんですよね。「そっち行ったらあぶないよ」「王様が来るよ」という風に。それが何か嬉しくて、これまで稽古は自分たちだけでやっていて、それを実際に観てもらった時に、新たな発見があって、こうやって芝居も変わっていくのもおもしろいんだなと思ったんです。
 その時に役者というものをやってみたいなあと思いが芽生えたんです。でも、大学を卒業して焼き肉の叙々苑に就職しまして、新入社員の時は「叙々苑サラダ」を作るんですよ。ずっと野菜を切って、サラダを作りながら自分の人生のことに対してちょっと考え始めたんです。この先、サラダ場からスープ場へ、そして肉場で肉を切ったりと、いずれは料理長になる人生を思い描いていた時に、本当にこれでいいのかなと思い始めて、もしかしたらちょっと心残りだった役者に挑戦できるんだったら、なるべく若い時でなければ難しいかなと思ったんです。そして、一年間叙々苑で働いてから、芝居の道に進もうと決心したんです。 そこから、どうすれば役者になれるか調べました。社会人劇団で経験したので舞台をやりたかったんですよ。劇場の空気や一体感が好きなので劇団を調べると文学座さんは養成所があるし、養成所は二年間行って、そこから劇団員になれるかどうかはわからないということもあって、すぐに入れる劇団を探したんです。それで、今の文化座とキャラメルボックスとつかこうへい劇団と全然カラーが違う劇団を手探りで受けて、受かったのが文化座しかなくて入団したという感じです。 正直自分はキャラメルボックスが第一候補で、エネルギッシュで溌剌とした舞台をやる劇団なんですが、文化座の芝居を観た時、「何か自分にはちょっと重いし、戦争のこととかが多いし、しんどいかな」と思ってはいたんですが、せっかく入ったんだから頑張ってやっていこうと思ってやっていくうちに、自分の知識不足というか昭和の時代のことを知らなかった。これは自分の同世代もそうだし若い人たちにもこういうことは知ってもらいたいなあという想いが強くなったんです。 今、劇団に入って13年くらいになるんですが、そのまま活動を続けています。

鳴門 仕事以外で好きなこと興味のあること、趣味などをあれば教えて下さい。

藤原 趣味の一つは掃除とかですかね。
 一つの芝居を終えると切り替えをしたくなって、家の中を無性に掃除したり模様替えをしたりして、それで、気持ちも一緒にリセットするという感じです。掃除しているときが無心になれて楽しかったりします。
 あとは、イッツフォーリーズさんに出させてもらうことがあって、ミュージカルを初めて経験したんですが、僕は歌があまり得意ではなくて、その時歌の先生に頑張って指導をいただいたんですよ。エリザベートの内野聖陽さんも指導されている先生で、内野さんも最初は歌が苦手だったらしくて、その先生から「内野より歌えてるから大丈夫だよ」と励まされて、何とかミュージカルを演ったんです。その時に他の人たちはミュージカルをやられている方たちなので、普通に楽譜が読めるし楽譜を見ながら歌えます。でも僕は楽譜が読めないので、先生に歌ってもらって録音して耳コピして歌を覚えたのです。でも、音楽をちゃんとやっておいた方がいいなと思って、アコースティックギターを買ってギターを弾き始めるようになったんです。何回も練習して、そしたら楽しくなって、家でギターを弾いている時も心が落ち着くので、ある意味趣味みたいな感じになっています。
 だから今は「掃除」と「ギター」です。

鳴門 演劇鑑賞会の活動について、また鳴門市民劇場の会員にメッセージをお願いします。

藤原 僕が芝居を始めたきっかけは、社会人劇団で児童劇団に参加したことが大きかったのですが、その時一番に感じたことが劇場と一体感になる空気感が凄く良くて、生の芝居は演じる側もそうだし、観て下さっている方々の空気も感じてそれによって化学反応が起きていくのが楽しいし、刺激的なことだなと思っています。
 もちろん東京でも劇場の空気の一体感は感じられるのですが、鑑賞会の公演は東京と一味違っていて、皆さんが芝居を観なれている方が多いですし、とにかく、リアクションが大きいというか多いというか、演じている方としては有難くて、リアクションがあるとこっちもそれによって変わってきたりする部分もあり、鑑賞会で公演すると有難味と楽しさを同時に感じられるので、この鑑賞会を大切にしていっていただきたいと思います。
 コロナがあって自分たちも活動が制限されたりして、あの時に舞台自体このままで大丈夫なのかと自分たちも迷って、新しい表現の場が必要なのかとも思ったのですが、そこから少しずつ再開していって、特に前回観て下さった「旅立つ家族」でのカーテンコールは、鳴門でもそうですが、凄い熱い拍手を頂いて、生で舞台を観ていただくことは本当に幸せだし、絶対に必要なことだと思いました。
 コロナで大変だったというのは鑑賞会さんも勿論そうですし、劇団自体もそれで苦しくなったんですが、少しずつ回復している兆しはあると思うので、お互いにコロナに負けないようにこの演劇という芸術をもっともっと高めていけるようお互い頑張っていけたらなあと思います。 これからもよろしくお願いします。

インタビューアー

E-mailでのお問い合わせは、         鳴門市民劇場ホームページ
nrt-geki@mc.pikara.ne.jp
まで。