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岡本健一さんに
開演直前インタビュー

楽屋訪問117



 劇団民藝公演「グレイクリスマス」鳴門例会(2025年3月11日)で“権藤”役をされる岡本健一さんを開演前の楽屋に訪ね鳴門市民劇場がインタビューしました。

岡本健一さん"

鳴門市民劇場(以下鳴門と略) 劇団民藝(以下民藝)の代表作である『グレイクリスマス』に出演が決まった時はどのように思われましたか。

岡本健一(敬称略 以下岡本と略) 19才で舞台をはじめ、その頃はテレビや映像の世界でもやっていたのですが、とにかく舞台役者になりたい、なりたいと思い続けていました。
 そんな頃森光子さんの『放浪記』を観たんですが、奈良岡朋子さんが日夏京子役で出てらして紹介されたんです。その後親しくなって話をする機会があり、民藝という劇団を知り、奈良岡さんと大滝秀治さんが共演する舞台を初めて観て、号泣するくらい感動しました。民藝のことを調べたら、その当時年間200日間、旅公演をやっているです。ここに入ればずっと舞台ができるんだと思って、思い切って入団させてくださいと奈良岡さんにお願いしたのですが、あっさり断られました。理由は、「あなたと同じくらいの若い俳優たちが劇団にいるから、そっちの方が大事なの」。泣く泣く諦めました。
 それでもオファーがきたらどんな芝居でも全部受けようと決めて舞台をやり続けていたら、15年くらい前ですかね、パルコ劇場から『ラヴ・レターズ (奈良岡さんとの初共演)の話がきたんです。それから何年か経って念願の民藝からテネシー・ウイリアムズ作品(奈良岡さんとの二人芝居)の出演依頼があり、そこから、『グレイクリスマス』につながりました。ですからとにかく一所懸命つとめたいとずっと思い続けています。

鳴門 1995年に徳島で『グレイクリスマス』が上演され、その時は奈良岡朋子さんと伊藤孝雄さんが出演されました。今回の作品もとても楽しみにしています。この作品の見どころを教えてください。

岡本 作品のテーマ、斎藤憐さんの書かれているメッセージとしてまず第一に憲法の大切さを描いているんだと思います。それは押しつけとか自主とか今も続く論争よりも、憲法が私たちの生活に直接かかわっているということ。憲法をはぐくむ責任は私たち自身にあるということなのかなと感じています。
 私の演じる権堂という役は、社会の矛盾を背負っています。拡がり続ける経済格差、貧困、差別、人種問題。現代を生きる私たちにとっても大切なテーマが込められています。そんな重層的な作品を全国に届けられるのはやりがいを感じますね。
 実は皆さんが以前ご覧になった舞台とは脚本が違うんです。今回はオリジナル。奈良岡さんが出演された舞台は民藝版で、私も初演を観ていますが、完全に華子に焦点を当てた作品でした。だから権堂の印象が全くなくて、今回あらためて台本を読んだら、こんなにいっぱい喋っていてびっくりしたんです(笑)。

鳴門 岡本さんが権堂を演じるにあたり奈良岡朋子さんとも交流があったと伺っています。奈良岡さんからの演技指導やエピソードを教えて下さい。

岡本 本番前に稽古場で観ていただきました。お客さんに観せる前にまず奈良岡にお客さんの目として観てもらいたかったので来て下さいと無理をお願いしました。その際、全体の流れであったり、それぞれの劇団員の人たちへの指導もありました。自分に対してもいっぱいダメをいただきましたが、印象的だったのは「権堂の抱えている本当の深い闇、真っ黒などす黒い世界をもっと強く出した方がいい」。だからといって、「最初から悪(あく)を、悪いやつを演ずるのではなく、目には見えないどす黒さや野心をもっと根底に強く持って演じてみなさい」ということ。今でもそれはずっと心に強く残っています。

鳴門 今回、中国・近畿とまわられて舞台やその裏側でのエピソードがあればお聞かせ下さい。

岡本 これまで何度か訪れたところもあったのですが、街を歩いたりお店に入ったりしたことがなく、またそんな時間もなかったんです。今回はじめて地元のお店など行き当たりばったりでいろいろな所に行きました。するとだいたい「お兄ちゃん、何しに来ているの?出張?」と言われて、「まあ、出張です」(笑)みたいな話をしつつ、お店の人との交流があったんですが、向こうもあまり気づかないですよね(笑)。その場所その場所で「おすすめのところ」など聞いたりして、今回鳴門では「大塚国際美術館」に行きました。良かったですね。本当に凄いですよ。海外の美術館や東京で見るより絶対いいですね。「ここで見て、本物も見て欲しい」という美術館の主旨を知って、実際に本物を見た作品もあったのですが、ここの作品自体は(陶板なので)実際のものとは違うし、(本物は)油絵が主体でその凹凸とか立体感は陶板の中では出せない。でも、2メートルも離れればわかんないじゃないですか(笑)。それより、実際の美術館で飾っているのと同じシチュエーションで展示しているとか、大きさも忠実に再現しているところが、世界に誇れる美術館だと思いました。
 しかも(この美術館を)創ったのが地元の大塚製薬だったと知り、大塚製薬すごいなあなんて思って感動しましたね。大塚製薬のコマーシャルをやってみたくなりました。(笑)

鳴門 演劇鑑賞会の活動について考えられていることと、鳴門市民劇場の会員に一言メッセージをお願いします。

岡本 舞台を始めた30数年前は演劇鑑賞会のシステムが全然わからなかったです。噂では民藝や文学座が全国の鑑賞会をまわっているという話は聞いていたのですが、正直言って鑑賞会とか市民劇場とか例会って何だろう?何かよくわからないという感じでした。我々の所には(演劇鑑賞会が)どういったものかという情報が入ってこなかったのです。
 その後、2018年(東京公演)、2020年から旅公演で各地をまわり、長野や九州に行った時も自分のことで精一杯で、あまり気にしていませんでした。今年再び鑑賞会の例会をまわることになって、自分の意識を変えました。全国で舞台をやりながら、その街の人たちの活動に目を向けないのは何か間違っていると思ったんです。それから行く先々で拙いながら自分なりに考え、また会員の方々との交流の中から(劇団と鑑賞会は)なんて素晴らしい関係だと気づかされました。単純なのですが、東京で芝居を創ってそれを私たちが全国の人に届ける。皆さんが会員を集めてくれることによってそれが実現できているんだなあと実感できました。東京で芝居をやっているだけでは味わえない喜びですね。
 その日の舞台はその人(会員)にとって一生に一回の出会いなので、しっかり演っていきたいなと思います。ある鑑賞会の事務所に飾ってあった「一人で観ればただの趣味、三人集まれば文化になる」という言葉が好きで印象に残っています。民藝の演出家・丹野さんの言葉なんですって。本当にその通り、一人で観るより仲間を集めてという意識でこの活動をもっと拡げていって欲しいなと思います。 (鑑賞会に)僕がお手伝いできることがあればいくらでもしたいなあと思っています。入会していると年間に何本も舞台が観られるわけですよね。私も他の例会の人たちとつながりを持ってみたいと思ったりもします。とにかくこの(劇団と鑑賞会の)素晴らしい活動は、宇野重吉さんたちが中心となって種をまき、現在まで全国で続いているということを知り、やっぱり民藝は凄いなあと思っています。
 みなさん本当にありがとうございました。

インタビューアー

E-mailでのお問い合わせは、         鳴門市民劇場ホームページ
nrt-geki@mc.pikara.ne.jp
まで。